「若い選手から学ぶこともある」“40歳のチャレンジャー”川島永嗣は新天地ジュビロに何をもたらすか「ピッチの中では厳しく、外ではみんなと笑顔で」

川島永嗣のジュビロ磐田への加入がリリースされたのは、1月12日だった。翌日に行なわれた新体制発表、その席には川島もいた。公式会見の後、テレビやラジオの映像収録とペン記者の囲み取材の場がセッティングされているが、映像収録の全てに川島の名前がある。その表を改めて川島に見せると「おお、そうなんですね」と少し驚いていたが、注目の的になることは予想できた。

川島が磐田のオファーを承諾した背景には間違いなく、クラブの環境があるだろう。元日本代表コーチである横内昭展監督が率いており、藤田俊哉スポーツダイレクター、そして川島にとって日本代表の偉大な先輩であり、ポジションを争ったこともある川口能活コーチがいる。そうした環境で新たな挑戦を迎えるが、川島本人は日本に帰ってきたというより、磐田というクラブに来た感覚だそうだ。

「僕はかなりマイペースで、自分のキャリアをやってきているので。実際に自分が40になってみて、まだまだやらなければいけないことがあるなっていうふうに正直、思っているのが現状です。ヨーロッパでやっているなかでも、毎年毎年、自分は成長したいと思っていましたし、厳しい環境でも、それは変わらなかった」

そう語る川島のスタンスは、磐田に来ても変わっていない。1人のGKとして競争に身を投じるなかで、自分が年長者だとか、W杯を4回経験した選手だとか、そういったものは関係ないというのが川島の流儀であり、それはクラブだろうと代表だろうと変わらないものだ。その一方で、磐田というクラブに呼ばれた意味というのも自覚している。

「やっぱりこういう形で来ると、いろんな経験を伝えるとかと言われますけど、経験というのは話して伝わるものでもないですし、やはり実際に感じることが一番だと思うので。僕自身、何かを教えるとか、伝えることができるかどうか分からないですけど、自分自身が若い選手から学ぶことも多くあります。そこはもうお互い切磋琢磨しながら、ね。チームの中で成長していければいい」

新体制発表の翌日に行なわれた今年の初練習で、さっそくストレッチから、同じ新加入で20歳の西久保駿介と談笑する姿があった。そうした川島の振る舞いを見ても、遠藤保仁や大津祐樹が現役引退で抜けた磐田で果たしていく役割は大きそうだ。若い選手たちとも年齢に関係なく気さくにコミュニケーションを取りたいようだが、さすがに「話しかけづらいんじゃないですかね」と笑いながら言う。

「分からないですけど、自分からいかないと...かなあと思います」

ただ実際、ポジションに関係なく川島から話を聞きたいという選手は多いだろう。唯一の高卒ルーキーでもある朴勢己は「(話を聞きたいのは)やっぱり川島選手です。今までの経験だったり、恐れ多いですけど、どんどん聞いていきたい」と語る。

選手としてチャレンジする気持ちに年齢は関係ないが、そうした若い選手たちに伝えていけるものは多いだろう。ただ、川島も言う通り、言葉よりも振る舞いで示していくことも多いはずだ。

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GKは川島と、昨シーズンの正GKだった三浦龍輝、J1王者の神戸から期限付き移籍でやってきた坪井湧也、そしてアカデミー育ちでもある大卒ルーキーの杉本光希の4人で競争していくことになる。

杉本は怪我で出遅れているが、キャンプ中に行なわれた鹿児島ユナイテッドFCとの練習試合では、前半に三浦が、後半に川島が出て、それぞれ安定したゴールキーピングを見せた。

そうしたなかで虎視眈々とポジションを狙うのは坪井だ。ただし、開幕戦は神戸が相手であるため、いきなり試合に出られないという、不利な立場からアピールしていく必要がある。

その神戸戦に向けて「今はジュビロの選手なので。自分が伝えられることは伝えないと」と苦笑いする坪井は現在の環境について「凄い経験をしてきた方たちに囲まれてるので、Jリーグでもなかなか無い」と語る。

すでに期限付き移籍が決まっていたところで、川島加入のニュースを聞いた。「お、川島永嗣が入ってくるんだ」と感じたというが、昨年は日本代表の前川黛也と1つのポジションを争っていただけに、J1でやる以上、どこに行こうと厳しい競争があるのは覚悟していたという。競争に年齢は関係ないと自負する川島にとっても、そうした姿勢はウェルカムだろう。

カタールW杯まで4年半、代表チームで苦楽を共にしてきた横内監督も、磐田での川島の姿勢を見て「本当に自分が少しでも上手くなりたいということに、貪欲に取り組みますし、そこに関しては一切衰えてない」と舌を巻くが、その川島に関してもポジションが約束されてはいないことを強調する。

開幕戦は川島か三浦か、第2節以降のポジション争いは坪井が加わり、そこに「川島永嗣さんがずっと憧れだった」というルーキーの杉本がチャレンジしていくことになるが、誰が試合に出ても出なくても、GKチームとしてパフォーマンスを上げていくことが、チームにとって非常に大事であることはJリーグでも、上位のクラブを見れば明らかだ。

そうしたGKチームの競争力を高めていく存在としてはもちろん、ポジションに関係なく伝えていける経験。目に見える形でも、見えないところでも、川島が磐田にもたらすものは大きそうだ。

「スタンスは変わらないので、僕の中では。ピッチの中では厳しくなるし、ピッチの外ではみんなと、笑顔でやっていければ良いのかなと」と語る川島は「強度というのは自分たちが高めていかなければいけないところだと思うし、そこを上げながらね、質もうまく上げていければ」とリアルな目線で、ここからの磐田の戦いを描いている。

取材・文●河治良幸

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