3番ウッドの傾向は?チタンヘッドがじわじわ増殖 /女子プロクラブ考VOL.5

女子プロらはスプーンで何を重視するのか?

昨年の秋口に大々的な女子プロのクラブ調査を行ったが、彼女たちがどんなクラブを使い、どんなスペックで戦っているのかは、同じヘッドスピード帯の我々(男子アマ)のクラブ選びに大いに参考になるだろう。膨大なデータを元に、女子プロのクラブの傾向をギアマニアが分析・検証していく。5回目はスプーン(3W)選びについて。

「チタンヘッド」がじわじわと増殖傾向に

クラブ契約を結んでいる選手よりも、フリーの選手が何を選んでいるのかを見ると、本当にいいスプーンというものが見えてくる。例えば申ジエ。テーラーメイド「ステルスプラス」を長らく入れているが、これは男子ツアーでも人気があるいわゆる操作性の高いヘッドだ。テーラーのフェアウェイウッドは外ブラの中でもひと際人気が高い。国産ブランドで使用者が多いのは、原英莉花、藤田さいき、金田久美子、三ヶ島かならが使うヤマハ「RMX VD」(2021年)。さらに勝みなみが使うプロギア「RS JUST」など、周囲の評判の良さから使用選手が増える傾向はある。

上に挙げたヘッドには共通点がある。「ステルスプラス」と「RMX VD」は共にチタンヘッドというのが特徴。神谷そらが使う新しいヤマハ「RMX VD」(2023年)や鈴木愛、渋野日向子らが使うピン「G430 LST」、櫻井心那、畑岡奈紗、山下美夢有らが使うダンロップ「スリクソンZX Mkll」、佐藤心結が使うブリヂストン「B1ST」(2023年)もチタンヘッド(B1STとスリクソンZX Mkllはチタンとカーボンの融合)。40人中15人と“チタンユーザー”がじわじわ増殖傾向だ。

比重の軽い素材であるチタンを使い、余った重量分を比重の重い金属ウエートにしてソール部に配置。超低重心化することでスピン量を減らし、前に行く強い弾道にしているわけだ。飛距離性能と操作性は高くなるが、一方で低重心化すると慣性モーメントを大きくするのが難しく、重心も浅くなってミスヒットには弱くなる。さらに、スピン量が減るので球を上げるにはヘッドスピードが必要になってくる。芯も狭いのでしっかりミートさせる技術が求められ、正直、「打ち手を選ぶ難しいクラブ」というのは否めない。「いつかはチタンヘッドを」と、目標にして練習するのはいいだろう。

「寛容性」と「操作性」のバランス均衡型スプーン

上段:左から穴井「パラダイム」、稲見「ステルス2」、下段:菊地「RS5」、岩井「EZONE GT」

次に注目したいのは、操作性と寛容性がバランスよく配分されたヘッドだ。列挙すると、穴井詩のキャロウェイ「パラダイム」、稲見萌寧のテーラーメイド「ステルス2」、岩井姉妹が使うヨネックス「EZONE GT」、菊地絵理香のPRGR「RS5」など。

これらのヘッドは、ウエートをソールに集中させるのではなく、ソールとヘッド後方に配置することで、重心深度を深くして慣性モーメントを上げてミスヒットに強くした。極端に低重心にせず、重心深度をやや深めに設定することで、寛容性が増しバックスピン量も増える。ヘッドサイズも大きすぎず小さすぎず、我々のヘッド速度でもシャフトをしっかり選べば十分使いこなすことができる。こうしたバランス系スプーンが女子プロの中のボリュームゾーンだ。

アマチュアにも即戦力 ミスヒットに強いスプーン

西郷真央はキャロウェイ「パラダイム X」を使用

女子プロの中には、我々アマチュアが使うような、いわゆる“やさしいクラブ”を使っている選手もいる。共通するのはサイズが大きく、後方に重量が集まり、慣性モーメントが大きいヘッド。重心深度も深くなりミスヒットに強い。ただし、慣性モーメントを増やして重心深度が深くなると、重心の高さは上がってしまうので飛距離という点では不利だ。

例えば西郷真央はキャロウェイ「パラダイム X」を使用(昨秋時点。現在3Wは入れていない)。彼女は重心距離を短くすることで、ミスヒットの強さに加えて若干の操作性を味付けしている。川崎春花が使うテーラーメイド「SIM グローレ」は慣性モーメントが大きく、ミスヒットに強い。

最新モデルじゃなくてもOK スプーンは中古で探すのもアリ

上田桃子は年季の入った「X-HOT PRO」(2013年モデル)を使用

女子プロのバッグをのぞくと、「何年モノ!?」という驚きのスプーンを目にする。桑木志帆が使うブリヂストン「TOUR-B XD-F」(2018年)や、青木瀬令奈が使うダンロップ「スリクソンZF85」(2018年)、西村優菜が使うキャロウェイ「XR16」(2016年)、上田桃子が使うキャロウェイ「X-HOT PRO」(2013年発売で上田桃子が使用したのは2016年から)は、すでに新品では手に入らないもモデルばかり。中古市場を探すと1万円以下で見つけることができるから、歴代の名器を見つけるのも一つの手だろう。

なぜ彼女たちがスプーンを替えないのか?ドライバーよりも狭いエリアを狙うクラブなので、飛距離性能よりもイメージ通りの球が出ることに重きを置いているからだ。彼女たちのスプーンのフェース面を見てほしい。打面の塗装が剥げている選手が少なくない。あきらかに練習量が多い上に、自分のスイングに合ったシャフトを選んでいるのだ。長年使っているスプーンでのスイングが基準となっている選手もいるほど。替えるに替えられないというのがほとんだろう。

今回紹介した女子プロが選んだスプーンは参考になっただろうか。ギア選びも重要だが、まずは多くのアマチュアゴルファーが苦手としているフェアウェイウッド自体を好きになることが肝心。5番や7番ウッドを使いこなして苦手意識をなくしてから、スプーンをじっくり選んでも、決して遅くはないはずだ。(文・田島基晴)

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