子どもがすぐ〈習い事に飽きる〉理由。「辞めたい」と言われたら親がすることは?

子どもたちと森を歩くワークショップを開催したりと、自然のおもしろさを伝える活動にも積極的に取り組む今泉忠明先生。知的好奇心を伸ばしていくには、親はどんなサポートをしたらいいのでしょう?

この記事から続く

「子どもは褒められて育つ」は本当

子どもの好奇心に火をつけるのは、親の役割だと思います。でも、案外、何気ないひと言で子どもの心に水をかけていることもあるかもしれません。

長野の森で子どもたちとフィールドワークのワークショップをしたときのこと。ある男の子が、大きなポリ袋いっぱいにナナフシの死骸をぎっしり拾って持って帰ってきました。ナナフシって、カマキリをスリムにしたような昆虫ね。さあ、あなたがこの子の親だったらなんて言う?

間違っても「こんなにいっぱいどうするの!」「早く捨ててきて」なんて言っちゃダメですよ。意気揚々と帰ってきた子どもの心は、このひと言でペシャンコになってしまいます。

子どもにとっての大発見を褒めること

大人からしたら価値がないように思えても、子どもにとっては大発見。おもしろいと思った子どもの気持ちを、まずしっかり受け取って、たっぷり褒めることが大事です。

子どもは褒められて育つんです。

ナナフシを拾ってきた子には、「この中でいちばんきれいなやつを標本にしよう」と声をかけました。きれいな空き箱にわたをつめて大切にしまったら、すてきな宝物になるよね。こうしたうれしい経験から、子どもの興味は広がっていきます。

「どうしてあんなにたくさんの死骸があったんだろう?」

「ナナフシはどんなふうに暮らしているんだろう?何を食べているのかな」

そうしたら、親はちょっと背中を押してあげる。

たとえば「図書館で本を探してみよう」とか、インターネットで調べてみるのもいいよね。好奇心を発展させるきっかけがあると、子どもは世界を広げやすくなります。

親は子どもの一歩後ろを歩いて

大人はいろいろな経験をしているから、こっちのほうがためになる、効率がよい、得だ、という判断ができます。我が子にはなるべく失敗させたくないと思うのは、当然の親心でしょう。

でも親に手を引かれ、先導されるのって、子どもにとってのベストではないことも。

私は、すべての場面において、親は子どもの後ろを歩くのがよい、と思っています。森の中でも、ふだんの生活でも。子どもが行く方向を親は見ていて、間違っているな、危ないなと思ったら、ほんの少し向きを変えてあげるんです。

「お母さんはこっちのほうが楽しそうな気がする」とか言いながら、ちょっと軌道修正をする。そうすると、子どもは納得します。

同じことでも、「それはダメ!」「やらないで!」と頭ごなしに言われたら…?大人になってからやりますよ(笑)。

子どもは飽きっぽくて当たり前

やると決めたら、最後までやり通してほしい。

上達、習熟するには、コツコツ頑張ることが大切だ。

大人の価値観では、「飽きっぽい」はネガティブなイメージがあるかもしれません。「うちの子は飽きっぽくて」「根気がなくて困っています」なんて心配しているお父さん、お母さんも多いですね。

でも、飽きることって、実は大事。飽きるのが人間なんです。

「これはこういうことか」と分かったらそれでOK。概要を理解したら、次のことに目が向くのは自然なことです。

続けられるのは、よっぽどおもしろいこと。そういうものに出会うためにも、あれこれ手を出して、飽きたら次へと切り替えることって重要です。

習い事を根性でやるなんて、僕が子どもだったらまっぴらごめん。軍国主義じゃないんだからさ。確かに最初は子どもがやりたいって言ったかもしれないけど、だからといって辞めてはいけないなんてことはないはずです。いやいや続けたって身につくはずはないし、心が歪んでしまうことのほうが心配。

後ろからちょっと押してあげて、好きなことを選ばせる。やってみて、熱が冷めたならどんどん次へといきましょう。

自然体験と読書が子どもの好奇心を育てる

毎日続けても飽きない好きなことを見つけるには、いろいろやってみること。なかでも自然体験と読書は、好きなことを見つけるのに最高だと思います。

僕は子どもの頃に『シートンの自然観察』という本を読んで、自然のなかで動物たちを観察するおもしろさに惹きつけられました。

森に入ったシートン少年は、木の枝を集めて自分を隠す小さな部屋を作ります。その部屋に入って、森の様子をじーっと見ている。すると、いろんな動物が通るんです。

いいなー、とうらやましかった(笑)。日本では見られないような動物がたくさん登場するんだもの。

本にはいろんなことが書いてあります。なんでもいいから手にとるうちに、きっと心に引っかかるものが見つかるはずです。子どもの頃にそういうものに出会えれば、それはその子の財産になりますね。

図書館で片っ端から手にとってみると、だんだん自分の好きなもの、心惹かれるものが定まってくるはず。子どもが「これ、おもしろそう!」と興味を示したら、「こんな本もあるよ」「ここに行くと、本物が見られるかもしれないよ」と後押ししてあげて。

自然の中でたくさん五感を働かせ、本から世界のおもしろさをどんどん吸収する。そうして、自分の好きなものを見つけていったら、大人になっても飽きないですよね。

僕は動物をずーっと研究してる。だっておもしろいからね。

今泉忠明(いまいずみ・ただあき)●動物学者。動物学者 今泉吉典の二男として生まれ、動物三昧の子ども時代を過ごす。大学卒業後、多くの生態調査に参加。各地の博物館館長、研究所所長などを歴任。『ざんねんないきもの事典』シリーズ(高橋書店)他著書・監修書多数。子どもたちのためのフィールドワークの教室「けもの塾」主宰。

取材・文/浦上藍子

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