「ナカノコール」(2月9日)

 今春、定年で退く中央競馬の調教師に中野栄治さんの名がある。34年前、騎手としてアイネスフウジンで日本ダービーを制した。観客から沸き起こった「ナカノコール」は語り草だ▼前走の皐月賞で敗れた。「ジョッキーのミス」ともささやかれた。心に期するものがあったのだろう。当時、37歳のベテランは「若者(騎手)には負けていられない」と向こうを張り、自らを追い込んだと伝わる。ライバルから目標にされると知りつつ、大一番で選んだのは逃げの手。馬の特性をつかみ、その力を信じた。19万人の「ナカノ、ナカノ」の大合唱は、勝負師の勇気に対する称賛だった▼国の手綱[たづな]をさばくかの人は、胆力を欠き及び腰に映ってならない。裏金を巡る収支の訂正報告には「具体的でなく不誠実」の声。使い道を明らかにする義務のない政策活動費の質問は、うやむやにかわす。改革に期待していいかどうか…。果たして、調査を尽くしたのか怪しい。旧統一教会と閣僚の接点が再び浮上する▼全てに本気度が問われている。当選10回。議員歴30年を超える大ベテランだ。もっと馬力を。国民を向こうに回せば、どんなコールが巻き起こるか。想像力もたくましく。<2024.2・9>

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