カメルーン人男性の「難民不認定」取り消し訴訟が棄却 「現地の証拠」の真偽が争われる

原告のクリストファーさん(2月7日都内/弁護士JP)

2月7日、カメルーン人の男性が難民申請を不認可とした国の処分の取り消しを請求した訴訟の控訴審で、東京高裁は請求を棄却する判決を言い渡した。

訴訟の経緯

原告はカメルーン人男性のフォン・フォン・クリストファーさん。

カメルーンの「英語圏」出身者として独立運動を行っていたが、政府による迫害から逃れるため、亡命した。

2012年に来日、同年10月と2018年6月の二度にわたって難民認定を申請したが不認定とされ、2018年11月に訴えを提起した。

2023年5月17日、東京地裁は、国による不認定処分は「迫害の恐怖を抱くような客観的事情に該当する」「原告が「難民」に該当することを看過してされたもの」として、処分取り消しを命じる判決を言い渡した。

一方で、控訴審で高裁は「被控訴人が難民に該当する理由として主張する事情はいずれも認めることができず…(中略)…入管法上の難民に該当すると認めるに足りる事情は認められない」として、原告の請求を棄却。一審をくつがえす判決となった。

訴訟の争点:カメルーン国内の証拠の真実性

原告側は、クリストファーさんがカメルーン本国の労働組合の構成員としてストライキを実施して政府を批判する反政府活動(独立運動)も行ったために政府から逮捕状を発行されていること、また逮捕による殺害のおそれがあることを主張。

自国政府から迫害を受けるおそれがあるクリストファーさんは入管法上の「難民」に該当するとして、不認定処分は不当であると訴えた。

被告である国側は、原告側が提出した逮捕状は本物ではない、またクリストファーさんが労働組合に参加していた証拠はない、と主張。

具体的には、原告側がカメルーン国内の弁護士を通じて入手した逮捕状、クリストファーさんが政府から指名手配されたことを報道する現地の新聞記事などの証拠の真偽が、訴訟で争われた。

一審では証人としてカメルーン本国の弁護士が証言を行い、地裁は証言・証拠の真実性を認めた。

控訴審にて、高裁は逮捕状について「スペルミスが存在する」「フランス語と英語とで異なる記載がされている」「罪状に対応する正確な罪名が記載されていない」などの問題を指摘する国側の主張を受け入れ、証拠には嫌疑があると判断。カメルーン本国の弁護士による証言は行われなかった。

判決後の会見では、原告側の吉田幸一郎弁護士は、高裁の判断は日本とカメルーン両国間の政府や法制度、文化背景などの違いを考慮していないと主張。

「“逮捕状とはこうあるべきだ”と日本の裁判官が頭のなかで考えていることが、そのまま当てはめられた」として、証人を呼ぶなど確認の手続きを取らずに判決を下した高裁を批判した。

「日本の制度とカメルーンの法制度はとても異なっている。カメルーンでは、多くの書類に多くの間違いがある。そういう制度のなかで私たちは暮らしてきた。そもそも、カメルーン国内ではおそろしい戦争が起こっている。」(クリストファーさん)

カメルーン国内の状況:英語話者(アングロフォン)に対する迫害

カメルーン共和国は250以上の言語があるともいわれる多言語国家だが、公用語はフランス語と英語。両言語の話者の割合は8:2であり、マイノリティである英語話者は「アングロフォン」と呼ばれ、差別や迫害の対象になってきた。

クリストファーさんもアングロフォンの独立を求めて運動を行ってきたが、多くの仲間が政府によって逮捕・殺害され、妻子も危険な目に遭っているという。

アムネスティ・インターナショナルによると、2022年2月の時点で、平和的な抗議活動を行っていた人たちを含むアングロフォン100名以上がカメルーン政府によって収監されていた。

同年4月に、アメリカ政府はカメルーン国内の戦争から逃れてきた人々に保護を与えることを決定。

また、2023年7月には、多数の勢力が衝突する戦争が起こっているとアムネスティが報じた。

クリストファーさんは「カメルーンで何が起こっているのか、世界の人々はまだまだ知らない」と訴えた。

クリストファーさんと吉田弁護士(2月7日都内/弁護士JP)

難民認定申請者たちが置かれている状況

日本に亡命してきた人々は、難民認定申請中は「特定活動ビザ」という在留資格で日本に滞在できる。しかし、就労が認められるのは最大で6か月間。不認可処分の取り消しを求めて訴えている場合、期限が過ぎると働くことができない。

クリストファーさんは路上生活を経験してきた。

「難民であること」を立証する責任は申請者の側にある。しかし、吉田弁護士は「そもそも難民になる人はお金を持っていない」という問題を指摘。本人は無報酬でクリストファーさんの難民認定申請をサポートしてきたが、そのような弁護士に出会える申請者の数は少ない。

吉田弁護士は日本政府が難民条約を締結していることにも触れながら、「なぜこちら側がすべて立証しなければならないのか。ハードルがとても高いということを痛感した」「個人の人生がかかっている。疑義の可能性がある、というだけで請求を却下するのは、難民条約を締結している国のやることではない」と語った。

日本の難民認定率は0.3%といわれており、世界的にも低い。クリストファーさんは「日本の難民認定がこれほどひどいものとは、世界中の人は知らない。自分も日本に来てから気が付いた」と訴える。

控訴審の結果、クリストファーさんの難民認定申請はまた振り出しに戻った。

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