【連載】箱根事後特集『萌芽(ほうが)』 第5回 5区 工藤慎作

1年生で唯一、三大駅伝全てに出場した工藤慎作(スポ1=千葉・八千代松陰)。出雲全日本大学選扳駅伝(出雲)と全日本大学駅伝対校選手権(全日本)では思い通りの走りができず苦しんだが、東京箱根間往復大学駅伝(箱根)では1年生ながら5区で区間6位と大健闘。「山の名探偵」として注目され、来シーズン以降の活躍にも期待が高まる工藤に箱根での感想を中心に様々なことを伺った。

※この取材は1月13日にオンラインで行われたものです。

さらなる成長へ

全日本で悔しい走りになった工藤。箱根では見事リベンジを果たした

――「山の名探偵」として注目されたことも含め、箱根後の周囲からの反響はいかがでしたか

山の名探偵という名前も含めて結構見てくださった方が多くて、箱根駅伝の影響力の大きさを感じました。

――解散期はどのように過ごされましたか

今シーズンは全体的に、試合後も休まずに練習をして調子を崩したパターンが多かったです。ですので、この解散中は疲労を取ることを第一に考えて過ごしていました。

――箱根前の練習期間で収穫はありましたか

箱根の約1か月前から調子が上がってきて、2、3週間前には強度の高い練習も余裕を持ってこなせるように戻ってきたことが収穫です。このようなことを常日頃からできるようにしていくことが、来年や再来年の成長のきっかけになるのかなと思っています。

――山に向けた練習で身についた力など、得られたものはありましたか

山では精神的に追い込まれるので、精神面が鍛えられました。マラソンでは30km以降はすごくきつくなると思うのですが、将来自分がマラソンを走る時に山と同じか山より楽か、と考えられれば今回の経験は生きるのかなと思います。

――出雲、全日本と調子が振るわない中での出走でしたが、今回調子を合わせるために意識したことなどはありますか

疲労を一旦抜いて、練習の強度も自分に合わせて少し落としたら調子が戻ってきて、チームの流れに合流できました。その時の自分にあった練習を選択できたのが大きかったと思います。

現状に満足せず次につなげたい

5区を走る工藤

――5区での出走が決まったのはいつでしたか

出走が決まったのは1週間くらい前ですが、準備自体は2週間前くらいから始まっていました。

――タフな走りが強みということですが、今回の山登りで生かせたと感じていますか

寒い環境は自分にとって得意な方なので、自分の走りができたというか。序盤と終盤の単独走の場面でもそれが生かせたと思います。

――先行する選手が見えない中でのスタートでしたが、そこでも自分の走りをしようと意識して走られたということですか

そうですね。その時は後ろに創価大の吉田響選手という前評判の高い選手がいたのですが、自分が抜かされても前の誰かを抜かしても焦ることなく自分のリズムを保つことを意識していました。

――レース前、花田勝彦駅伝監督(平6人卒=滋賀・彦根東)やチームの方からの声掛けなどはありましたか

「リラックスして自信を持って」や「絶対大丈夫」という声を色々な方にかけていただきました。

――実際レース前はリラックスしていましたか

割とリラックスはしていた方かなと思います。

――改めてご自身の走りを振り返っていかがですか

山の対策の時間が足りていなかったり、走力が足りなかったりなどの課題はありました。ただ出雲や全日本と比べて良い結果だったこともあり、自分の力を発揮できたのかなと思います。山であればここから1分から2分くらい伸ばせるビジョンというのは見えているので、あと3回の箱根に生きる走りでした。

――5区区間6位ということで、同学年の中では1番という結果をどのように捉えられていますか

区間順位自体は特別高くはないのですが、当日の状態を考えると結構出し切れたかなと思っています。同学年の選手もいますが、これから新たに山を得意とする選手が現れたり、今回出走した人が大きくタイムを伸ばしてきたりすることも十分にありうると思います。現状に満足せず努力していきたいです。

――箱根での収穫や課題はありましたか

5区区間賞の山本唯翔選手(城西大)とは3分ほどの差が開いていましたが、区間記録だから抜かせない、と考えるのではなくその差を受け止めて強化していきたいです。登りのセンスを1年間かけて磨いていくことと、平地での走力も上げていくことでさらなるタイムの向上を狙えるのかなと思います。

――給水担当はどなたでしたか

大平台地点では1年生の宮本優希(人1=智辯学園和歌山)、頂上付近では同じく1年生の武田知典(法1=東京・早実)がやってくれました。

――給水担当のお二方から何か声をかけられましたか

大平台地点では自分の区間順位などを教えてもらい、自分がどのくらいで走れているかを把握できました。2カ所目では「俺らのエースだから」と言ってもらって、それが力になりました。

――沿道の応援は聞こえていましたか

あまり聞こえてはいなかったのですが、やはり名探偵関係の応援が印象に残っています。

――往路のゴール地点である芦ノ湖の雰囲気を実際に体験してみていかがでしたか

箱根駅伝を現地で観戦したことがなくて初めて行ったのですが、ものすごい盛り上がりでした。山の上でも小田原付近と変わらない熱気があったので、そこで走れることは光栄だなと思いました。

――レースを終えた自分にかけてあげたい言葉は何ですか

この1年よく頑張りました、とかけたいです。

――往路の1区から4区の選手の走りをどのように見ていましたか

チームの状態が良くはなかったので、自分としてはもっとシード権ギリギリでタスキが来るのではと思っていました。しかし先輩方が頑張ってくれたおかげで、心に余裕を持って走ることができました。

――復路の選手の走りはどのように見ていましたか

出走予定の選手が出られなかった分、苦しい時間はあるだろうと思っていました。急きょ出走が決まった諸冨(湧、文4=京都・洛南)さんたちが周辺にいた大学に食らいついていて、4年生の意地を感じました。

――今回のチーム全体の結果をどのように捉えていますか

抜けた人の穴が大きかった分、上位を狙えるチームではなかったとは思います。今回の結果は良かったですが、もっと上位を目指さなくてはいけないと考えているので、来年以降は今回の順位を上回れるようにしたいです。

――1年生で三大駅伝全てに出走されましたが、そこについてはいかがでしたか

出雲と全日本でうまくいかなかったこともあって、なかなか厳しいシーズンになったというのが率直な感想です。箱根でも自分が求めていた結果が得られはしなかったのですが、立て直すことができました。これを来年のトラックシーズンや駅伝シーズンにどう生かすか、今回の失敗を糧に成長していけたらと思います。

――明大の綾一輝選手や国学大の田中愛睦選手など、高校時代の同期の方々も結果を残されましたが箱根後に話はされましたか

はい。3人で会って話をして、2人とも頑張っているんだなと刺激になりました。

――山登りの疲労は他の駅伝と比べて、疲労はいかがでしたか

状態が全日本などよりは良かった分、比べると精神的にも肉体的にも疲労は少なかったです。

スピードもスタミナも貪欲に求めたい

関東学生対校選手権で6位入賞を果たした工藤。トラックでもさらなる活躍を目指す

――自分に今必要な力はどのようなものだとお考えですか

根本的なスピードが足りていないと思うので、トラックシーズンではスピードを磨きたいです。また、青学大の方々はスタミナが強みなので、そのような選手たちにも劣らないような長距離に強い脚も作っていきたいです。

――これから本格的に練習が始まると思うのですが、どのようなことを意識して練習していますか

余裕を持って練習することが必要だと思っています。去年は夏合宿で疲れてしまったので、強化も大事ですが余裕を持っていきたいです。

――まもなく新入生が入部してくると思うのですが、どんな先輩になりたいですか

言葉というよりかは走りや背中で見せることができたらな、と思います。

――これから出場予定の大会があったら教えてください

次は学生ハーフ(日本学生ハーフマラソン選手権)などに向けてやっていけたらと思っています。

――学生ハーフまではハーフに特化した練習をするということですか <

今シーズンは全日本予選などもあるので、トラックにむけた練習をしつつ、ハーフも並行してやれたらと思います。 /p>

――トラックシーズンの目標はありますか

まだ具体的には決まっていないので、ここからの練習のでき具合でその都度考えていけたらと思います。

――今描いている駅伝シーズンの目標はありますか

出雲と全日本では、区間順位が(関東勢で)最下位付近だったので、次は上位で確実につなぐ走りをしたいです。箱根は、今年よりもタイムが上がるビジョンが見えているので、区間3位以内くらいにジャンプアップしたいです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 髙杉菜々子、飯田諒)

◆工藤慎作(くどう・しんさく)

2004(平16)年11月10日生まれ。168センチ。千葉・八千代松陰高出身。スポーツ科学部1年。第100回箱根5区1時間12分(区間6位)。対談では、初めて顔と名前が一致した野球選手である里崎智也さんから反応をいただき嬉しいです!と笑顔を見せてくれました。

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