生分解性プラスチックは深海でも分解される――東大など有人潜水調査船「しんかい」で実証

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水深約700〜5500メートルの深海にも生分解性のプラスチックを二酸化炭素と水にまで分解する微生物が多数存在することが、有人潜水調査船「しんかい」を用いた調査で分かった。東京大学や国立研究開発法人海洋研究開発機構などが実証研究を行ったもので、生分解性プラスチックが深海でも分解されることが判明したのは世界で初めて。1月末に国際科学専門誌「Nature Communication ications」のオンライン版に成果を発表。プラスチックは世界的に生産量自体を減らすとともに、繰り返し使えるリユース型へと転換することが求められているが、調査チームは、今回の研究結果が「製品として使用中は優れた物性を持続的に発揮し、使用後、仮に海洋に流出した場合には可能な限り速やかに分解する高性能な生分解性プラスチックの開発につながる」としている。(廣末智子)

海洋研究開発機構が保有し、水深6500メートルの深さまで潜ることができる有人潜水調査船「しんかい6500」(左)により、生分解性プラスチックを日本近海の深海底に設置している様子

調査は東京大学と海洋研究開発機構、群馬大学、製品評価技術基盤機構、産業技術総合研究所、日本バイオプラスチック協会が実施。ポリエチレンやポリプロピレンといった従来の汎用プラスチックと、近年、開発が進むさまざまな生分解性プラスチックをサンプルとし、それらを「しんかい6500」と、フリーフォール型深海探査機「江戸っ子1号」を用いて、水深757メートル〜5552メートルの日本近海5カ所の深海と、東京湾に面した横須賀市の岸壁(水深5メートル)にそれぞれ3〜14カ月設置し、重量や形状の変化、表面に付着した微生物を解析する方式で行った。

研究の前提として、生分解性プラスチックには大きく分けて、自然環境中に存在する微生物が分泌する分解酵素によって二酸化炭素と水にまで分解される “微生物産生系”と、ポリ乳酸などの“化学合成系”、そして、セルロース誘導体などの“天然物系”の3つがある。しかし、海洋プラスチックごみが最終的に行き着くとされる深海環境において、化学合成系ではない生分解性プラスチックが本当に生分解されるのか、それらのプラスチックを分解できる微生物が存在しているのかについては、これまで証明がなされていなかったという。

調査チームによると、深海に設置したサンプルを引き上げたところ、汎用プラスチックとポリ乳酸は全く分解されていないのに対し、それ以外の生分解性プラスチックの表面には無数の微生物がびっしりと付着し、時間と共にサンプル表面にクレーターのような粗い凹凸ができて、生分解が進行する様子が観察された。岸壁での生分解の速度に対して水深1000メートルの深海では5分の1〜10分の1、水深5000メートルでは20分の1と、水深が深くなるにつれて分解の速度は遅かったが、その要因としては水圧や水温などの環境変化に加え、微生物の存在量や多様性が減少することが考えられるとしている。

深海において、サンプルの生分解性プラスチックが分解微生物によって生分解される様子などを表した図(研究チーム作成)

深海に設置して3カ月後の生分解性プラスチックのサンプルには、“マリンスノー”と呼ばれる、植物プランクトンや動物プランクトンの遺骸やふん、バクテリアなどからなる粒子状の有機物が堆積している様子も確認された。さらに、表面に付着した微生物のメタゲノム解析などを行ったところ、微生物産生系の生分解性プラスチックを分解する新たな微生物が6種発見された。これらの微生物は世界中の海底堆積物の中にも存在し、生分解性プラスチックは世界中の海で生分解される可能性が高いという。

研究チームはこれらの結果を踏まえ、今回実験に用いた生分解性プラスチックの一つである微生物産生系のポリエステルでレジ袋を作製した場合、水深855メートルでの分解速度を用いて計算すると、約3週間〜2カ月間で分析されると予想している。

今回の実証結果について、研究チームの東大大学院・農学生命科学研究科 生物材料科学専攻の岩田忠久教授らは、「プラスチックは可能な限り、回収してリサイクルすることが必要だが、すべてのプラスチックを回収することは不可能であり、海洋流出の避けられない製品には、生分解性プラスチックを適切に使用することが必要不可欠だ」とした上で、あらためて生分解性プラスチックが「将来の海洋プラスチック汚染の抑制に貢献する優れた素材であると言える」として、その有効性を強調。今後は、「製品として使用中は優れた物性を持続的に発揮し、使用後に、仮に海洋に流出した場合には可能な限り速やかに分解される高性能な海洋生分解性プラスチックの開発が期待される」としている。

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