GDPの米中逆転はあるのか=中国は不動産不況、少子化で減速へ―侮れない底力、「米を抜く」予想も

GDPの米中逆転は難しくなってきたとの観測が強まっているという。写真は中国の小学生。

躍進する中国経済と停滞する米国経済。過去十数年にわたり、このような見方が一般的だったように思う。私もその例に漏れず、近い将来、早ければ2020年代のうちに国内総生産(GDP)の米中逆転が起きるとの予測に現実味を感じていた。ところがここにきて、逆転は難しくなってきたとの観測が強まっているという。どういうことなのか。

アジアカップ、無得点で敗退

初めに私は読者に謝らなければならない。前回当欄に寄稿したコラム「なぜ中国人は日本代表を応援するのか」(23年12月29日付)で、サッカーアジアカップ・カタール大会の予想を披露したのだが、大外れとなってしまったからだ。

前回のコラムでは、中国紙のビッグデータを活用した予想記事を引用して「(日本代表が)頂点に最も近いことは間違いない」と指摘。さらにグループリーグを1位で突破して、準決勝ではオーストラリアかサウジアラビア、決勝は韓国かイランだろうと予測した。ところが、日本はグループリーグでイラクにまさかの敗北を喫して2位通過。そして、決勝で当たるはずだったイランと準々決勝で対戦し、あえなく敗れてしまった。不明を恥じるばかりである。

しかし、日本代表を棚に上げて言えば、さらに情けなかったのが中国代表だ。私は、うまくいけばグループリーグの首位通過もありうると予想したのだが、2分け1敗でグループリーグ敗退。そればかりか、3試合で1点も挙げることができなかった。無得点で大会を去ったのは中国とインドだけだ(人口世界1、2位の国がそろって得点ゼロというのも何とも皮肉だが)。

この大会、中東勢が地の利を生かしてベスト4に3カ国が進出したほか、苦戦が予想された東南アジア勢も、タイとインドネシアがグループリーグを突破して気を吐いた。そうした中での中国の無得点での敗退。自国のSNSには自虐的なコメントがあふれたそうだが、スポーツ大国を自負する中国としては、ぜひ避けたかった事態には違いない。

コロナ禍を経て減速ペース速まる

さて、中国経済である。スポーツと経済は全く別物ということは十二分に理解している。しかし、アジアカップでの中国チームの不振が、最近の中国経済と重なって見えてしまうのは、私の意地の悪さのせいなのか。いずれにせよ、2010年ごろまで10%前後の高成長を続け、その後も7%程度と好調を維持してきた中国経済が、コロナ禍を経て変調をきたしていることは誰の目にも明らかだろう。

国際通貨基金(IMF)はこのほど発表した世界経済見通しで、今年の中国の実質経済成長率が4.6%(23年は5.2%)に減速すると予測した。25年は4.1%とさらに低下する。不動産不況による消費の低迷が減速の主因だという。

経営危機に陥っている不動産大手の中国恒大集団に対して香港の裁判所が清算命令を出したり、乱開発されたマンションが各地で廃墟と化したりなど、中国の不動産業界をめぐるネガティブなニュースは枚挙に暇がない。資金繰りに困難を抱えるデベロッパーが全体の45%に達しているとの試算もあるという。こうした不動産業界の苦境が、金融システムの不安定化につながる恐れはないのか。不動産関連の不良債権を主因とする日本の金融危機を取材した経済記者OBとして、中国の状況には懸念を持たざるを得ない。

中長期の成長見通しも下振れ

不動産不況は、中国の中長期的な経済見通しにも影を落としている。このほど日本記者クラブで記者会見した福本智之大阪経済大学教授(元日銀北京事務所長)は、22年の時点で、今後15年間でGDPの規模が2倍になる「良好シナリオ」は確率20%、1.7倍にとどまる「リスクシナリオ」も同率で、中間の1.85倍になる「基本シナリオ」を確率60%と予測していた。しかし、不動産不況の深刻化など最近の情勢変化を受けて、現時点では「リスクシナリオがベースシナリオになった」という。

このシナリオでは、改革開放が停滞し、民間ハイテク企業も活力を喪失、「不動産市場が大規模に調整、金融システムも脆弱化」する。潜在成長率は、21~25年の5.0%から、26~30年は3.5%、31~35年は2.2%に低下するとしている。福本氏は、中国がGDPで米国を抜くことはあるのかとの質問に対し、為替相場が不変で推移するとの条件付きながら、「実は22年の時点で抜けないと思っていた。リスクシナリオになれば、さらに抜けなくなる」と回答。米中逆転は難しいとの見方を鮮明にした。

労働力の穴埋めに華僑を呼び戻す?

合計特殊出生率が22年で1.09(20年1.30、21年1.15)と、日本を上回るペースで進む少子化も大きな懸念材料だ。福本氏は、子どもが労働力としてカウントできるには時間がかかるとして、供給面への影響が出てくるのは先になるとしながらも、「人口動態の需要面への影響は無視できない。子どもがいれば家を住み替えようかとか、それに関する需要も出てくる」と述べ、少子化が減速の加速要因になるとの見方を示した。

中国の少子化といえば、エコノミストの藻谷浩介氏は、「中国では高齢者が爆発的に増加しており、少子化も止まりません。…日本はかつて労働力不足の穴埋めに日系ブラジル人を呼び集めました。中国も同じように東南アジアに広がっている華僑を呼び集めざるを得なくなると見ています」と予測した(原真人著「アベノミクスは何を殺したか」所収のインタビュー)。

確かに5000万人とも言われる華僑を呼び戻せば労働力不足の緩和に役立つだろうが、アジア各国で定着している華僑にとって中国に戻るという選択肢はあるのか。そもそも、中国本土とは異なる文化・教育環境の下で育った華僑が大量に流入するのを、中国当局が容認するのか。私には予測しがたい。

以上、中国経済にとってやや厳しい見方を紹介したが、「中国の底力は侮れない。不動産不況も少子化も克服して、米中逆転を実現する」という見方も根強い。はっきりしているのは、どちらに転ぶとしても、日本および世界経済は大きな影響を受けるということだ。世界経済の約2割を占める中国経済の動向を、引き続き注視していきたい。

■筆者プロフィール:長田浩一

1979年時事通信社入社。チューリヒ、フランクフルト特派員、経済部長などを歴任。現在は文章を寄稿したり、地元自治体の市民大学で講師を務めたりの毎日。趣味はサッカー観戦、60歳で始めたジャズピアノ。中国との縁は深くはないが、初めて足を踏み入れた外国の地は北京空港でした。

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