もてなせずも伝統守る 輪島・三井で「あえのこと」 田の神様送り、実りと復興願う

田の神様に甘酒を振る舞う住民=9日午前10時55分、輪島市三井町小泉

 国重要無形民俗文化財で国連教育科学文化機関(ユネスコ)無形文化遺産に登録されている奥能登の農耕儀礼「あえのこと」は9日、輪島市三井町の「茅葺庵(かやぶきあん) 档(あて)の館」で営まれた。能登半島地震の影響で、延期や中止を余儀なくされる家庭も多い中、「伝統を守りたい」と実施を決めた。断水のため、田の神様を風呂や食事でもてなすことはできなかったが、神様を無事に田んぼへ送り出し、秋の実りとともに能登の復興を願った。

 あえのことは、農家が12月に田の神様を自宅に招き、翌年2月に田んぼへ送り出す農耕儀礼。今年は家屋の倒壊や断水で、中止や延期を決める地域が出ている。

 档の館では午前9時から、住民10人が地震で散乱した家財道具や傷んだ戸の片付けを進め、畳を拭くなどして準備を整えた。断水のため、例年のような膳の料理や暖かい風呂は準備できなかったが、住民が持ち寄ったサツマイモとダイコンを用意した。

 無事だった神棚には神様の依代(よりしろ)を供え、主人役を務める三井公民館の小山栄館長が「今年は十分なもてなしができませんが、どうかお許しください」と頭を下げ、神様の好物とされる甘酒を振る舞った。その後、三井小児童が作った「がんばろう三井」の横断幕を掲げ、神様を田んぼへ送り出した。

 約2千人が暮らす三井町では、現在も約70人が避難所に身を寄せており、壊れた住宅で生活する住民も多い。一方で、営農については「できる範囲で田んぼはやらんなん」「地震に負けとれん」との声が聞かれるという。

 小山館長は「さまざまな意見があったが、みんなの協力で田の神様を無事に送り出せてほっとした。きっと神様も許してくれるだろう」と話した。

© 株式会社北國新聞社