『コブラ』のコラ画像を彷彿? 『バッドランド・ハンターズ』はマ・ドンソクのコラ映画だ

マ・ドンソクじゃねーか! というわけで、Netflixで配信が始まった『バッドランド・ハンターズ』(2024年)の話だが……断言する。これは『コブラ』のコラ画像の忠実な実写化である。

もちろん、この映画は『コブラ』と微塵も関係ないし、そもそも映画であってコラ画像でもないのだが。そして1本の映画として観れば、良くも悪くも、マ・ドンソクが軽快に人を殴って物事を解決する「いつものマ・ドンソク映画」の域を出ない。しかし、これは昨年韓国で大ヒットした『コンクリート・ユートピア』(2023年)の関連作品であり、それを念頭に置いて観ると、奇妙な面白さが発生するのだ。

『コンクリート・ユートピア』は、とてもシリアスな映画である。巨大地震で韓国はおろか世界が崩壊した中、たった一つだけ無事だったマンションがあった。当然、助けを求める人々がマンションを訪ねて来るが、マンションの住人らはこれを拒否。イ・ビョンホン演じる代表者のもと、よそ者を「ゴキブリ」呼ばわりして排除し、さらにマンション内部でも恐怖政治の嵐が吹き荒れる。『パラサイト 半地下の家族』(2019年)でも描かれた韓国の格差問題や住宅事情、そして群集心理の恐怖を描いたサスペンス作品だ。ブラックユーモアや悲惨なシーンも多く、ざっくり言えば真面目な映画である(今年のアカデミー賞の韓国代表に選ばれているそうだ)。

『バッドランド・ハンターズ』は、そんな社会問題や人間の暗部を描いた映画の世界に、あの縄文杉のような太く強い肉体を持つマ・ドンソクをブチ込んだのである。一応、直接の続編ではなく、同一の原作コミックからの派生作品で、「コンクリート・ユニバースの1本」という扱いだそうだが(コンクリート・ユニバースとは?)、大災害の中で文明が崩壊した中、たった一つだけ無事だったマンションがあって、そのマンションでは非人道的な所業が行われていた……という、シチュエーションは完全に『コンクリート・ユートピア』と同じだ。このため『コンクリート・ユートピア』的な世界観の中で、マ・ドンソクの世紀末救世主伝説が展開するのである。私が本作を観て「コブラのコラ画像の完璧な実写化」と思ったワケはここにあるのだ。

ここで一応、「コブラのコラ画像」について説明しよう。コブラとは、寺沢武一先生の傑作漫画『コブラ』の主人公である。全身真っ赤のコスチュームに、左腕にはサイコガン、どんな状況でもユーモアを忘れない宇宙一の伊達男、それがコブラである。その強烈なキャラクターゆえに、ネット上ではしばしばパロディ的なコラージュ画像が作られた。それは「『コブラ』とは別作品の悲惨な展開にコブラが乱入、粋な台詞と共にトラブルを解決する」というもの。これがコブラのコラ画像の定型である。前置きが長くなったが、本作『バッドランド・ハンターズ』は、そのマ・ドンソク版だ。つまり『コンクリート・ユートピア』で描かれたいびつなディストピアを、マ・ドンソクがマ・ドンソクらしく、鉄拳で爽快に解決していくのだ。普通の人間は刃物や銃を持っている相手には敵わないし、結局は数が多い方が勝つ。しかし、マ・ドンソクの投入で、社会の暴力バランスが完全崩壊。マ・ドンソクの鉄拳の前では、無法者も軍人も怪物も、ブチのめされて平伏するのみである。

さらにマ・ドンソク映画になったことで、マンションを支配する悪の大ボスも変わった。『コンクリート・ユートピア』では「家」にまつわる悲しき過去と、カリスマ性と狂気を抱えたイ・ビョンホンだった。しかし『バッドランド・ハンターズ』ではトカゲ人間を作っている科学者に代わっている(令和ロマンのくるまにそっくり)。もう作品全体の偏差値も急降下だが、期待通りマ・ドンソクはトカゲ人間すら「気持ち悪い顔しやがって」とブレない上から目線で鉄拳制裁! さらに洗脳状態に陥っている連中や、おかしくなっている連中も、マ・ドンソクが一喝したら正気を取り戻す。「『コンクリート・ユートピア』で描かれた苦労は何だったんだよ」と思いつつ、「でもマ・ドンソクが来たら全て解決するかもなぁ」と笑うしかない。ちなみにCGや美術関係の安さ、あまりにも軽快かつ牧歌的すぎるトーンが、いい意味での雑コラ感のアップに手を貸している。

私は、シリアスで陰鬱な映画を観ながら、「ここに〇〇(任意のアクションスター)がいて、拳で解決してくれたら……!」と思ったことが何回もある。それが遂に公式に実現してしまった。『バッドランド・ハンターズ』は、そういう稀有な作品である。今ここに、新しいジャンルの映画が誕生した。これぞまさしく、マ・ドンソクのコラ映画である。

(文=加藤よしき)

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