2023年のCDP環境開示調査に過去最多23000社が回答もAリストはわずか400社――日本企業では花王と積水ハウスがトリプルAに

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世界の企業の気候変動と森林保全、水セキュリティの3分野における取り組みを分析・評価する国際環境団体、CDPは6日、最新の調査報告書となる「CDP2023 Aリスト」を発表した。調査は136兆米ドル以上の資産を保有する金融機関など740以上の機関投資家との協働で毎年実施しているもので、2023年は世界の時価総額の3分の2に相当する、過去最多の約2万3000社が回答。しかしながら、各分野で最高の「A」ランクに選定されたのは、わずか2%の約400社にすぎなかった。このうち日本企業は124社。調査の質問項目は、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に準拠しており、そのスコアはサステナビリティを巡る投資や調達の意思決定において重視される。(廣末智子)

調査は、各企業の環境スチュワードシップの度合いを、質問への回答をもとに、透明性や目標設定、リスクと機会の認識、マネジメントなどの項目ごとに8段階でスコアリング。各分野での基準は、科学の新たな知見やステークホルダーからのフィードバック、市場のニーズなどに合わせて定期的に更新される。例えば気候変動でAリストに選定されるには、2022年まではスコープ1とスコープ2の排出量に対して70%の第3者検証を受ける必要があったが、2023年はそれが100%に引き上げられたという。

CDPの2023年調査で気候変動、森林保全、水セキュリティの3つでAリストを獲得した企業であることを示すロゴマーク

CDPによると、2023年は環境問題へのアクションの緊急性が高まるなか、すべての質問書への回答要請を受けた企業は、2022年からほぼ3倍に増加した。これを受け、全世界で質問書への回答企業数が前年比で24%増加した一方、Aリスト企業の数は13%増にとどまった。気候変動と水リスク、森林保全の3分野でトリプルAを獲得したのは10社のみで、日本からは花王と積水ハウスの2社が入っている。花王は日本企業で唯一4年連続でトリプルA、積水ハウスは日本の住宅メーカーとして初めてのトリプルAとなった。

回答した日本企業は1985社(気候変動1984社、森林保全138社、水セキュリティ706社)で、このうちAランクに選定されたのは気候変動が109社、森林保全が7社、水セキュリティが36社だった(Aランク入りした日本企業のリスト)。CDPによると、日本は3分野のすべてにおいて、全世界で最も高い情報開示率を示し、今回初めて情報を開示した企業も多くあった。

4年連続でトリプルAとなったことについて、花王は、「サプライチェーン全体での取り組みが結実したものだと考える」とするコメントを発表。同社が評価された点は、気候変動分野では、同社初のバイオマスを熱利用するプラントのスペイン工場内への新設や食器用洗剤のプラスチック使用量削減などが、森林保全では重要な自然資本の一つであるパーム油をめぐるインドネシアの小規模農園への持続的な支援が、水セキュリティでは粉末洗剤の技術の進化などとしている。

今回の調査結果を通して、CDPは、情報開示について「ネットゼロ目標の達成とグリーンウォッシュを避けるための手段であり、パリ協定の目標に対する進捗のトラッキングと、グローバル・ストックテイクに対する確かなデータと提言を提供する」とあらためてその重要性を強調。その上で、Aリストに選定された企業を「環境への影響について最も正確な情報を有し、それを緩和するための気候とネイチャーポジティブなアクションを最も適切に実施できる企業だ」と評価した。

今回の調査で日本企業が世界で最も高い開示率を示したことについて、CDP Worldwide-Japanのアソシエイト・ディレクターを務める榎堀 都氏は、「情報開示という点では、TCFDへの賛同企業の3分の1以上が日本であり、TNFDの早期開示を行うと表明した“アーリー・アダプター”も日本がいちばん多い状況とも整合している。CDPでは毎年Aリストに認定された企業のトップによるビデオメッセージの発信などを行っているので、同業他社の取り組みを目にした企業の頑張りにつながっている面も大きいのではないか」と話している。

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