「人生を変えよう、何かを学ぼう、なんて思いません。ただ、誰とも話さなくても自分と話している、そんな気持ちでひとり旅をしています」。50歳からひとり旅を始め、その魅力にハマったという料理家の山脇りこさん。 「50代はひとり旅適齢期」と語る山脇さんに、旅を楽しむ極意を伺いました。
お話を伺ったのは
料理家
山脇りこさん
やまわき・りこ●長崎県生まれ。東京都内で料理教室を主宰。テレビ、新聞、雑誌、WEBなどで和食をベースにした季節感のある家庭料理を紹介している。
料理家としての活動の他、旅や食などをテーマに取材・執筆も行う。
『台湾オニギリ』(主婦の友社)、『50歳からのごきげんひとり旅』(大和書房)など著書多数。
50歳を前に「ひとりで旅ができる人になりたい」
「私は旅行と読書以外に趣味がなくて。いつも『旅したいなぁ』という気持ちがあります」
そう話すのは、料理家・文筆家として活躍中の山脇りこさん。長崎の観光旅館に生まれ、子どもの頃から宿や旅を身近に感じて育った。たくさん旅に出るようになったのは結婚してから。歴史好きの夫と食いしん坊の妻。互いの趣味につき合いながら、ふたりで国内外を旅してきた。
そんな山脇さんに転機が訪れたのは49歳のとき。
「台湾通の方がいらっしゃる、女性ばかり8人ほどのグループ旅に参加しました。私は特に下調べもせず、みんなにただついていったんです。団体行動の途中で私がひと足先にホテルに戻ることになったとき、『ひとりで大丈夫?』と聞かれました。歩いて10分くらいのホテルに戻るだけなのに、私、『大丈夫?』って聞かれるような人間だったのか……。自分では大丈夫なキャラのつもりでいただけに、衝撃でした」
よくよく考えてみると、ひとりで旅行なんて久しく行っていない。もしかしたら私、もうひとり旅ができなくなっているのでは……?
「50歳を目前に、できればひとりで旅行ができるような人間になりたいなと思いました。そこで、ひとり旅を始めてみることにしたんです」
最初にひとりで旅したのは京都。
「長崎の実家に帰り、東京に戻るときに京都で途中下車して1泊しました。それが台湾旅行で心配されたとおり、もうダメダメで。京都にはもう何回も行っているのに、ホテルに着いたときからドキドキしてしまって。部屋のドアの内側にスーツケースを置き、他人が絶対入れないようにしたりして(笑)。
晩ご飯を食べるために決死の覚悟で出かけたものの、行きたいお店の近くを3周くらいして、『これはひとりでは無理』と。結局、好きなお店で鯖ずしを買い、デパ地下でも京都らしいものを買い足して、ホテルに戻って食べて。それでも『こんなことも、ひとり旅の醍醐味』と開き直り、ひとりホテルご飯を楽しみました」
ひとり旅に目覚めた「台湾旅」
台湾通として知られ、台湾に関する著書も多い山脇さん。
「海外ひとり旅には台湾がおすすめ。台北は公共交通機関も充実していて安心ですよ」
自分とふたりきりになる時間を求めて、旅へ
その後もフットワーク軽く、飛騨高山、奈良、沖縄、バンコク、パリなどへ。ひとり旅を重ねるにつれて、楽しみ方や旅の目的が若い頃とは変わってきたことに気がついた。
「若いときは、人とのコミュニケーションがあったほうが旅は楽しかったかもしれません。でも今は、一日中誰とも口をきかないというのも大好物。私はひとりで旅していても『私とふたり旅』だと、いつも思っているんです。自分とふたりきりになる時間って、実はなかなかない。SNSが普及して、常に誰かとつながり、相手がどんなに仲のいい友達でも何かしら着ぐるみを着て対応している。それを全部脱いで、完全に自分とふたりきりになる時間がすごく必要だと思ったとき、そういう時間をもてるのがひとり旅のよさだなと思うようになりました」
自分の行きたいところへ行き、急遽予定を変更したり寄り道したりしながら自由に歩く。そして自分と対話する。それがひとり旅の醍醐味。
「自分とふたりきりになると、優先順位がついたり、悲しいことをちゃんと悲しんだり、怒っていることを客観的に考え直したりできる。自分と向き合うことで心の凪が得られるので、旅は大切な時間です」
足を延ばして「台中・台南もおすすめ」
台北から台中、台南、高雄を結ぶ台湾高速鉄道(新幹線)で移動もラクラク。
「台北1泊、台南1泊の2泊3日旅でも十分楽しいと思います」
※この記事は「ゆうゆう」2024年3月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。
取材・文/本木頼子