ベルリン国際映画祭W受賞作『システム・クラッシャー』予告解禁 社会に居場所がなくなってしまった少女を繊細かつ強烈に描く

映画『システム・クラッシャー』ポスタービジュアル(C)2019 kineo Filmproduktion Peter Hartwig, Weydemann Bros. GmbH, Oma Inge Film UG (haftungsbeschränkt), ZDF

第69回べルリン国際映画祭にて銀熊賞(アルフレード・バウアー賞)とベルリナー・モルゲンポスト紙読者審査員賞の2冠を受賞した、ノラ・フィングシャイト監督の長編初監督作『システム・クラッシャー』より、乱暴な行動の裏で愛を渇望する少女の姿とニーナ・シモンの名曲が胸に響く予告編、日本版ポスタービジュアルが解禁された。

システム・クラッシャー”とは、あまりに乱暴で行く先々で問題を起こし、施設を転々とする制御不能で攻撃的な子どものこと。助けることができない子どもたちを指す言葉だ。本作は、社会のどこにも居場所のなくなってしまった9歳の少女を繊細かつ強烈な描写で描き、ベルリン国際映画祭やドイツ映画賞など世界各国で37冠に輝いた。

9歳の少女ベニーは、幼少期に父親から受けたトラウマを背負い、手の付けようのない暴れん坊と化してしまう。その怒りようといったら烈火のごとく、里親、グループホーム、特別支援学校、どこに行こうと問題を起こして追い出されてしまう。そんなベニーの願いは、ひとつ。「ただ、ママのもとに帰りたい」。しかし、母はベニーに対して愛情は持ちながらも、どのように接していいのか皆目見当がつかず、施設へと押し付け続ける。

このままではどこにも居場所がなくなってしまうという中、非暴力トレーナーのミヒャは、自分とベニーの2人きり森深くの山小屋で3週間の隔離療法を受けさせることを提案。はじめは文句を言い続けていたベニーだったが、徐々にミヒャへ心を開き始め、ある変化が…。ぶち切れるのは愛の不足の裏返し。ただママに愛されたいだけの少女が突き進む崖っぷちの物語が、いま幕を開ける。

監督・脚本を手がけたのは、本作が長編映画デビュー作となるノラ・フィングシャイト。ホームレスのための避難所生活を描いたドキュメンタリーの撮影中、初めて“システム・クラッシャー”と呼ばれる子どもがいることを知ったことから、教育支援学校、緊急収容センター、児童精神科病棟などの関係者と綿密に取材を重ね、現場を体験しながら5年間のリサーチを経て脚本を執筆し、映画化した。

本作は、その繊細かつ強烈な演出により第69回べルリン国際映画祭のワールドプレミア上映では10分間のスタンディング・オベーションを受け、銀熊賞(アルフレード・バウアー賞)とベルリナー・モルゲンポスト紙読者審査員賞の2冠を受賞。2020年ドイツ映画賞では作品賞、監督賞、脚本賞、俳優賞、女優賞を含む8部門を受賞。さらに、第92回アカデミー国際長編映画賞ドイツ代表作品に選出されるなど、世界各国で37冠(&26のノミネート)に輝いた。ドイツ本国では2019年9月に劇場公開され、観客動員数20万人突破の大ヒット。日本ではEUフィルムデーズ2021、ドイツ映画祭Horizonte2021で上映され、圧倒的なエネルギーに満ちた作品として話題となった。

フィングシャイト監督は、2作目『消えない罪』でサンドラ・ブロックを主演に迎え、20年の刑期を終え出所した女性を描き、早くもハリウッドへの進出を果たした。3作目となる『The Outrun(原題)』は、アルコール依存症の克服を描いた作品で、シアーシャ・ローナンが主演・製作を務めたことでも注目を集めた。

ベニーを演じた主演のへレナ・ツェンゲルは、2008年生まれの現在15歳。撮影当時は10歳という若さで、2020年ドイツ映画賞の主演女優賞を歴代最年少で受賞する快挙を成し遂げた。出演シーンの大半が全身全霊の慟哭で周囲を絶望に追い込む強烈な役どころ。悲しげな青い目で愛情を切望するかと思えば、一瞬で自信に満ちた小さなサタンのような目となる。叫び、悪態をつき、制御が効かない女の子に変ぼうしてさまざまな感情の幅を演じ切った。

ベニーの救いの鍵を握るトレーナー、ミヒャ役には、『西部戦線異状なし』で重要な役を演じ英国アカデミー賞ノミネートに輝いたアルブレヒト・シュッフ。ベニーを想う気持ちとは裏腹に、どうしても受け入れられない心の葛藤を、粗野的かつ繊細さが混在する表情で演じ、2020年ドイツ映画賞では主演男優賞を受賞。ベニーを担当するソーシャルワーカーを演じるのはドイツ界の名バイプレイヤー、ガブリエラ=マリア・シュマイデ。どの施設からも断られ続けるベニーを、つねに忍耐強く支える愛情深い演技で、2020年ドイツ映画賞の助演女優賞を受賞した。

予告編には、中指を突き立てまくしたて続けるベニーの姿が満載。でも彼女の本当の願いは、ただママと一緒にいたいだけ。そんな願いも、社会の理不尽にぶち当たるとすぐに忘れてキレ散らかしてしまう。見知らぬおじさんに悪態をつき、学校に行きたくないと刃物を振り回し、ついには鎮静剤を打たれ動けなくなったベニー。家族もお手上げの状態で、このままではどこにも居場所が無くなってしまうベニーは、非暴力トレーナーのミヒャと、森深くの山小屋で3週間過ごすことに。「私すぐキレちゃうからママに会えない」とこぼすベニーに、ミヒャは「君は変われる」と優しく語りかけ…。

9歳児のベニーが直面する過酷な現実に胸が痛み、それでもママを呼び続けるベニーのやまびこに切なさを覚える予告編だ。バックで流れるニーナ・シモンの名曲「Ain’t Got No, I Got Life」は、なにも持ちえない自分という絶望と、それでも命と自由だけはあるという不屈の希望を歌った、映画本編でも流れる名曲。ニーナ・シモン自身も当時、アメリカが抱えていた様々な矛盾や問題、そして自身の置かれた環境や家族、自分自身への怒りをストレートにぶつけ、一時は音楽業界からも忌避された過去を持つ伝説のアーティスト。本作の主人公ベニーと重ね合わせると、楽曲がより胸に響く。

日本版ポスタービジュアルは、子どもも大人も関係なく悪態をつきまくる嵐のような9歳の少女ベニーが、不敵な表情でキャンディーを頬張る姿を捉えたもの。その怒りに満ちた態度とは裏腹に、愛の渇望を訴えるかのような鋭い視線が目を引く1枚となっている。

映画『システム・クラッシャー』は、4月27日より全国順次公開。

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