スーパーラグビー強豪相手の快勝劇を引き寄せた堀江翔太の金言。今季限りで引退の38歳が試合前にかけた言葉と後輩たちへのメッセージ

大事なことが復習できた。自分より8歳年上の堀江翔太のおかげだ。埼玉パナソニックワイルドナイツの坂手淳史主将は、先輩の言葉を回想する。

「前半のスタート(が大事)。言い方はよくないけど、(相手はこちらを)いじめてくる、タフにくる。そこを、正確性を持って跳ねのけよう」

2月4日、本拠地の熊谷ラグビー場。今季新設したクロスボーダーラグビーの一戦で、ニュージーランドのチーフスと戦った。国際リーグのスーパーラグビーを代表するハードワーカーたちだ。

前半3分からの約3分間、ワイルドナイツは自陣で20フェーズものアタックを耐えた。若手主体のチーフスによる突進主体の猛攻を、ベストメンバーによるタフさと「正確性」で「跳ねのけ」た。球を回した先に防御ラインの網をかけ、破られた折も素早いカバーリングで事なきを得た。

元チーフスのラクラン・ボーシェ、南アフリカ代表経験者のルード・デヤハーといったスーパーラグビー経験者のみならず、24歳の福井翔大、26歳のディラン・ライリーのような若き日本代表戦士も鋭いタックルを決めた。

攻守逆転。ここから堅陣とキック戦術の組み合わせでペースを掌握した。結局、38-14という快勝劇のきっかけを作った堀江に、フッカーで先発の坂手はこう感謝する。

「スーパーラグビーを経験していない選手にとってはいい助言になった。僕らはスーパーラグビーを何回か経験しましたが、忘れている部分もあったので、思い出させてくれる助言でもありました」

堀江は身長180センチ、体重104キロの38歳。坂手がこれまで2度出てきたワールドカップへ2011年から計4度出場し、スーパーラグビーへは13年からの2シーズンはオーストラリアのレベルズ、16年からの3シーズンは日本のサンウルブズの一員として挑んだ。サンウルブズでは初代主将にもなった。

自ら「いろいろな(スタイルの)ラグビーを経験するのが大事」と話すのを裏付けるように、この集団競技への造詣は深い。ワイルドナイツでは、防御方式の構築そのものにも携わっている。
今回は51分に登場した。坂手に代わってフッカーに入る。システムを首尾よく運用すべく、常に声を出した。「インサイ(ド)OK! インサイ(ド)OK!」などと自分の立ち位置を伝えたり、味方へ指示を出したり。
個対個でも光った。

ファーストプレーではパスをもらうや、対面の防御の右肩へ左腰を当てた。軸を保って前傾し、低い姿勢で突っ込んできたタックラーを仰向けにさせてしまった。

守っては接点へ首尾よく絡んだ。ひとつ反則を取られたものの、それ以外のシーンでは総じて向こうのアタックのテンポを鈍らせた。

やみくもに頭を突っ込むのではなく、「レフリーとコミュニケーションを取りながらやっている」。自分にとっての正しい体勢で密集に腕、肩を差し込みながら、近くに立つレフリーに視線を向ける。

「目を見ながら、しゃべりながら、あかん(そのままでは反則を取る)と言われればやめます。まず、足の運び、身体の使い方で、どんだけ強い姿勢でいられるかを意識する。それができるから、フィジカル的にそこ(球際)に入れて、レフリーの顔を見ながら(プレーを続行するか、やめるかを)判断できる」

殊勲のボーシェとともにジャッカルを決め、自陣22メートル線付近右でのピンチを防いだのは62分。チーフス側のサポート役に左足を掴み上げられても、地上の楕円球に手のひらがついたままだった。

「普通に、ボールが見えたんで。2人なんで、獲れましたね。へへへへ」

信頼する佐藤義人トレーナーと二人三脚で、力任せにならずに力強さを示せるよう身体を鍛える。衝突時の身のこなしと相まって、海外選手とのコンタクト合戦を凪のように支配できる。

残念なのは、この人が今季限りで引退することだ。開幕前に宣言していた。後輩へのメッセージはこうだ。

「結構、僕、アタックでもディフェンスでもいろんな小技をしているんで、盗んで欲しいです。それをしているのかどうかもわからんような小技です。聞いてきてくれたらバンバン教えますよ。でも、それが重要かどうかは、後輩がそう思うかどうか。あれやれ、これやれとは言えない。向こうから来てくれないと」

中断中の国内リーグワンは、2月17日に再開する。すべてのプレーヤーにとっての教科書となりうる仙人がファンにパフォーマンスを見せるのは、長くてあと12試合だ(レギュラーシーズン10戦とプレーオフ2戦)。

チームメイトでなくとも、堀江の仕事ぶりを目で「盗」むのは楽しい。

取材・文●向風見也

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