マイナス金利解除後の金利の道筋、経済・物価次第=内田日銀副総裁

Takahiko Wada

[奈良市 8日 ロイター] - 日銀の内田真一副総裁は8日、奈良県金融経済懇談会後の記者会見で、マイナス金利を解除した後の利上げの道筋は「今後の経済・物価情勢次第だ」と強調し、望ましいと考える利上げ幅や利上げペースについては言及を避けた。現時点でビハインド・ザ・カーブに陥っているわけではないとも述べた。

内田副総裁は同日午前のあいさつで、マイナス金利を解除しても「どんどん利上げをしていくようなパスは考えにくい」と述べ、緩和的な金融環境を維持することになるとの見通しを示していた。

日銀がもし、市場予想通りにマイナス金利解除に踏み切れば、2007年2月以来、17年ぶりの利上げになる。

日銀は06年から07年にかけて量的緩和解除、ゼロ金利解除、利上げと段階を踏んでいったが、当時との比較を問われた内田副総裁は、あくまで利上げ判断は今後の経済・物価情勢次第であり「その当時と比べるという発想をそもそもしたことがない」と述べた。

<「ビハインドザカーブに陥っているわけではない」>

市場では日銀が3―4月にもマイナス金利を解除するとの見方が強い。内田副総裁は会見で、物価目標の判断に当たり、春闘(春季労使交渉)で賃金が確認できるため「重要なイベントだ」と指摘した。春闘の集中回答日は3月の金融政策決定会合前にある。

一方、現時点で「ビハインド・ザ・カーブに陥っているということはない」と述べた。賃金・物価の好循環を見極める「時間的な余裕があるのか」との質問には、あいさつでの表現を言い換えると市場で誤解を生じる恐れがあるとして、明確に答えなかった。内田副総裁はあいさつで、賃金と物価の好循環を確認するため、さまざまなデータや情報を「丹念に点検していく」と述べている。

<バランスシート、今後のあり方は決まっていない>

内田副総裁はあいさつで、イールドカーブ・コントロール(YCC)など金融緩和の個々の政策ツールについて、具体的に修正のあり方を論じた。

記者会見では「変えるものを先に決めて、それにふさわしい状況になるか判断するのではなく、まず情勢判断が先にある」と述べ、大規模緩和の修正に当たっては「セットにするのか、1個1個なのかという議論はあまり発想の中にはない」とした。YCCを巡っては「いきなり国債買い入れをやめることはあり得ない」と言明した。

あいさつで言及がなかった、膨張した日銀のバランスシートのあり方については「現時点で決まっていない」と述べた。

日銀は物価の実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大を継続する方針(オーバーシュート型コミットメント)を掲げている。内田副総裁は、物価目標実現が見通せるようになったら、オーバーシュート型コミットメントについても判断すると述べた。

物価はオーバーシュート型コミットメント導入時の緩やかに上昇率を高めていくとの想定とは異なり、22年4月から輸入物価の高騰で上昇率が急に高まり、その後伸び率が縮小するプロセスをたどっているが、こうした当初想定と異なる物価の経路がオーバーシュート型コミットメントを巡る今後の議論に影響する可能性はあると付け加えた。

岸田文雄首相は6日の国会答弁で、政府と日銀の連携について、具体的な金融政策は日銀に任せなければならないが、構造的な賃上げと緩やかな物価上昇で経済の好循環を取り戻すことを目指す政府の経済政策を「日銀もしっかり理解してもらった上で日銀独自の金融政策を判断するのがあるべき姿だ」と話した。

内田副総裁は「政府と同じ考え方の中で政策を行っている」と述べた。

(和田崇彦)

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