舞台「冒険者たちのホテル~ドラゴンクエストXに集いし仲間たち~」ゲネプロレポート!ネトゲのオフ会が題材のすれ違いコメディ

佐野瑞樹さんと佐野大樹さんによる兄弟演劇ユニット「WBB(ダブリュビービー)」とオンラインゲーム「ドラゴンクエストX」がコラボした舞台「冒険者たちのホテル~ドラゴンクエストXに集いし仲間たち~」のゲネプロが公演初日である2月7日に行われた。ここではその模様をレポートしていく。

「冒険者たちのホテル~ドラゴンクエストXに集いし仲間たち~」は原型となる「冒険者たちのホテル」が2013年に上演されたあと、何度も再演を重ねる人気の舞台。各キャラクターを今回の役者がどう演じるのか、その芝居の違いを見比べるのも楽しみのひとつだが、ついに今回は佐野瑞樹さん自らが主演の藤澤智彦役を務めているのが大きな見どころとなる。佐野瑞樹さんは今回の舞台で、作・演出、プロデュースも務めているが、本人は現在「ドラゴンクエストX」を1万3000時間もプレイしており、一方で演劇人生も30年を突破したそうだ。そんな佐野瑞樹さんだからこそ作り出せる「冒険者たちのホテル」の総決算とも呼べる舞台を見せてもらうことができた。

また、それ以外のキャストも藤澤智彦の相棒である齊藤役をMANKAI STAGE「A3!」やミュージカルの「刀剣乱舞」、「東京リベンジャーズ」などで活躍する横田龍儀さん、引っ込み思案な女の子であるあさつん役を虹のコンキスタドールの鶴見萌さん、あさつんの妹で元気な妹であるみーこ役をZOCの西井万理那さんが演じていたりと、実力派からフレッシュな顔ぶれまで多彩な役者が揃っている。西井万理那は第7期の初心者大使としておなじみだが、同じく第5期の梨衣名も本公演に出演。生配信でおなじみのメンバーたちの活躍が観れるのはファンならうれしいはずだ。

さて、ハードゲーマーである佐野瑞樹さんの手がける本舞台だが、全体としてはホテルのラウンジを舞台としたワンシチュエーションコメディとしてまとまっており、元ネタを知らなくても楽しめる作り。

ストーリーは「ドラゴンクエストX」にハマって執筆がおろそかになっている小説家・藤澤智彦が、ホテルでオフ会を開き、ゲームの仲間たちに自分の正体を明かそうとするものの、さまざまなトラブルが巻き起こるというもの。ホテルには藤澤の妻や編集者といった関係者と、ホテルのスタッフ、オフ会に集合した仲間たちが入り乱れ、すれ違いコントのようなものが繰り広げられていく。冒険の仲間である“パーティ”とホテルで行われる“パーティ”を勘違いするものや、リアルの職業とゲームの職業を勘違いしてかみ合わない会話が進行したりなど、さまざまなギャグで笑わせてくれる。

主人公の藤澤智彦は1日18時間も「ドラゴンクエストX」をプレイしている人物で、仕事の原稿はぜんぜん書かないし、妻にも愛想を尽かされて離婚を持ち掛けられるような男。担当編集には偉そうな態度を取っていたり、横柄な部分も目立つため、観劇しながら「この主人公は本当に大丈夫なのだろうか」と思ってしまったが、そんな彼が因果応報とばかりにさまざまなトラブルに巻き込まれていく姿は面白いし、後半ではゲームや仲間たちのことを大事にしていることも分かってきて、不思議と彼のことが好きになっていく。

“ゲームが悪いものである”と決めつけることはないし、かといって安直にすべてを肯定するような結末にもなっておらず、しっかりゲームに熱中する人と、そんな人たちの人生について向き合った内容になっている。結末のネタバレになるので詳細には書かないが、ゲームというカルチャーが我々の生活の至るところに根付いている姿が分かり、爽やかな気持ちになれるラスト。観劇後にネットゲームを遊びたくなる作りになっていた。

「ドラゴンクエストX」を知らなくても楽しめるように作られている本公演だが、プレイしているユーザーであれば楽しめる要素も多い。とくに原作の音楽の使い方はうまく、「やっぱりここはこの音楽だよね」「え、そこでこの音楽を使うの?」という両方の驚きで楽しませてくれる。

特技や呪文、アイテムなどもゲーム内と同じ実名で登場。「ギガブレイク」などの分かりやすいものから、意外ななアイテム、ゲーム内で使われるマニアックな用語まで飛び交うが、難しい言葉にはさりげなく説明が入るので安心して観ていられる。オフ会で集まったメンバーたちが繰り広げる会話に対して、意味の分かっていないホテルの関係者たちが説明を受けるような構図を用いていたりと、自然に疑問がフックアップされる。もちろん、なんでもかんでも説明するわけではなく、雰囲気で伝わりそうなものはそのまま進行し、話のテンポを崩さない。

ストーリー全体としても、ゲームが大好きでオフ会に集まってきたメンバーと、よく分かってないホテル関係者や出版関係者、そしてゲームを嫌っている藤澤智彦の嫁など、多彩な視点が組み込まれており、いろいろなキャラクターに感情移入でれる仕組み。最後はすべてのキャラクターが物語の中心に絡まっていく構成も見事だ。

とくに注目なのは、あさつんとみーこの姉妹。あさつんはゲーム内とリアルの自分にギャップを感じており、妹のみーこにオフ会の参加を変わってもらうことになるが、ふたりの息の合ったやり取りは必見だ。

また、意外だったのはRMT(リアルマネートレード)問題を取り扱っていること。なにがいけないことなのかを教えるとともに、RMTがゲーマーたちに与える虚しさを訴えることもしており、しっかり問題と向き合って解答を示している。RMTは触れずらい話題であるが、しっかり目を逸らさない姿勢には感心した。

終盤はある理由で「ドラゴンクエストX」の攻略を行うことになるが、なにも分かっていない人間の「ゲームしているだけですよね?」というツッコミに反して、本気でゲームに打ち込む仲間たちの姿が印象に残る。オンラインゲームに限らず、友達といっしょにゲームを遊んだことがある人なら、真剣な彼らに感情移入することができるだろう。また、忘れていた感情を思い出す人もいるはずだ。オンラインゲームならではのニクいサプライズもあり、リアルな人間同士で遊ぶ「ドラゴンクエストX」の良さが光るエッセンスも用意されている。

全体の公演は90分で休憩なしでノンストップで進行。笑って泣ける素晴らしい舞台となっている。「ドラゴンクエストX」のファンはもちろん、ワンシチュエーションコメディが好きな人は観劇に行ってみてはいかがだろうか。

公演は2月12日(月・祝)まで。また、来場者特典として「ドラゴンクエストX オンライン」ゲーム内アイテムがプレゼントされる。

公式サイト
http://www.w-b-bros.jp/

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