収穫なき準々決勝敗退!日本代表総括【アジアカップ】

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大会前「史上最強」と評され、AFCアジアカップ2023に挑んだ日本代表は、2月3日のイラン戦に敗れ準々決勝敗退。早期に開催地のカタールを去ることとなった。

FIFAランキング17位でアジア勢ではトップの日本と、同21位でアジア2位のイランとの対戦だったため、厳しい試合になるのは分かっていた。それでも、後半の内容は予想外。完敗と言わざるを得ない展開で今大会を終えた。ここでは、残念な結果を残したアジアカップでの日本代表を総括する。


鈴木彩艶 写真:Getty Images

不安要素を抱えていた日本

2024年のスタートは決して悪くなかった。元日に開催されたタイ代表との親善試合は、急造チームながら5-0で快勝。国際Aマッチでの連勝を9にまで伸ばし、日本代表の連勝新記録を樹立した一行は意気揚々とアジアカップの開催地、カタールへと向かった。しかし、思えばこの時から不安要素は見え隠れしていた。森保一監督はベストメンバーといえる26名を集めたが、DF冨安健洋(アーセナル)やDF板倉滉(ボルシアMG)、MF三笘薫(ブライトン・アンド・ホーブ・アルビオン)といった中心選手に加え、FW旗手怜央(セルティック)やFW前田大然(セルティック)、FW中村敬斗(スタッド・ランス)など怪我を抱えたまま、もしくは怪我明けでの招集だった。

1月14日、日本のアジア杯初戦はフィリップ・トルシエ監督率いるベトナム代表。トルシエ監督は、2002年のFIFA日韓ワールドカップ(W杯)時に日本代表を率いており、決勝トーナメント進出を果たした実績がある。トルシエ監督の代名詞である「フラット3」はこの試合でも健在で、セットプレーの流れから先制に成功するも、反対にセットプレー2発で易々と逆転を許した。

なかでも守護神に抜擢されたGK鈴木彩艶(シント=トロイデンVV)は、2点目の対応が批判の対象となった。前半のうちに再び逆転し、最終的なスコアは4-2だったため目立たなかったが、FW南野拓実(ASモナコ)の2得点1アシストがなければどうなっていたかわからない。応援する身としては、優勝候補特有の決勝戦に向けてコンディションを上げていく過程、と考えたかった。


旗手怜央 写真:Getty Images

メッキが剥がれ、そのまま終戦

ベトナム戦から中4日で迎えた第2節の相手はイラク。このグループ最大の強敵と目されていた相手に前半で2点を先行され、後半アディショナルタイムに1点を返すのがやっと。1-2で敗れ、ロングボールと速攻への対応という明確な弱点をアジア中に晒すこととなった日本。事実上の完敗で、日程的に有利な1位突破を逃した。

続く第3節のインドネシア戦ではFW上田綺世(フェイエノールト)が2得点を挙げ3-1で勝利したが、初戦から続く失点は止まらず。グループ2位で決勝トーナメントに進んだ1回戦では、グループEを首位通過したバーレーンと対戦し、前半で2点を先行すると最終的に3-1で勝利した。

この試合で三笘が復帰し、ようやくある程度噛み合い始めたように見えたが、この試合で旗手が負傷。ただでさえ層の薄かったボランチは、実質3人のみとなった。最後の試合となったイラン戦では、先制しながら後半ロングボールを起点に押し込まれ続け耐えきれず、収穫らしい収穫もない大会となってしまった。

伊東純也 写真:Getty Images

揃わなかった最大の武器

最後まで両翼という日本最大の武器が揃うことはなかった。三笘とFW伊東純也(スタッド・ランス)は独力で相手を崩せ、苦しい時間帯には陣地を回復してくれる存在。2人が揃い踏みしなかったことで、かえって彼らの存在感を強めたのは皮肉な話だった。

左の三笘は所属チームで負った左足首の怪我の影響で、決勝トーナメント2試合での途中出場のみ。「らしさ」を見せたのはバーレーン戦のみだった。右の伊東はグループリーグ初戦からスタメン出場を重ねたが、その後週刊誌の報道によって大会からの離脱を余儀なくされた。

日本代表にはほかにも、MF堂安律(SCフライブルク)やMF久保建英(レアル・ソシエダ)、FW中村など素晴らしい選手がいる。しかし、彼らは周囲との連動性の中で活きる選手たち。相手に分析されて分断され、自らの活気にも欠けた今大会で継続的な活躍を見せるのは難しかった。


カタール代表 写真:Getty Images

影響を与えた地の利

言い訳がないわけではない。サッカーには地の利が存在する。W杯では、ブラジル大会でドイツが優勝した2014年までの長きにわたり、欧州で開催された大会は欧州の国が、南米で開催された大会は南米の国が優勝してきた(1958年のスウェーデン大会を除く)。

今大会の開催地はカタールで、やはり同地域の西アジア勢が躍進した。本大会に出場した24か国のうち、西アジアの国は11か国。そのうち9か国が決勝トーナメントに進出した。

準決勝ではヨルダンとカタールが勝利し、西アジア勢の決勝戦に。アジア全体のレベルアップは事実にせよ、地の利が明確に見える大会となった。


森保一監督 写真:Getty Images

失われた貪欲な姿勢と競争

東アジア勢には難しい大会になったとはいえ「仕方ない」で済ませるわけにはいかない。少なくとも準々決勝のイラン戦では先制しており、勝つことは不可能ではなかったはずだ。ところが劣勢となった後半、森保一監督は手を打たなかった。試合後には「交代カードをうまく切れなかった」と話したが、この大会を通じてパフォーマンスの良くない選手を使い続ける例はいくつも見られた。

グループリーグのGK鈴木彩艶、グループリーグ1~2戦目のDF菅原由勢(アルクマール)、イラク戦やイラン戦のDF板倉などは実際に失点に絡んだ。監督が選手への信頼感を示すことは重要だが、クラブチームと代表、それも重要な大会では基準が異なって然るべきだ。

現在の日本代表は、全員がプロとして相当な活躍を見せてきた選手たちである。各クラブチームで競争を勝ち抜いた選手だからこそ、代表戦ではクラブチーム以上の激しい競争があるべきではないだろうか。パフォーマンスが良くなければ積極的に入れ替えるべきだと考える。少なくとも無理に起用を続け、かえって評価を落とすのは避けた方がいい。今大会では敗退という結果以上に、選手たちから貪欲な姿勢が見られなかったことに危機感を覚えた。限られた時間の中で、その姿勢を生み出すことこそが、代表チームの監督やスタッフが果たすべき最低限の仕事ではないだろうか。

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