金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命

韓国統一省は6日、北朝鮮国民の意識や経済状況などをまとめた「北朝鮮経済・社会実態認識報告書」を発刊した。2013年から22年までの間に脱北者6351人を面接調査した結果をまとめたもので、北朝鮮国民の間で金正恩総書記とその一族による世襲的な支配に対する不満が膨らみつつあるとの見方が示されている。慢性的な経済難と配給網の崩壊により、市場での食料調達が日常化していることも分かった。

この報告書の発刊を待つまでもなく、金一族に対する偶像崇拝が形骸化していることは、様々な情報経路で感知されていた。金一族と関連する「神聖な施設」の管理実態からもそれはうかがえる。

たとえば、北朝鮮が建国70周年を迎え、平壌で南北首脳会談も行われた2018年9月の出来事である。

このような時期には「雰囲気を乱す事件、事故を1件たりとも起こしてはいけない」として、国内に厳重警戒体制が敷かれる。そんな中、中国との国境に面した両江道(リャンガンド)の金亨稷(キムヒョンジク)郡で「大事件」が起きてしまった。しかもそこには「男女の関係」が絡んでいたから、関係者は穏やかではなかった。

現地のデイリーNKの内部情報筋によると、事件が起きたのは建国記念日を1週間後に控えた2日の午前0時ごろのことだ。郡の中心地には金日成主席、金正日総書記の巨大な太陽像(モザイク壁画)がそびえ立ち、夜もライトアップされているが、その照明が突如として消え、5時間にわたって最高指導者の姿が闇に埋もれてしまったのだ。

このような最高指導者に関連する事件は「1号事件」と呼ばれ、重大な政治事件扱いとなり、容疑者本人のみならず、周りの人まで厳しく処罰される。「1号」とは金正恩氏を意味し、彼の意に背いたり、反抗したりしたのと同等とみなされるのだ。

事件に青くなった郡当局は、総がかりで調査に乗り出した。

水銀灯と間接照明は消えていなかったので、原因は停電ではなかった。4つの照明に繋げられた電線だけが何者かによりペンチで切断された痕跡が発見されたのだ。

さらに調査を進めたところ、事件発生時刻と思われる1日の午後11時から2日の午前1時までの間に太陽像の警戒勤務にあたっていた保衛隊の男女2人が、仕事をサボって近所に住む友人宅で「寝ていた」ことが判明した。

「2人は友人宅の倉庫に武器を置いて部屋で寝た。午前1時ごろに太陽像に戻ったが、交代人員がやってこなかったので、保衛隊の事務室に武器を返納してそのまま家に帰ってしまったと言っている」(情報筋)

情報筋は詳しく突っ込んでいないが、最高指導者に忠誠を誓うべき時間に、2人は愛を確かめ合っていたのだろう。

この件は両江道の労働党委員会に「1号報告」として報告され、2人は軍の保衛部の待機室に拘留され取り調べを受けている。重罪は免れないと見られる。

一方、地元当局は事件の隠蔽に汲々としている。上部には事実を報告したが、地元向けには「大雨のせいで雨水が染み込み照明が消えてしまっただけの単純な事故」などと説明ししている。

地元民の間では当時、「当局は世論の動揺を防ぐために、虚偽の説明をして隠蔽を図っているのだ」と囁かれていた。

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