【特集「やっぱりドイツ車が好き!」②】ドイツという国の道路事情が生み、育てた定番の味【フォルクスワーゲン ゴルフ】

ドイツ車の代名詞的存在とも言えるフォルクスワーゲン ゴルフ。コンパクトで実用的、さらに価格も手頃と世界で愛されてきた。その定番ともいえるゴルフをはじめ、ドイツ車とはどのようにして発展してきたのかを改めて見ていこう。(Motor Magazine 2024年3月号より)

ドイツ車らしく仕上がる理由はアウトバーンだけではない

「道がクルマをつくる」とは車両開発の場でよく言われる。ドイツ車が高速安定性やハンドリング性能に優れるのはアウトバーンがあるからというのもそのひとつ。

世界のコンパクトカーのベンチマークとして存在するゴルフ。現在は8世代目となる。50年間で3700万台以上を販売するドイツを代表する歴史あるモデルだ。

しかし、ドイツを走っていると市街地、郊外、アウトバーンのそれぞれのシチュエーションでドイツ独特の走り方があり、それらの道のお蔭で今のドイツ車がつくられると私は感じている。だからドイツ車らしく仕上がる理由はアウトバーンだけではないと思う。

ドイツの市街地に信号はたくさんあるが、ほとんどのドライバーが黄色信号で止まる。日本のように赤信号でも交差点に進入してしまうクルマが少ないのは、4方向すべてが赤信号にならず、こちらが赤になったら交差する道は青になるから衝突の危険性が高まるからだ。

また赤信号で停止線を越えたら写真を撮られ、あとから取り締まられるという事情もある。こんな状況で上手く走るにはブレーキペダルを踏んだらしっかりと止まれ、制動力のコントロールもしやすいように作る必要がある。そうした背景もあるのだ。

あらゆる状況下でクルマに要求される性能

郊外の道では制限スピードは100km/hになる。村から次の村までの間は標識が出てなくても100km/h制限だ。ちなみに村の標識が出たらそこからは50km/hになる。この郊外の道がすべて100km/hで走れるわけではなく、ある意味で日本の制限速度の考え方とはまったく異なる。

ノーマルよりやや大きめのエキゾーストサウンドを響かせながら駆け抜けてゆくGTI。

また郊外の道では信号機は少なく、交差点の多くはラウンドアバウトになる。ここでは中の環道を走るクルマを優先し、ラウンドアバウトに進入、小さな半径での左コーナリング、出口では反転して右コーナリングしながら加速という行程をスムーズにこなさなくてはならない。

そしてアウトバーンの工事区間では車線数を減らさず、車線幅を狭くして走行レーンを確保している点に注目している。このとき乗用車が走る車線幅は2メートルになり、80km/hという工事中の制限スピードで走るときには、正確なハンドリング性能が要求される。高速安定性より難題だが、これもアウトバーンでの要求だ。

全長4925mm、全幅1790mm、全高1465mmと扱いやすいサイズも人気のひとつ。

アウトバーンは速度無制限ではない。推奨スピードは130km/h。近年は燃費やCO2の問題意識も高くなったので、多くのクルマの流れは150km/h前後になっている。空いているところでは180km/hや200km/hで走るクルマも見かけるが、最近はだいぶ少なくなっている。

それでもドイツ人のアウトバーンでの移動量は多いので、ハイスピードでの燃費性能、高速安定性、ブレーキ性能などクルマに要求される性能は重視される。

ドライバーにはコーナーに合わせたスピードコントロールを求められる。つまりブレーキコントロールやクルマのコーナリング性能も重要な要素になるのだ。

フォルクスワーゲンを代表する日本でもポピュラーなゴルフ

フォルクスワーゲンを直訳すれば国民車になるが、より多くの国民に乗ってもらうために安いクルマを提供すると考えてはいけない。アウトバーンだけでなく市街地、郊外なども含めたドイツの道路事情に合ったクルマを提供するのがフォルクスワーゲンだ。

初代ゴルフ(1974〜1983年)。ビートルの後継モデルとして登場。デザインはジョルジェット・ジウジアーロによるもの。

その中でもゴルフはフォルクスワーゲンを代表するモデルといえる。生まれたのは1974年。RRのビートルからFFに大変革して、8世代まで進化し、2024年は50周年を迎える。

ゴルフIのデザインはイタルデザインに委託されジウジアーロが担当しデビュー当時から傑作といわれていた。そしてゴルフI、II、IIIでは多くの日本人がディーゼルエンジンを体験したはずだ。そして外車という偏見を持たれずポピュラーな存在に。ゴルフは日本人にとっても国民車になった。それだけ国内でもたくさん販売されたということだ。

ゴルフIVになって高級化路線を匂わせるクルマになった。車幅も広くなり3.2L V6エンジンを搭載したR32も登場した。

4代目ゴルフ(1997〜2003年)。内外装の質感向上と大型化された。3.2L V6搭載の高出力版のR32も加わった。

ゴルフVIIはMQBと呼ぶ新しいモジュールプラットフォームを採用し、ボディの高剛性化と大幅な軽量化を実現。日本車を抑え初めて日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した記念すべきモデルとして記憶に残っている。

快適な乗り心地も実現して日常の足として使える

現行のゴルフVIIIは2021-2022日本カー・オブ・ザ・イヤーのインポート・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した。

5ドアハッチバックのゴルフGTI。荷室容量は通常で374L、リアシートを倒せば最大で1230Lとなる。

今回、試乗したゴルフGTIはチェック柄を用いたセミバケットシートで伝統の“GTI”をアピールする。

初代ゴルフからラインナップするGTIは、そのジャジャ馬ぶりにドライビングの楽しさを感じていたが、現代のGTIはどっしりとした安定感だけではなく、快適な乗り心地も実現して日常の足として使うにも不便はない。

高級に、上品に、ここまで快適になるとドライバーのハラハラ、ドキドキは感じられなくなるのは、従来からのGTIとしてどうなのか? という疑問も湧く。

しかし、これは日本の道路で走っている中での話。ドイツ郊外のワインディングロード、アウトバーンを存分に走らせたときには、本来の価値を見出すことができるかもしれない。(文:こもだきよし/写真:井上雅行)

主要諸元 フォルクスワーゲン ゴルフ GTI

●全長:4925mm
●全幅:1790mm
●全高:1465mm
●ホイールベース:2620mm
●車両重量:1430kg
●エンジン:直4 DOHCターボ
●総排気量:1984cc
●最高出力:180kW(245ps)/5000-6500rpm
●最大トルク:370Nm(37.7kgm)/1600-4300rpm
●WLTPモード燃費:12.8km/L
●駆動方式:FF
●トランスミッション:7速DSG
●ブレーキ:フロントVディスク・リアVディスク
●タイヤサイズ :フロント225/40R18・リア225/40R18
●価格:514万4000円(税込)

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