【レポート】スーパー歌舞伎『ヤマトタケル』上演中。隼人、團子、米吉の新世代で見せるスペクタクル。

すべての写真(17)を見る

3月20日(水・祝)まで新橋演舞場にて上演されるスーパー歌舞伎「三代猿之助四十八撰の内『ヤマトタケル』」が開幕した。初日に向けての公開稽古の模様をお届けする。

『ヤマトタケル』は、二世市川猿翁(当時三代目市川猿之助)が哲学者の梅原猛に依頼し、日本神話にある日本武尊の伝説をもとにつくり上げたスーパー歌舞伎。1986年の初演以来、スピード感を持ってスペクタクルに壮大なストーリーを描く世界観が、観る者を圧倒してきた。今回は、昨年逝去した猿翁の思いを受け継いで、初演当時の演出や構成に改めて立ち返って上演。新橋演舞場公演では、小碓命(オウスノミコト)後にヤマトタケル/大碓命(オオウスノミコト)の二役を中村隼人と市川團子が交互に勤め、兄橘姫(エタチバナヒメ)/弟橘姫(オトタチバナヒメ)の二役を中村米吉が演じる。

物語は大和の国の宮殿から始まる。小碓命(隼人)は、父である帝(市川中車)から、5日も儀式に欠席している双子の兄の大碓命(隼人)を確認してくるよう命じられた。大碓命は、妻の兄橘姫(米吉)がいながら、その妹の弟橘姫(米吉)に言い寄っている。そこへやって来る小碓命。ここからの場面は、隼人と米吉の早替りが見どころとなる。隼人は、声の高さや振る舞いに変化をつけ、小碓命では純粋さを、大碓命では色悪の香りを見せつけていく。米吉も、この場の早替りを見事に見せ、その後も、物語が進むにつれて変化していく兄橘姫と弟橘姫の内面を、説得力を持って演じた。

さて、その早替りをしながらの会話の中で、小碓命は兄の計画を知らされる。継母の皇后(市川門之助)が自身の子を世継ぎとするために自分たち兄弟は殺されるだろう、だから先に父と継母を殺すのだ、と。諌めようとする小碓命に斬りかかる大碓命。争うはずみで小碓命は兄に手をかけてしまう。が、小碓命はその真相を語らず帝の怒りを買い、熊襲征伐を命じられて大和の国から追放される。それは、死を意味するものでもあった。しかし、大立ち回りの末に強敵を倒した小碓命。熊襲のタケル兄弟からタケルの名を託されて、ヤマトタケルと名乗り、意気揚々と大和の国へ戻る。ところが、今度は蝦夷を征伐せよと命じられて東に赴き、相模の国とも戦い、ようやく大和へ帰れると思いきや、伊吹山の山神征伐の命が届く。タケルは父に認められず、戦いに明け暮れることになるのである。

それらの戦いの演出には胸が踊る。熊襲では、樽を投げ壁を壊し迫力の立ち回りを見せ、「焼津」では、赤い大きな旗を振り回しながら火の海で戦う姿を見せる。しかも、そんなエンターテインメントに徹した場面を見せながら、同時に、その戦いにはいったいどんな意味があるのかと、タケルに、そして観客に、問いかけてくるようなシーンも現れるのである。

なかでも、タケルと旅を共にした弟橘姫が犠牲を払う場は、米吉が表現する弟橘姫の強さが、勝ち続けて自信をつけていたタケルを慄かせる。大切な人を失って自分は何をしているのだろうかと。また、各地でタケルに敗れて散っていく人々も声を挙げる。野蛮な地を平定すると言いながら、大和の国のほうこそ野蛮なのではないか。それぞれの俳優たちからあふれるエネルギーが胸に迫り、勝っても勝ってもタケルの苦悩は続く。それを振り払うかのように太刀を振るタケル。ますます磨きのかかった隼人の立ち回りが切なく美しい。

もうひとりのヤマトタケル役の團子は、この日は帝の使者を演じた。タケルが救われるような伝言をもたらす役割だ。その凛々しい立ち姿から、團子が演じるヤマトタケルへの期待が膨らむ。

舞台は、白い鳥になって翔ぶタケルの宙乗りで幕を閉じる。最後にヤマトタケルが語る“天翔ける心”に歌舞伎の未来も重なってくる。こうして新たなヤマトタケル役を得ながら、これからもさらに先へとつながっていく作品となるだろう。

取材・文:大内弓子

<公演情報>
スーパー歌舞伎 三代猿之助四十八撰の内
『ヤマトタケル』

作:梅原猛
監修:石川耕士
脚本・演出:二世市川猿翁

出演:
小碓命後にヤマトタケル / 大碓命:中村隼人、市川團子(交互出演)
兄橘姫 / 弟橘姫:中村米吉
帝:市川中車
皇后 / 姥神:市川門之助
タケヒコ:中村福之助
ヘタルベ:中村歌之助
犬神の使者 / 琉球の踊り子 / 新朝臣:嘉島典俊
ヤイラム:市川青虎
老大臣:市川寿猿
倭姫:市川笑三郎
国造の妻:市川笑也
熊襲兄タケル / 山神:市川猿弥
帝の使者:中村隼人・市川團子・市川青虎(交互出演)
尾張の国造:中村錦之助
熊襲弟タケル:中村錦之助・中村歌之助(交互出演)

※小碓命後にヤマトタケル / 大碓命の市川團子は体調不良のため、2月9日(金)より当面の間休演

2024年2月4日(日)~3月20日(水・祝)
会場:東京・新橋演舞場

チケット情報:
【2月分】
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2347842

【3月分】
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2347988

公式サイト:
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/shinbashi/play/842

すべての写真(17)を見る

© ぴあ株式会社