松村北斗と上白石萌音が会社の同僚を演じます。恋人でもなく友人でもない特別な存在として相手を救おうとする日常を描く、映画『夜明けのすべて』が2月9日(金)にロードショーされます。
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藤沢さんは社会人になったばかりの頃、職場でイライラして度々トラブルを起こしました。彼女はPMS=月経前症候群で、イライラが抑えられなくなって自分の行動を制御できず何度も迷惑をかけてしまいました。医師が処方した薬を飲みますが、副作用の眠気が元でまたトラブルを引き起こし、退職を申し出ました。
「私は自分のことがよく分からない。自分の心すらコントロールできない」
それから5年経ち、今は「栗田科学」という子ども向けの教材を作る小さな会社で働いています。
藤沢さんはいま28歳。隣の座席には同僚で25歳の山添くんが座っています。山添くんは、会社の仕事をつまらないと感じていました。藤沢さんから見ても山添くんはやる気がなさそうです。
山添くんはパニック障害を抱えていて、精神科へ月に一度、通院して診察を受けていました。山添くんは意を決して電車に乗ろうとしますが、どうしても乗れません。
「自分ではどうしようもないことが多すぎる」
ある日、藤沢さんは会社の給湯室で錠剤が落ちているのを見つけ、拾います。職場の席に戻ると、山添くんが発作を起こしていました。
「山添くん、これ」
藤沢さんがさっき拾った錠剤を山添くんに飲ませると症状がおさまりました。
山添くんは早退することになり、上司の指示で、藤沢さんが山添くんの自宅まで同行して帰宅を見届けます。藤沢さんが会社に戻ろうとすると、山添くんが藤沢さんに尋ねました。
「どうして俺の薬だと分かったの」
「私も前に飲んだことあるから。今はPMSで」
「知ってます。女性の」
2人とも自分の心が思い通りにならないつらさを抱えていました。
藤沢さんは自由に外出できない山添くんのために、保管していた自転車の汚れをきれいにして山添くんの自宅へ持っていきます。
「これ、よかったら使って」
「いえ、要りません。ホントに要らないんです。大丈夫ですマジで」
山添くんは首から下に青いビニールを巻いています。
「その格好どうしたの」
「いや今髪切ろうと思ってた.....」
山添くんは伸びた髪を自分で切ろうとしているところでした。藤沢さんが手伝いを申し出ます。
「私、切ろうか」
髪のカットは大失敗するのですが、2人は互いを恋人でもなく友だちでもない特別な存在として認め合うようになります。
山添くんは次の通院で、ドクターに尋ねました。
「PMSってどういうものなんですかね」
PMSについて書かれた本を山添くんがドクターから借りました。
職場で月に一度イライラが抑えられず感情を爆発させてしまう藤沢さんを見て、山添くんはこう言います。
「僕自分の発作はどうにもならないんですけど、3回に1回くらいだったら藤沢さんのこと助けられると思うんですよ」
原作は『そして、バトンが渡された』で本屋大賞を受賞した瀬尾まいこの小説です。
監督を『ケイコ目を澄ませて』で知られる三宅唱が手がけました。
山添くんを演じるのは松村北斗、藤沢さんは上白石萌音。ダブル主演です。
松村は、山添くんと自分の共通点について「あまりパキッとした性格じゃないところとか、つねに何か不満や苛立ちを抱えていて、周囲からはちょっと扱いづらいと思われる部分があったり、そういう部分は近いかもしれません」と語っています。
三宅監督によると松村は、役柄を演じるため自身の強い意志で髪を伸ばし始めていたそうです。「パニック障害についても書籍などで丁寧に調べられていて、頼もしいプロフェッショナルな俳優であるということがすぐにわかりました。ただ、彼のそうした熱意にこちらが甘えて発作を演じてもらうのはリスキーだと危惧していたので、あくまで慎重に探っていきたいと提案したところ、それもすぐに理解してくれました」(三宅監督)
上白石はもともと瀬尾まいこの小説が好きで、今作の原作本が出版されてすぐに読んでいたということで「映画化の話をいただいたときはとても嬉しかったです」と話しました。三宅監督は撮影を通じて「想像を超えて豊かな人物像を繊細かつ大胆に演じきってくれ、抜群にかっこいい俳優です」と上白石を称えています。
生きるのが嫌になるけれど、死にたくない.....自分の体なのに思い通りにならない内面の痛みを抱える2人が、相手を救おうとする物語。“夜明け”が大切なキーワードとなっています。映画『夜明けのすべて』は、2月9日(金)公開です。(SJ)