世界経済フォーラムのCEO気候リーダー同盟、排出ギャップを埋める10の対策を公表

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大企業のCEOらが率いる世界経済フォーラムのコミュニティはこのほど、報告書『気候変動対策のギャップを埋めるための大胆な対策:政府と企業によるシステム変革を求める』を発行した。企業や政府に対し、漸進的な気候変動対策からシステム的な対策へと移行するよう呼びかける。報告書では、1.5度目標を達成するために必要な温室効果ガスの排出削減量と各政府が掲げる排出削減目標の排出ギャップ(差)を埋めるために、政府と企業がとるべき10の対策が示されている。(翻訳・編集=小松はるか)

世界経済フォーラムのコミュニティ“CEOによる気候リーダー同盟(Alliance for CEO Climate Leaders)”とボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が共同で発行した報告書は、COP28に先立って公表された報告書『気候変動対策の現状(The State of Climate Action)』を補完する内容だ。

報告書の分析によれば、個々の気候変動対策は増えているが、それらを合わせても必要なシステム変革のレベルには達していないという。世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えるために必要な排出削減量と各国の目標・政策には600ギガトンを上回るギャップがあり、政府はより強力な対策をとることが求められている。

一方、世界最大手の1000社に関するCDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)のデータに目を向けると、世界のCO2排出量の10%以上はその1000社のサプライチェーンから出ている可能性がある。それはつまり、世界の最大手企業は大規模なシステムインパクトをもたらすことができるということだ。

世界経済フォーラムで気候アンビション・イニシアティブの責任者を務めるピム・ヴァルドレ氏は、「国連の国際的調査や今回のレポートの冒頭部分は、気候変動対策に大きなギャップが存在することを示している。我々はそのギャップを縮めるべく直ちに実行に移行し、大きなインパクトをもたらす緊急行動に力を注ぐ必要がある。その実行には、システム全体の変革を実現する適正な政策やテクノロジー、金融対策を推進する官民の行動が求められる」と語る。

昨年開かれたCOP28では、2030年までに再生可能エネルギーを3倍、エネルギー効率を2倍にすることに世界が合意し、一定の進捗が見られた。しかし、報告書は公約を実現するにはさらなる取り組みが必要だと結論づけている。

“CEOによる気候リーダー同盟”は、各分野や地域のトップ企業120社以上のCEOが参画するコミュニティだ。参画企業の総売上高は4兆ドルを上回り、従業員数は1200万人を超える。同盟は、世界経済フォーラムの年次総会であるダボス会議に参加した決定権を持つ人々に向けて、漸進的な取り組みから移行してシステムを変革し、飛躍的なインパクトをもたらす取り組みを行うよう呼びかけた。

BCGのグローバル会長であり、同盟のチーフアドバイザーを務めるリッチ・レッサー氏は、「COP28では進展が見られ、多くの企業は気候変動対策にすでに着手しているが、個々の総和では不十分だ。企業は高コストや高金利、顧客の支払い意欲の低さ、許認可や規制の欠如といった壁に直面している。今回の報告書はそうした課題に対する答えでもあり、内部からシステム変革を行う実践的な対応例が紹介されている。すべての政府・企業のリーダーが即座に連携して取りかかれば、人類に必要な規模のインパクトをもたらすのに大いに役立つだろう」と述べる。

企業と政府が取り組むべき10の対策

【企業の対策】

企業は社内での取り組みを超えてシステム全体に影響をもたらすインパクトを推進できるし、そうするべきだ。報告書はより大きなインパクトをもたらす5つの行動を紹介している。

1) サプライヤーの脱炭素化を加速させる。
CDPの資料によると、世界の排出量の10%以上を世界の最大手企業1000社が排出しているとみられる。
2) 顧客がより持続可能な選択肢をとれるようにする。
多くの製品は、それぞれの排出量の5割を削減しても最終価格への影響は1%未満。
3) 特にサプライチェーンで課題のある部分において、同業者と連携して変化を加速させる。
実際、10社もしくは10社以下が多くの主要マーケットの40%以上を支配している。
4) 産業の垣根を超えたパートナーシップ、特に規模の大きい購買グループに参加する。
大企業1000社の資本支出や購買の10%以下を動員し、気候変動対策資金の不足を補う。
5) より大胆な政策を提唱・支援する。
InfluenceMapによると、今日95%のグローバル企業の政策提言はパリ協定と整合しないものか、曖昧な印象を受けるものだ。

【政府の対策】

政府には公正かつ社会的に受け入れられる方法で緩和策を実行する大きな責任がある。報告書は、政府が600ギガトン以上の排出量ギャップを埋めるために行うべき5つの優先事項を挙げている。

1) ネットゼロ目標を2050年もしくはそれ以前に前倒しするほか、短期目標を増やし、高所得国から低所得国への財政・技術的支援を増やす。
2) 炭素の価格付けを行う。
3) 資金供給とインセンティブを倍増させ、公共調達を持続可能なものにする。
4) 許認可のリードタイム、サプライチェーンの障壁、スキルギャップ、社会への不信感といった障害を取り除く。
5) 進捗が遅すぎる場合でも、より抜本的な対策を考える。例えば、ハードテクノロジーの禁止、もしくは大規模な気候変動適応策と炭素除去への投資など。

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