新型タイカン678km!新型マカン613km!!ポルシェが本気で取り組む電動モビリティの「ファストトラベル」戦略が、BEVの航続距離と未来を拡げていく【スタッフブログ特別版】

初のフル電動SUV「マカン」が本国でお披露目。初のフル電動サルーン「タイカン」が、初めての大幅改良を実施するなど、2030年までに新車販売フル電動化率80%以上を目指すポルシェの「初物尽くし」な取り組みが、続いています。より高く、より速く、より遠くへを目指してBEVの可能性を拡げるその「ファストトラベル」戦略の一端を、ひも解いてみました。

WLTPモードで従来型比約35%も航続距離を拡大

プレミアムブランドを中心に、BEVのハイパワー競争が激化しています。もっとも、ただパワーを引き上げればいい、というわけにはいかないのは内燃機関と同じ。バッテリーマネジメントや回生能力、さらに空力的なブラッシュアップに至るまで、さまざまな要素のバランスにも配慮した非常にシビアな効率向上が、BEVには求められます。

新型タイカンの北米での最終テストでは、12人の国際メディア代表が、南カリフォルニアの大都市ロサンゼルスとサンディエゴを結ぶ州間高速道路405号線と5号線を3日間にわたって4台の車を運転した。

ポルシェもまたかねてから、充電に要する時間の短縮と効率的な駆動マネジメントによる航続距離延伸の両立を目指してきました。いわば、電動モビリティの「FAST TRAVEL(ファストトラベル)」戦略」です。

「ファストトラベル」というと近年、日本でも国土交通省の音頭取りで進められている世界最高水準の空港サービスが思い浮かびます。最先端の技術・システムとの連携によって効率的かつ高度化された「旅」の形を追求する、取り組みを意味するものです。

「FAST TRAVELの推進」(国土交通省)より

ストレスフリーで快適な旅行環境の実現をめざし、訪日外国人旅行者・日本人出国者が利用する空路において世界最高水準の利用者サービスを提供するため、先端技術の活用等により、地方空港も含め、旅客が行う諸手続や空港内外の動線等を抜本的に革新し、空路の利用に係る一気通貫での円滑化等を通じた旅客満足度の向上を図る。

たとえば2024年2月7日に日本でも正式発表された、新型タイカン(ビッグマイナーチェンジ)は、かねてから、さまざまな条件での行動テストを通じて、その「ファストトラベル」性能の向上をアピールしてきました。「ストレスフリー」で「快適」で、「一気通貫」での満足度・・・というあたりには、空旅のそれとシンクロするものを感じます。

新型タイカンは北米で実施された最終テストにおいて、大型バッテリー搭載のロングレンジグレードが1充電あたり最大587kmを走り切ったといいます。デビュー時に公表されたWLTPモード(総合)にいたっては、最大で678km! 従来型に対して35%も伸びています。

高出力な急速充電を繰り返しても効率が低下しない?

北米における「real-world range(実際の使用条件下での航続距離)」の確認は、約120km/hでの巡航も含まれます。これは日本でも、公道で新旧タイカンを比較したなら、歴然とした差がつくことになるのかもしれません。

新型タイカンのテストチームは、州間高速道路で許可されている時速75マイルの最高速度で運転した。これは約120km/hに相当するという。

もうひとつ注目したいのは、走行テストでの充電テストに関する報告です。

「The new Taycan impresses with a real-world range of up to 587 kilometres」より(2024年2月2日配信)

タイカンは300kW以上の充電電力を何分間も発揮し、20分足らずで10%から80%の充電状態まで数回充電することができました。このテストでは、充電性能、充電時間、充電開始までの時間も大幅に改善されました。

テストの詳細は明らかにされていませんが、一般的に大容量のバッテリーは十分な充電に時間がかかると言われています。加えて、高出力の急速充電を続けると熱ダレ状態が発生、2回、3回と繰り返しているうちに充電効率が驚くほど低下してしまう場合もあるそうです。

しかし北米のテストで新型タイカンは、300kW以上という日本では望むべくもない高出力な急速充電を繰り返してもへこたれることがなかった様子。さまざまな意味で、充電効率が大幅にアップグレードされていることが窺えます。

日本向けの仕様に関しては、具体的な充電時間の向上率など、細部は今のところ明らかになっていません。パフォーマンスバッテリープラス(日本ではタイカン 4Sに標準搭載)の総容量は、従来の93kWhから105kWhに増加するとともに、充電性能自体は従来から50kW増の320kW(800V)まで対応できるとされています。

ちなみに全国のポルシェディーラーや東京、名古屋、大阪のランドマーク施設と連携して、独自に展開する急速充電インフラ「ポルシェ ターボチャージングステーション」は、国内法規最速の150kW(400V)での充電を、可能にしています。

これまでは、それを利用すると気温や車両の状態が理想的なら、従来型では30分弱の充電時間で80%(走行距離にしておよそ300km分)まで回復できるとされていました。

新型タイカンのバッテリー容量拡大と充電効率の向上によって、日本でロングドライブを楽しむ時に「充電」というストレスがどのくらい軽減されているのか、気になるところではあります。

新型マカンは多彩な空力デバイスでレンジを拡大

直接的に「ファストトラベル」を謳ってはいませんが、新型マカンの新デザインが実現したエアロダイナミクスの進化もまた、ポルシェBEVの「旅する高性能」向上に大きく貢献しているようです。

WLTPモード総合では最長613kmのレンジとなる新型マカンだが、市街地でのモードに限ると最長784kmまで伸びる。写真のハイパフォーマンス版マカン ターボでも最長765kmを実現。日常での使い勝手は、非常に優れていそうだ。

Cd値 0.25(現行型は0.35)というSUVとしては驚異的な空力性能を達成しているのは、アクティブとパッシブ、ふたつのエアロダイナミクスによって磨かれたデザインDNAです。大成功を収めたマカンとしてのアイデンティティを継承しながら、消費電力の高効率化とゆとりの航続距離を確保するために、十二分な空力要件の実現を追求しました。

積極的な空力性能向上につながるポルシェ・アクティブエアロダイナミクス(PAA)システムには、アダプティブリアスポイラー、フロントエアインテークのアクティブクーリングフラップ、完全に密閉されたアンダーボディのフレキシブルカバーが含まれています。

ホイールベースは、先代から86mm拡大され3m近い。取り回しが気になるところだが、マカンとしては初めてリアアクスルステアリングがオプションで設定されている。最大操舵角は5度で、コンパクトな旋回半径と優れた高速安定性を両立しているという。

フロントエアインテーク内のアクティブクーリングフラップ、ヘッドライトモジュール下のエアカーテンやリアのルーバーディフューザーもまた、攻め系の空力アイテムと言っていいでしょう。

さらに新型マカンでは、低めのフロントエンドや、横方向のティアオフエッジなど、シルエット的にも優れた空力性能を実現しています。タイヤの輪郭まで空力的に最適化されているうえに、開口部の小さなホイールを装備。空気抵抗を徹底的に低減することで、少しでも長く、遠くへ行く・・・を目指しています。

「田舎道を普通にクルージングしているとき」と、前置きしたうえで、ポルシェは「マカンは自動的に理想的な流線型になります。リアスポイラーがエコポジションに移動し、エアフラップが閉じ、シャシーレベルが下がります」と解説します。Cd値0.25は、この時、達成されているそうです。

日本仕様の400V急速充電でも優れた効率が期待できそう

新型マカンのアンダーボディに搭載されたリチウムイオン電池の総容量は100kWh、新開発の800Vアーキテクチャーで構成されるプレミアム・プラットフォーム・エレクトリック(PPE)の主要コンポーネンツとして、優れた充電効率を実現しています。

新型マカンから採用が始まったプレミアム・プラットフォーム・エレクトリック(PPE)。日常の使用に対する高い適合性と、卓越した走行性能を両立できる「優れた柔軟性」を備えているという。

800VアーキテクチャーのBEVとしては先輩格に当たるタイカンは、400Vの充電スポットでも150kWまで安定して充電することができる「HV(High Voltage)ブースター」を採用しています。一方、新型マカンは充電要件に合わせて、実際の充電が始まる前にバッテリー内の高電圧スイッチが自動的に切り替わる「バンクチャージ」システムを、ポルシェとして初めて採用しました。

このシステムでは充電環境に合わせて、搭載される800Vのバッテリーをふたつのバッテリーセットとして実質的に分割し、1機の400V充電ステーションでの並列充電を可能にしています。定格電圧400V×2セットに分けることで、HVブースターなしでも、最大135kWまでの効率的な充電を実現しているそうです。

400Vに対応している日本のCHAdeMOによる充電でも、しっかりそうしたグレードアップの恩恵を受けることができそうです。

結果、新型マカンは、すべてのグレードで非常に優れた航続距離を実現しました。マカン4で最大613km、マカンターボで最大591kmに達します。もちろんそれは、スポーツモデルに求められるパフォーマンスとのトレードオフで成り立っているわけではありません。

なにしろ出力的には大人しめなマカン4ですら最高出力は300kW(408ps)、最大トルクは650Nm。マカンターボにいたっては470kW(639ps)、1130Nmを発生しています。公表された0→100km/h加速がそれぞれ5.1秒と3.3秒、最高速度は220km/hと260km/h。内燃機関を搭載した現行モデルと比べるとマカンターボは、加速性能ではマカンGTSを、最高速度はマカンSを凌いでいます。

「瞬間移動」が実は本命?ライフスタイルも革新??

そういえば「FAST TRAVEL」にはもうひとつ、ゲームファンにはおなじみの「瞬間移動」という意味もあるようです。ゲーム世界を効率的に楽しむために、目的地への移動をテレポーテーションのような手法で素早く行うことができるスキルです。

どんな路面でも万全な性能を発揮するために、新型マカンもまたあらゆる環境で徹底した走行テストを350万km以上にわたりこなしてきた。

クルマで言えば、まるで瞬間移動するかのごとく、敏捷に動き回る様子がイメージされます。どちらかといえばポルシェの場合、こちらの「FAST TRAVEL」の方が、由来としては本命のような気もします。

システム出力が952psに達するタイカン ターボSは、0→100km/h加速をわずか2.4秒でこなすとのこと。現行型でも十分にその加速は「ワープ感」たっぷりでしたが、新型はさらに異次元へと突入しているのは間違いなさそうです。もちろん新型マカンも、SUVとは思えない「瞬間移動」の醍醐味を、味わわせてくれることでしょう。

「私たちの目標は、このセグメントで最もスポーティなモデルとして、完全電動のマカンを提供することです」と、マカン製品ライン担当バイスプレジデントのイェルク・ケルナーは述べています。

ポルシェは伝統的に、単なる高性能モデルではなく、日常の使いやすさや快適性にも配慮した性能向上にこだわり続けてきました。そういう意味ではこれまでもポルシェにとって「FAST TRAVEL」は、本質的なDNAとして受け継がれているものなのかもしれません。

そしてこれからは、タイカンから始まったポルシェの電動モビリティをめぐる「FAST TRAVEL」戦略が、マカンをはじめさまざまな形で具現化されていくことになります。そこに、どれほど革新的な「カーライフ」の未来が広がっていくのか・・・まずは2030年までの数年間に、注目したいと思います。

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