夫に先立たれたら、介護が必要になったら、住まいはどうする?井戸美枝さんがアドバイス

住まいのリフォームを考えている方は、予算をどう決めていますか。リフォームを検討するときは、終の住処や、おひとりさまになったときの住まいも考えておく必要があります。ファイナンシャルプランナーの井戸美枝さんに教えていただきましょう。

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【58歳Iさんの悩み】
老後を前に、築30年の自宅をリフォームしたいと思っています。でも、老後資金が減ってしまうのが心配。費用はどれくらいかけていいですか?

【井戸さんのアドバイス】
・終の住処をどこにするかで、リフォームにかけられる費用は異なります。
・将来、自分がどこに住みたいかを決めてから、リフォーム予算を割り出しましょう。
・省エネや耐震工事などは、国や自治体から補助金が出ます。
・いずれ施設に移るなら、リフォームにお金をかけすぎるのは禁物です。

終の住処を想定して、リフォーム予算を逆算しよう

老後を安心して過ごすために、家をリフォームしたいと考える人は多いでしょう。ただ、リフォームにお金をかけすぎて、のちのちの生活が苦しくなっては本末転倒です。

費用のかけすぎを防ぐために、まず考えたいのは終の住まいどうするか、ということ。女性は男性より平均寿命が長く、最終的におひとりさまになる可能性が大きいといえます。そうなったとき、どこに住むのか、リフォーム費用はそこから引き算して考えておくことが重要です。

たとえば、今は一軒家に住んでいても、子どもたちが独立して夫婦二人になったら、住みづらくなるかもしれません。高齢期になると、庭の手入れや部屋の掃除が意外な重荷になる可能性も。さらに、おひとりさまになると、防犯面でも不安は高まります。

それでも、ずっと今の家に住み続けるのか、自宅を売却してコンパクトなマンションや高齢者施設に移るのか、移るとすれば元気なうちか、要介護になってからか……等々、終の住処について一度きちんと考えてみてください。

いずれ転居するつもりなら、いまの家に住む年数、転居用に残す費用なども考慮して、リフォーム予算を決めましょう。

終の住処の5つの選択肢とチェックポイント

終の住処の主な選択肢とチェックポイントを紹介しましょう。

1.自宅をリフォームして住み続ける

いまの家でずっと住み続けるつもりなら、水回りの設備などの不具合が出てきがち。玄関や部屋の仕切りの段差があると、転ぶリスクもあります。高齢期に過ごしやすい家を想定して、リフォームプランを立てましょう。

漠然と施工業者に相談すると、セールストークに乗ってリフォーム箇所が増えてしまうことになりかねません。出費を膨らませないために、業者に相談するのは、貯蓄から出せる予算とリフォームしたい場所を決めてから、が鉄則です。

また、トイレや浴室に手すりをつけたり、玄関に車椅子用のスロープを設置するといったリフォームは、介護保険で補助が受けられます。要介護になってからでもまにあうようなら、あわてて改修する必要はありません。

一方、介護度が重くなっても自宅で過ごし続けるには、周囲に助けてくれる子どもや親戚などがいることも大事です。子ども自身や親族の気持ちを確かめておきましょう。

チェックポイント

・予算はいくらか
・どの場所をリフォームするか
・介護保険のサービスが使えないか
・要介護度が重くなったらどうするか

2.一戸建てからマンションに転居する

一戸建てやファミリー向けマンションに住んでいる場合、子どもが独立すると空き部屋ができたり、光熱費が余分にかかることも。自宅を売却して、コンパクトなマンションに引っ越すのも一案です。

自宅の売却益で買える物件を選べば、老後資金を減らさずに住み替えが可能。住むスペースが狭まれば、維持費もおさえられます。ただし、一軒家から引っ越す場合、マンションは管理費や積立金がかかることを考慮しておきましょう。

また、転居先で介護が必要になったあとも、在宅で介護サービスを受けながら生活できるかどうか、必ずチェックを。高齢期に車を手放しても生活できるように、駅に近かったり、買い物や通院に便利な場所や、イザというときに頼れる子どもたちや親戚の家にも近い場所も選択肢になります。

住み替えると決めたら、体力も気力もある60代のうちに実行するのがおすすめです。私自身も、子どもが独立したあと、65歳で夫とともに郊外の一軒家から街中のマンションに引っ越しました。駅や繁華街など生活に必要なものが全部徒歩圏内になり、利便性が大幅にアップ。すぐ近くにデイサービスも頼める特別養老老人ホーム(特養)もあるので、要介護になっても安心して暮らせると思っています。

チェックポイント

・一生、そこに住み続けられるか
・買い物や通院に便利か
・住み替え後の資産に余裕があるか

3.「サ高住」に転居する

「サ高住」とは、「サービス付き高齢者向け住宅」の略称。見守りや生活支援サービスが受けられる賃貸マンションのことを言います。夫に先立たれたあと、自分で生活はできても、ひとり暮らしが心配な人に向いています。

一般の賃貸住宅と同じように、敷金・礼金を支払って入居し(不要なところもある)、毎月家賃を支払います。見守りや生活相談などがあるほかは、一般の賃貸マンションと変わりなく自由に生活が可能。家賃は、月15~20万円前後が目安です。

介護が必要になったら、自宅の場合と同じように、外部の介護サービス業者に依頼して、ケアマネジャーにケアプランを作成してもらい、サービスを利用します。介護度が重くなったり、認知症になると退居して、他の施設や子どもの家などに転居するのが一般的ですが、施設によっては、最後までいられるところも。介護サービスも、介護事業所を併設していたり、24時間対応で介護サービスを提供しているなど、施設によってまちまちなので、事前によく調査して、自分の希望にあった施設を選びましょう。

いずれ転居が必要なら、転居先の施設なども考えておく必要があります。事前に将来の転居先にかかる費用も計算して、予算をとりおいておくといいでしょう。

チェックポイント

・サービス内容は自分が望むとおりのものか
・経営母体、運営母体は安定しているか
・介護が必要になったとき、どんな選択肢があるか
・転居が必要な場合は、移れる施設などがあるか

4.「住宅型」有料老人ホームに転居する

食事や生活支援、緊急対応などのサービスを備えた施設。元気なうちに入居し、介護が必要になると、外部の介護サービス業者を利用して介護が受けられます。

一部を除いて、重度対応から看取りまで行ってくれるのが一般的。必ず医療機関と連携しているので、病気やケガのときも安心です。終末期の看取りを行うホームも増えているので、終の住処として選んでもいいでしょう。

入居一時金が1000万円程度と高額になりがちですが、地域や施設によって不要なところもあります。月額費用は、15~20万円程度が目安です。

外出などは基本的に自由ですが、調理が不可、無許可の外泊禁止などの規制がある施設もあります。

チェックポイント

・サービス内容や料金は希望にあっているか
・終身の利用は可能か、看取りまで行ってくれるか
・病気やケガ、介護が必要になったときの対応はどうか
・経営母体、運営母体は安定しているか

5.「介護型」有料老人ホームに転居する

元気なうちは自宅で暮らし、要介護になったり、介護度が重くなったら、施設に移りたい人向き。「介護付き」とある有料老人ホームなら、介護度が上がっても、認知症が進んでも、24時間介護サービスが受けられ、基本的に終身利用ができます。24時間体制で夜間も必ず介護職員や看護師が常駐している点も安心です。

入居一時金や月額利用料は、地域や施設によってまちまち。入居一時金は家賃の前払いに相当するため、一般に入居一時金がゼロだと、月々の利用料が高くなる傾向があります。月額利用料は、20~30万円程度。

チェックポイント

・サービス内容や料金は希望にあっているか
・終身の利用は可能か、看取りまで行ってくれるか
・経営母体、運営母体は安定しているか

リフォームの補助金制度を活用しよう

1の終の住まいにするためのリフォームの場合、バリアフリーや水回りの設備のとりかえなどは500~700万円など高額になりがちです。

バリアフリー改修工事や、二重窓にして断熱効果を上げるといった省エネ改修工事、耐震改修工事などには、政府や自治体が費用の一部を補助してくれたり、所得税を控除してくれる制度があります。老後資金をできるだけ多く残すために、積極的に利用しましょう

注意したいのは、利用の際は施工業者が指定されているケースが多いこと。別の業者に依頼したり、申請せずに工事を行うと助成が受けられない場合もあります。業者に相談する前に、国土交通省や自治体などに問い合わせて、詳細を確認しておきましょう。

いずれ施設に移るなら、リフォームは最低限に

いずれ施設などに転居したい人は、これから自宅に住む年数を予測し、住み替え費用を見積もったうえで、貯蓄から出せるリフォーム予算を決めましょう。

限られた予算を有効に使うコツは、修理が必要な箇所や故障しやすい設備など、優先順位が高いものからリストにして実行していくこと。老後資金の金額にもよりますが、あと10年住むためのリフォームなら、100~200万円以下におさめたいものです。

また、将来入りたい施設について自分の希望を整理して、今から少しずつ施設に見学に行くのもおすすめ。最終的に入りたい施設が決まればかかる費用の予想がつき、リフォームに使える予算がより明確になります。

※文中のリフォーム代などの金額はあくまで参考例です。

プロフィール
井戸美枝

ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、社会保険労務士、国民年金基金連合会理事。生活に身近な経済問題、年金・社会保障問題が専門。「難しいことでもわかりやすく」をモットーに、雑誌や新聞に連載を持つ。近著に『フリーランス大全』(エクスナレッジ)。『親の終活 夫婦の老活 インフレに負けない「安心家計術」』(朝日新書)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください!増補改訂版』(日経BP)など著書多数。
ホームページ:http://mie-ido.com
Twitter:@mieido


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