【マンションリフォーム】老後ではなく「今を楽しむ」ためのキッチン改装の工夫とは? 70代・加藤タキさんの実例[前編]

キッチンリフォームが完了したコーディネーター・加藤タキさんのご自宅を訪問。すっきり広々とした新しいキッチンへのこだわりと快適な暮らしの極意を伺いました。

お話を伺ったのは
コーディネーター
加藤タキさん

かとう・たき⚫︎1945年、東京都生まれ。
米国報道誌勤務を経て、国際間のコーディネーターとしてオードリー・ヘプバーンをはじめ、海外スターのCM出演交渉や音楽祭などで先駆的役割を果たす。
講演、TV、各種委員、ボランティアなど幅広く活動。
近著は、さだまさしとの共著『さだまさしが聞きたかった、「人生の達人」タキ姐のすべて』(講談社)。

夫婦でよく使うキッチンを料理も掃除もしやすくリフォーム

加藤タキさんが暮らすのは築50年以上のヴィンテージマンション。都心とは思えない閑静なエリアの高台に位置し、南西向きの窓から富士山も望める心地よい家に、ともに建築家である夫と息子との3人暮らし。そんな加藤さん宅は、2020年3月にキッチンリフォームが完了した。

「『キッチンを改造したい』と言いだしたのは夫。彼は料理が好きなので、古いキッチンは狭くて使いにくいと感じていたようです」

「料理好きの夫なんてうらやましい」というため息交じりの声が聞こえてきそうだが、もともとはまったく料理をせず、キッチンに入ることもなかったという。

「息子が小さい頃は私が働きながら主婦業全般をこなしていました。息子に夕ご飯を食べさせて、食べ残したものを『もったいない』と私が無理に食べるような毎日。子どもが寝て、家事を終えた私がひと息ついているときに夫が帰宅して『ただいま。おなかすいた』と言われると、『ハァ〜、家で食べるならもっと早くに電話してくれればいいのに。そしたら私は残り物を全部食べなくてもよかったのに』と思いました。

そんなことが続いて、私はいつもブスッとしていたんです。それでは夫も気分が悪いですよね。ある日、『いいよ、僕が自分で作るから』と。それから料理をするようになりました。つまり、私がダメ妻だったから夫は仕方なく始めたんです(笑)」

最初のうちは塩と砂糖を間違えたり悪戦苦闘。それでも徐々に上達していき、雑誌にレシピが掲載されるほどの腕前に。

「50代後半から料理を始めて、25年以上続けているんだから立派なものですよね。ただ、片づけはすべて私。夫が料理したあとのキッチンはぐちゃぐちゃで『何でこんなところにしょうゆが飛んでるんだろう?』と思うくらい大胆です(笑)。でも、私は片づけや掃除が嫌いじゃないから苦になりません。うまく家事分担ができているなと思います」

料理好きな夫だからこそ飛び出した、冒頭のキッチンリフォーム計画。キッチンリフォームは妻中心で決めることが多いように思うが、加藤さん夫婦の場合は主導権は夫に。

「キッチンメーカーのショールームに連れていかれて、『これにしようと思う』と言われたのがステンレスのシステムキッチン。夫は建築家で、私は彼のセンスを100%信頼しているので、全部任せました。私がリクエストしたのは水まわりと収納くらい。リフォームが完了するまで、どんなキッチンになるのか見当もつきませんでした」

Before
ものがごちゃごちゃと出ていて、雑然とした印象のキッチン。「吊り戸棚で圧迫感もあり、夫婦で立つと狭く感じていました」
After
ステンレスのシステムキッチンは収納力たっぷり。「何がどこにあるかわかりやすく、使い勝手も◎」

20年2月半ばから工事が始まり、1カ月ほどで新しいキッチンに生まれ変わった。折しも新型コロナウイルスの感染拡大が懸念され始めた時期。外出自粛が呼びかけられる直前の完了となった。

「絶妙なタイミングでした。ステイホーム中は夫も息子もテレワークで家にいて、それぞれ自室で仕事をし、食事はダイニングルームで一緒に。それまでは2人とも外食が多かったけれど、圧倒的に家での食事が増えました。買い物担当は私で、3日に一度くらい車で出かけてまとめ買い。私は初めから『これを作ろう』と思って買ってくるわけだけれど、夫は冷蔵庫の中にある残り物でパパッと作ったりしていて。ありがたいですね(笑)」

また、ステイホーム期間に新たに始めたこともあるそう。

「夫と2人で餃子を作ること。新しいキッチンは2人で立っても狭く感じず、使い勝手もいい。たまには一緒に料理するのも悪くないと思わせてくれるキッチンです」

頻繁に使う調理器具や調味料は目の前に。「美も大切だけれど、機能性にもこだわりました」

好きなものに囲まれて心豊かに人生を楽しむ

読者の中には老後の暮らしを見据えてリフォームを決断する人もいるだろう。70代でキッチンリフォームを行った加藤さんは、どんな老後を思い描いているのだろうか。

「このマンションはもともと段差のないフルフラットなので、バリアフリーに関してはもうOK。今後考えるとしたら手すりをつけるなどでしょうが、夫も私も今のところはまだ必要としていません。私は『目指せ100歳、現役』だし、夫もまだ仕事を続けている。今はこのままの暮らしが快適です」

安全対策は必要に応じて。すべてを利便性優先にはしたくないと話す。そこにはこんな思いも。

「私の母は104歳で亡くなりましたが、95歳のときと100歳のときに骨折しました。その年で歩けなくなるとぼけっとしてしまいがちですが、母は新聞や本を欠かさず読み、テレビやラジオもよく視聴して、頭はいつもフル稼働。『頭も手先も使わなければどんどんさびていく』と言って、私たちが誕生日にプレゼントした食器を指先まで神経を使ってトレイにのせて、大事にキッチンまで運んでいました。体のどこかが悪くなっても前向きで、気持ちで負けていない。そんな母の姿を見てきたので、あまり安全・安心ばかりにとらわれる必要はないと思っているんです」

家族が集うダイニングはゆったりとして心地いい空間。
ダイニングルームの食器棚には来客用のグラスや食器を収納。
東日本大震災のときは食器棚の扉が開いてしまい、グラスなどが床に落ちて粉々に。「それ以来、地震への備えをどうするか考えていました。そこで思いついたのが、この写真の対策。1膳分の箸を輪ゴムで留めて扉の取っ手に通し、リボンを結んでストッパーにしています」

加藤さんのお宅を見渡すと、あらゆるところに家族の写真や思い出の品々が飾られている。

「好きなものに囲まれて暮らすのは心地よく、気持ちも豊かになります。高齢者だから割れない器にするのではなく、好きな器が割れないように大事に扱うことが頭を使うことにもなる、という考えです。『年だから』と言い訳せず、一度しかない人生を楽しみたい。そして、楽しいの基準は人それぞれ。自分を知り、家族のあり方を知ることが快適な暮らしへの近道だと思います」

食器で季節感のある食卓を演出。

104年の人生をまっとうした母の介護で老後の住まいをイメージできました

「足が弱くなった母のために廊下やトイレに手すりをつけたり、ベッドの横にポータブルトイレを置いたり。その経験から、自分たちの老後もイメージしやすくなりました」

※この記事は「ゆうゆう増刊」2022年11月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

撮影/鈴木希代江

【後編に続く】


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