アングル:軍事頼みのロシア経済、持続性に疑問 国民生活は停滞

Darya Korsunskaya Alexander Marrow

[7日 ロイター] - 2023年のロシア経済は、前年の落ち込みから急速に立ち直った。ただ、成長は軍事予算頼みの面が非常に大きく、国民の大多数の生活水準を停滞させているさまざまな問題が水面下に存在する。

ロシア連邦統計局が7日発表した23年の国内総生産(GDP)は3.6%増で、22年の1.2%減からプラスに転じた。

3月の大統領選で再選が確実なプーチン大統領は、経済は着実に発展を続けており、ウクライナ侵攻に伴って制裁を科した西側諸国との関係を希薄化できる十分な余地は確保できていると強調する。

しかし、ロシアのエコノミストらは、ロシア政府がウクライナとの「特別軍事作戦」を展開しているため、経済に過熱化の兆しが見えると指摘。現在の楽観的な見方とは裏腹に、停滞または景気後退が迫ってると指摘しつつ、GDPのヘッドラインではほとんどの国民の生活実態は分からないと警鐘を鳴らした。

エコノミストのセルゲイ・ヘスタノフ氏は「防衛企業がミサイルや砲弾を製造すれば、それらはどこかで使われ、GDPは伸びる。だが、民間経済がその過程で享受する恩恵は乏しい。旧ソ連は多くの戦車やミサイルを作ったが、国民は実感を持たなかった」と述べた。

ロシアのマクロ経済分析・短期予測センター(CAMAC)は、過去2年間で増加した鉱工業生産の60─65%はウクライナ侵攻関連だとの見方を示した。

将来のプラス要素が限られるような一時的で非生産的な投資が行われているとの声も聞かれる。

エコノミストのアレクサンドラ・ススリナ氏は「率直に言うと、軍産複合体の生産は、実体経済の外にお金を放り投げているようなものだ。戦車や爆弾といった通常兵器は1回だけ使われ、経済へのフィードバックはない。戦車の残骸から、さらなる成長へ寄与できるハイテク機器を生み出すのは不可能だ」と言い切った。

<実質賃金は目減り>

国際通貨基金(IMF)が示した今年のロシアの成長率見通しは2.6%と、ロシア政府自身が見込む2.3%よりも高い。同国の労働需給ひっ迫が賃金上昇を支えるとも指摘した。

ところが、CAMACによると、ロシアの実質賃金は減少し始めている。

CAMACのエコノミストは「物価上昇率が高すぎて、深刻な人手不足であっても、企業はもはや迅速に賃金を上げられない財務状況になっている」と説明した。

ロシアの23年の物価上昇率は7.4%、22年は11.9%。年金や各種給付が物価連動方式でないこともあり、実質可処分所得はじりじりと減り続けている。

失業率は2.9%と過去最低だが、これは過去2年間で何十万人もがロシアを逃げ出したり、軍に招集されたりした結果とも言える。

22年のロシアの労働生産性指数は前年比3.6%低下しており、年間の落ち込み幅としては09年の世界金融危機以降で最大になった。

労働生産性の23年のデータが公表されるのは今年終盤だが、人手不足のために22年から改善は見込めない、と当局者は警告する。

賃金上昇は、軍事予算の恩恵を受けられる特定の地域やセクターに集中している。PFキャピタルのチーフエコノミスト、エフゲニー・ナドルシン氏は「今の経済成長のメリットが主として非常に限られた範囲しか得られないのであれば、成長しているから万々歳だとはならない。国民の大半は所得が増えていないか、せいぜい名目ベースで1桁の伸びというところだ」と述べた。

<危機の前兆か>

一方で、物価上昇率は高止まりし、実体経済が潜在成長力を超えて成長している様子がうかがえるため、中央銀行は高金利を維持せざるを得なくなっている。

中銀のナビウリナ総裁は23年12月、現在の急激なペースの成長は長続きしない可能性を示唆した。

CAMACのエコノミストによると、ロシアの景気後退に言及するのは時期尚早とはいえ、自動車生産や建設といった分野で活動が停滞局面に入りつつある兆しが出ている。

IMFの予想でも、ロシアの25年の成長率はマイナス1.1%だ。

ナドルシン氏は「現在の経済成長は持続的ではなく、質が高いようにも見えない。これは多分04年以降で初めてとなる経済危機が迫っている前兆とみなしている」と話した。

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