大阪西成ホテルの最高峰 「HOTEL PIVOT」 【はんつ遠藤の大阪・西成C級ホテル探検(19)】

インバウンドも好調で日本人観光客の動きもコロナ禍とは比較できない程の昨今、オーバーツーリズムの問題点はあるものの観光業界、特にホテル業界は一安心といったところだろう。そんな中、以前から大阪西成に宿泊している身として今、確実に西成のホテルも変化している事を感じる。

それは、二極化だ。1泊1,000円台の三畳一間バストイレ共同レベルのホテルは、「相変わらず」という言葉がぴったりなほど、地道に人気を博している。と共に、最近増加傾向にあるのが、いわゆる「高級西成ホテル」と呼ばれるアッパークラス。

前回にご紹介した「ホテル中央ブリッジ」

も、しかり。1泊3,800円でバストイレ付き。1,000円台で泊れる西成で、なにもそんな高級ホテルに泊まる必要性はないのでは?と心の底で思ってしまう自分の感覚が怖い。むしろ世間から見れば、他の地域ならば5,000円以上するのが通常のクラスが3,000円台とかで泊れてお得、と考えるほうが自然だろう。

今回も西成へと向かった。宿は「HOTEL PIVOT」。大阪メトロ動物園駅の至近で、大通り沿いと、西成にしてはとても安全な立地だ。2020年7月オープンの同ホテルは、常々紹介している「ホテル中央」グループの1軒だ。もともとは「ビジネスホテル中央」だったのをリノベーション。見違えるほどに美しく綺麗に変貌した。

カラフルな色彩からどことなくラブホテル的な雰囲気も醸し出していると思わるかもしれないが、至って普通のホテルだ。一室限定の最上階にあるスペシャルルーム(スイートルーム)のライトがとても気になるが、一室12,000円からなので諦め、通常のシングルルームにした。通常だと5,000円だが28日前までの早割プラン(オンライン決済限定)だったので、4,500円。シングルルームとしては、おそらく西成一の高価格だ。

ちなみに、左(西)隣は西成の駆け込み寺的な存在のキリスト教会、大阪救霊会館。その対比が、なんともシュール的にも感じる。

エントランスも広々とし、フロントも令和というか近未来を想像させるような出で立ちだ。

記帳を済ませて、アメニティコーナーから必要なものをGET。化粧水やローションなども完備され、女子ウケもする素晴らしいラインナップに、これからの西成の爽やかさを予感する。もちろんインバウンド需要も見据えての戦略は、間違いない。

綺麗なエレベーターでアサインされた4階のシングルルームへと向かった。

エレベーターを降りれば、廊下はやはりカラフルに彩られていた。ディズニーランドと言えば言い過ぎだが、少しだけアトラクション的な気分にもなった。

キーもカードタイプで、ドアノブの上部にタッチするだけ。これが西成だから、恐れ入る。

ドアを開ければ決して広くはないものの、三畳一間ではない。というより、ベッドタイプの洋室で、真っ先に目に飛び込んできたのは、洗面台!

一言で表現すれば、一般的なホテルよりも上質である。

テレビ、冷蔵庫、独立型のエアコン。ドライヤー、卓上型のミラーはもちろん、ハンガーも3本、そして箱型のティッシュも。しかも、体重計まで備え付けられている。タオル、バスタオル、使い捨てのスリッパにバスローブまで。

1階のアメニティを取り忘れても、シャンプー、コンディショナー、ボディーソープ、歯ブラシ、除菌シートまで用意されていた。

さらに特筆すべきはコンセントの多さ。多すぎるほどの差込口があった。

バスタブこそないものの、シャワー&ウォシュレットトイレ付きの部屋だ。すべて清潔に保たれている。

あらさがし的に問題点を探せば1点だけ。ドアにドアスコープがあるのは素晴らしいが、目隠し的なステンレスのカバーが無い。何度も書いているが、そんな時のためにシールのようなものを常備しておくと良いだろう。

それはさておき、思わず、1か月ほど滞在してみたいとまで思わせる空間がそこにあった。と思って後から検索したら、ちゃんとウィークリープランやマンスリープランまで用意されていた。もう、敬服というほか無い。

ここまでしっかりしていると、もはや問題点を探るというよりも、逆にワクワク気分の館内探検である。時々、表側が綺麗でも階段は汚いというホテルがあるが、内階段という事もあり、階段自体も清潔だった。

1階のフロント向かいなどには広めのロビーがあり、ソーシャルディスタンスを考慮した配置で、2人用のテーブル&チェアが整然と並んでいた。

他にも奥にはソファー、テレビなどもあり、くつろげる雰囲気である。

トイレ、ソフトドリンクの自動販売機、なぜかパープルのライトを施された洗濯機&乾燥機ルーム。

ちょっとしたIT対応のキッチンもあり、電子レンジや電気ポットも。まさに自炊可能な“暮らせるホテル”だ。

さらに1階の裏側へと回れば本が置いてあったりして、そしてリノベーション前の大浴場の浴槽がオブジェ化して登場した。そういえば十年程前に、僕はここに泊った事があった。それを、いきなり思い出した。

HOTEL PIVOTでは着物のレンタルもしているようだ。京都などでは着物姿の観光客をよく見かけるが、西成もそうなるのかもしれない。この先、西成も凄い変貌があるかもしれない。ちょっとまだ自分の頭が付いていけて無いが(汗)

その後、僕は用事があって隣駅である天王寺へ行き、早々に用事を済ませると、ホテルのあまりの居心地の良さに吸い寄せられるように、近鉄百貨店の食品コーナーで弁当を購入してそそくさと戻り、夜は部屋飲みとなった。

翌朝も天気が良かった。朝5時~11時まで1階でコーヒー無料サービスも提供(セルフサービス)しているので部屋に持ち帰り、テレビを観ながら10時のチェックアウトまでゆったりとした時を過ごした。

1泊素泊まり5,000円ならば大阪の他地域のホテルでも泊まれるという意見もあるだろう。しかし清潔感や利便性を考えたら、HOTEL PIVOTは、かなりの高ポイントだ。西成だからこそ、この価格で最上級を堪能できてしまう。日ごろ三畳一間に宿泊している身としては複雑な思いもあるが、これも西成という地の利点なのかもしれない。

■プロフィール

はんつ遠藤

1966年東京生まれ。早稲田大学卒。不動産会社勤務を退職後、海外旅行雑誌のライターを経て、フードジャーナリスト&C級ホテル評論家に。飲食店取材軒数は1万軒を超える。主な連載は「週刊大衆」「東洋経済オンライン」など。著書は「取材拒否の激うまラーメン店」(廣済堂出版)など27冊

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