【解説】 連邦控訴裁での敗訴は、トランプ氏にとって敗北なのか? 大統領免責特権を認められず

アンソニー・ザーカー、マット・マーフィー、BBCニュース(ワシントン)

ドナルド・トランプ前米大統領は裁判で敗北した。しかしそれは、勝利への手助けをもたらすものでもある。

米首都ワシントンの連邦控訴裁判所は6日、トランプ氏の大統領在任時の行為について、同氏の大統領免責特権を認めないとの判決を出した。

しかし、この決定までに時間がかかったため、2021年1月6日の連邦議会襲撃に関するトランプ氏の連邦裁判は、無期限延期となった。

トランプ氏は、大統領在任中に無制限に行動できるという新たな大統領権限の主張には成功しなかった。だが、3月4日に予定されていた裁判は、連邦裁判所のカレンダーから削除された。

裁判がいつになるかは分からない。

元連邦検察官のニーマ・ラフマニ氏によれば、これは可能な限り司法プロセスの歯車に砂を投げ込むという、前大統領の戦略に沿ったものだという。

ラフマニ氏は、「この裁判を11月の大統領選後まで遅らせるのがトランプ氏の狙いだ」と指摘。「大統領選に勝利すれば、現職の大統領は起訴されないので」と説明した。

裁判の遅延が目的であれば、トランプ氏の弁護団の対策にはいくつかの段階がある。

まず、DC巡回連邦控訴裁の判事11人全員による判決の見直しの要請だ。だが、これは成功しない見込みが高い。今回の判決に参加しなかった判事8人のうち6人の支持が必要になるうえ、そうした要請を受け入れることはめったにないからだ。

控訴裁は一方で、そうした求めが検討される間、連邦議会襲撃の裁判を進めることができるという判決を出した。おそらく、さらなる遅延を避けるためだろう。

しかし、トランプ氏には他の手段が残っている。

トランプ氏は連邦最高裁に上訴できる。その場合、最高裁はこの裁判を見直すか、下級審の判決を支持するかの選択を迫られる。また、連邦議会襲撃の裁判を保留にするかどうかも判断する。

今回はこのルートが取られる可能性が高い。控訴裁はトランプ氏に対し、12日まで上訴できるとした。

ここでまた、裁判を遅らせたり、軌道修正したりする機会がさらに増える。

最高裁が請求を認めなかった場合、選挙妨害の裁判は通常のスケジュールに戻る。しかし最高裁がこの件を取り上げれば、どんなに早くても、裁判が選挙日の陰で行われることはほぼ確実となる。

トランプ前大統領が大統領選の結果を覆そうとしたとして起訴された裁判を担当するタニヤ・チャトカン判事は、11月の大統領選までこの裁判を棚上げにするかもしれない。

米ジョージタウン大学で憲法学の講師を務めるデイヴィッド・スーパー教授は、米司法の伝統からは、最高裁が前大統領の法的主張に従う可能性は低いと述べた。

スーパー教授はBBCに対し、「トランプ氏の見解では、アメリカ大統領の法的地位は、機能的には君主とほとんど変わらない」と指摘した。

しかし裁判の遅延につながれば、最高裁での敗北もトランプ氏にとっては新たな勝利に数えられるだろう。これに加えて11月の大統領選に勝利すれば、トランプ氏が持つ連邦レベルでの司法の懸念は、たった一筆で消えるかもしれない。

就任宣誓後に、裁判を中止するために司法省のトップを入れ替えたり、自分自身に大統領恩赦を与えるという歴史的な一歩を踏み出したりするかもしれない。

そうなれば、トランプ氏の2期目としては驚くべきスタートとなる。だが、4年前にトランプ氏の支持者たちが敗北に抗議して暴動を起こした国会議事堂の階段で、前大統領が就任宣誓を行うこと自体もまた、驚くべきことだ。

(英語記事 Donald Trump's failed immunity appeal is still a win for his delay strategy

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