「上級国民」の地位を捨て都落ちする北朝鮮の首都市民

北朝鮮の首都・平壌は、「選ばれし者」の都市だ。成分(身分)がいい、国や軍に長年貢献したなどの条件に合致する人だけに居住が認められ、インフラや食糧配給、移動の自由などの部分で、地方住民にはとうてい望めない水準の恩恵を享受する。

平壌の中でも市内中心部の30号対象と郊外の410号対象では差があり、金正恩総書記の一家や最高幹部が多く住む前者は電気や食糧の供給などで優遇されている。

そんな30号対象から410号対象に「都落ち」する人が増えているという。いったい平壌で何が起きているのか。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

北朝鮮の引っ越しシーズンと言えば4月と10月だが、今年は年明け早々引っ越す人が増えている。チプデコ(不動産業者)や安全部(警察)は、「今や年がら年中引っ越しシーズン」と言っているという。

「嘆願事業」などで炭鉱や農村などに半ば強制的に移住させられる人が増えているわけでもない。自発的な引っ越しだ。

もともと住んでいた中心部のマンションを売払い、そのおカネで郊外の住宅を買い、庭に野菜やトウモロコシを植えて住んだほうがマシだというのがトレンドだという。また、商売の元手もできるため、生活を維持する希望が生まれるという。

北朝鮮で引っ越しを行うには、安全部の住民登録課で退去手続きを行い、引越し先の安全部で再び住民登録を行う必要がある。また、入舎証(居住許可証)の発行も必要となるが、売買過程で問題がなければ、いくらかの「手間賃」を払えばすぐにやってもらえる。

不動産の売買は違法行為で、しばしば取り締まりが行われているが、儲け話の少ない北朝鮮で確実に儲かる分野だけあって、市場が消滅することはないようだ。

1月1日から15日までの住民登録課の資料には、中心部から郊外に、複数の部屋がある物件から1部屋に、マンションから平屋建てに引っ越す傾向が現れているという。うち半分は、中心部で長年住んでいた高齢の住民だ。

いいマンションに住みながらも、食糧を国からの配給にだけ頼っていたため、満足な食事が取れない。それで郊外に引っ越して畑を耕しながら暮らすというのが情報筋の説明だ。

一方、郊外から中心部に引っ越す人も少なくない。子どもに少しでも良好な教育環境を与えたいという若い夫婦や、平壌で生まれ育った男性と、地方の金持ちの家の出の女性の夫婦がそんなケースだ。

また、中心部のほうが配給状況が良いのではないかという期待から引っ越す人もいるという。たしかに中心部だけ配給があったり、市内全域で配給が行われても中心部だけいいものが配られることがある。それに加え、中心部に住んでいる方が成分が良いと思われる社会風潮もある。

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