ライムがお猪口、大阪のバーが作る伝説のジントニック誕生秘話

照明を抑えたしっとりとした空間で、上質なお酒を心地よく味わえるオーセンティックバー。そんなバーの顔といわれるカクテルがジントニックである。ジンにトニックウォーターとライムまたはレモンの果汁を加えて、軽くかき混ぜる。シンプルながら、ジンやトニックウォーターの種類や入れる量で全く味が変わるため、どのバーに行っても同じ味には巡り合えない。

「カアラ」の名物ジントニック

そのなかで日本でも類を見ない、ジントニックを作るバーが大阪に存在する。北新地のバー 「カアラ」(大阪市北区)だ。ミシュラン二つ星にも選ばれた創作料理「カハラ」のウェイティングバーとして、1990年にオープン。グルメサイトなどでも高い評価を得る、大阪を代表するバーが出す、一味違ったジントニックとは。

■「お客さんのアイデアでできた」新しいジントニック

「カアラ」が出しているジントニック。クラッシュアイスを敷き詰めたグラスのうえにライムの皮を器のようにして置き、別グラスのジントニックを注いで飲むというものだ。このジントニックができた背景について、同店のマスターである高橋幸吉さんが語ってくれた。

「カアラ」マスターの高橋幸吉さん

「そもそもは『カハラ』で料理の器としてライムの皮を使っていました。ある日、オーナーの森義文がそのライムの器でお酒をお猪口のようにして飲む、お客さんの姿を観たんです。その時にこの飲み方をひらめいたみたいで。もともとは普通のジントニックを作っていたのですが、11年ほど前からこのやり方で提供しています」。

ライムのお猪口でいただくジントニックは鼻腔に新鮮で爽やかな香りを感じられ、何度も飲みたいと思わせてくれる美味しさである。ジントニックは苦手だけどこのジントニックなら飲める、というお客さんもいるようだ。

ライムの皮にジントニックを注ぐ

ジンは地球上でもっとも空気と水がキレイといわれている、オーストラリア・タスマニア州の蒸留所で作られた「マクヘンリー クラシック ドライ ジン」。トニックウォーターは同じオーストラリアの天然のキニーネとシトラスオイルを使用した「カピ」を使用している。このジンとトニックウォーターにたどり着いたのも、お客さんのアイデアだった。

「現在の味になるまで、さまざまなジンを試してみました。あるとき、お客として来ていたオーストラリアのワインを専門に扱っている業者の社長から『タスマニアのジンを見つけたから1回使ってみないか』と言われて。自分も飲んでみましたが、口当たりも良くてすっと入っていく。それで常連客に試したら、評判も良かったのでこれを使っています。トニックウォーターも同じくワイン業者の社長が見つけてくれました」。

ジントニックに使っているジンとトニックウォーター

お客さんの知恵を借りながら、成長していくジントニック。それは「なんでも新しい発想は採り入れる」という店主の懐の深さからできたことなのかもしれない。

■ 細部にわたりこだわった、落ち着く店内

現在ではこのジントニックを求めて、東京からわざわざ足を運ぶお客さんもいる。そんな「カアラ」の店内を見渡せば、さまざまなこだわりがあることに気がつく。例えばカウンターは樹齢300年の欅の一枚板に、漆職人でもあるオーナーが漆を塗装してできたものだ。ちなみに同店はビルの6階にあり、階段で一枚板を運ぶのは不可能。そのためわざわざクレーン車を使い、ビルの窓から搬入した。

カウンターを搬入した時の様子

バックバーには青い光を放つ一枚ガラス。これも当時四国の町工場だけが作れたらしく、オーナーが探し出してきたとのこと。またその一枚ガラスの後ろにある岩盤ブロックも、石目を気にして同じ場所で採れた物を使用している。「細部に神は宿る」と言われるが、1つひとつのインテリアをこだわり抜いてできた店内は、ノイズが生まれない落ち着いた空間へと仕上がっている。

なお同店ではこのほかにも、大葉と山葵を使ったジントニック、焼いたベーコンと昆布を漬け込んだウォッカで作るブラッディメアリーなど、創作度の高いカクテルに出合うことができる。「カアラ」の営業時間は夕方6時〜深夜2時まで(土曜は夜11時まで、日曜・祝日定休)。ジントニック2200円(チャージ1500円)。

取材・文・写真/マーガレット安井

「Kaara Bar カアラ」

住所:大阪市北区曾根崎新地1-1-18 グリーンテラスビル 6F
営業:18:00〜翌2:00(土曜は〜23:00)※日・祝休
電話:06-6341-2818

© 株式会社京阪神エルマガジン社