『相棒』右京と亀山の子供への接し方に表れた差異 殺人事件が起こらない珍しい展開に

世の中にはいろいろな人がいる。分かっているつもりでも、実際に人となりが分かってくるといい意味でも悪い意味でも「こんな人もいるのか」と驚くことが多々ある。『相棒 season22』(テレビ朝日系)第15話に登場したのは、アイドルを目指す女の子たちのマネージャーをしながら、将棋が好きな男の子を気にかけている男性。彼の行動を見ると子供たちの気持ちを尊重する善人にも見えてくるし、逆に子供たちを狙う悪人にも見えてくる。果たしてどちらなのだろう。

サイバーセキュリティ対策本部の土師(松嶋亮太)が、特命係に奇妙な動画を持ち込んでくる。土師いわく、スイスの高山・マッターホルンの山中で“完全犯罪”が行われた証拠映像だという。動画には、「善ちゃん」と名乗る配信者が何者かに襲われ、テント内で息絶える姿が映し出されていた。現場がスイスでは完全に管轄外だが、「いくら杉下さんでもこの事件の犯人を突き止めるのは不可能ですよね」と土師に言われ、興味を持った右京(水谷豊)は、亀山(寺脇康文)とともに独自の捜査を開始する。

さっそく、映像から「善ちゃん」が何者かをつきとめた右京は、勤め先の芸能プロダクションを訪問。善ちゃんこと善家光明(加治将樹)は、「夢を追う若者を支える仕事に就きたい」と社長に直談判し、6年前から同社で働いていたことが分かる。その事務所では現在、ジュニアアイドルグループを売り出し中で、善家はメンバーからも同僚からも慕われていたという。だが、調べていく中で、メンバーの1人である有紗(松岡美那)がストーカー被害に遭っていることを善家が会社に報告していなかった。

なぜ善家が急に登山を始めたのかは誰もよく分かっていなかった。善家は配信中に「宗介、見てるか~」と言っていたのだが、善家と宗介(伊奈聖嵐)という少年は、一緒に将棋を指す仲であったことが分かる。実は善家は、芸能プロダクションに勤めるまで、奨励会の会員として将棋のプロを目指していたようなのだ。右京たちが調べを進めていくと善家は宗介の才能を見込んで奨励会入りを勧めたが、宗介は「善家がマッターホルンに登れたら、奨励会に入る」と言ったのだという。

子供を目の前にすると、右京と亀山の性格の違いがよく出てきて、とても興味深い。亀山は自分が話しかけるか否かにかかわらず、その子が話し出そうとする時は必ず屈んで目を合わせようとする。また、その子に質問する時はなるべく簡単な言葉を使うようにしているようだ。そこに子供を馬鹿にする意図はなく、安心させたいという気持ちが見えてくる。亀山は自分が子供には、異様にデカく、強面の顔がさらに怖く見えることが分かっているのかも知れない。右京と亀山を比べれば亀山の方が子供には好かれやすいが、その理由はこういう些細な行動ができるからなのだろう。

一方の右京は子供に少し苦手意識があるよう。だが、どんな年齢の子でも紳士的で温厚な態度を崩さず、いつも敬語で接している。これはその子を1人の人間として扱っているとも言えるのではないだろうか。右京のそんなところが今回は、行動にもよくあらわれていた。前回、趣味であるチェスで改めてその強さを証明してみせた右京は、今週、チェスと似ているところもある将棋に挑戦。だが、やはり奨励会に入れる実力を持つ宗介のほうが強かった。「右京が勝ったら善家について詳しいことを話す」という条件だったのでこの時は、事件の核心に迫ることは聞くことができなかった。しかしその後、宗介がチェスもできることを知った右京は、チェスで勝負を挑み、今度は宗介をコテンパンに負かしたのだった。いくら事件解決のためとはいえ、やや大人げなくも見える。でも子供だからといって手加減せず、全力を出す。こんな大人も時には必要である。

アイドルもプロ棋士も目指す人の多さに対してその門は狭い。さらに子供は特に親の気持ちの変化には敏感だ。親の願いも期待も分かるから「目指したい」も「辞めたい」もなかなか言い出せなくなってしまう。どうやら善家はそんな子供たちと接する中で、自分にできることを模索していたようだ。

配信中に意識を失って倒れ、死んだように思えた善家は意外にも生きていた。殺人事件が起こっていなかったというシリーズの中でも珍しい展開に驚いてしまったが、彼が伝えたかった「自分で決めた道を、自分なりに努力して納得するまでやり切る」というメッセージは生きているからこそ響くものだろう。

(文=久保田ひかる)

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