貯水率0%のダム、地面のひび割れはまるで“ウユニ塩湖” 一方、下流の川には水?! その正体は“堆砂容量”に溜まった水… 県内No2の規模「鹿野川ダム」の謎に迫る

県内No2の規模を誇るダム・3ヵ月もの間、貯水率0%に…

ここは、愛媛県南西部を流れる肱川(ひじかわ)。

四季折々の情景は豊かで、夏には岐阜の長良川・大分の三隈川(みくまがわ)と並び称される「うかい」や、冬には霧を伴った風が河口を吹き抜ける「肱川あらし」などが、多くの人々を魅了します。

そんな肱川の流域にあるのが大洲市の「鹿野川ダム(かのがわダム)」。1959年に運用を開始し、総貯水容量4,820万トンで、県内2番目の規模を誇ります。

しかし、記録的な少雨の影響で、2023年11月から3か月あまりにわたって貯水率0パーセントの状態が続いていました。

貯水率0パーセントの状況で、下流の肱川に水は流れるのでしょうか…?
そして、市民生活に影響はないのでしょうか…?

まずは鹿野川ダムのことを知るため、ダムを管理する「鹿野川ダム管理支所」を訪ねることにしました。

そもそも、鹿野川ダムが担う役割は?! 1つは洪水調整

訪れたのは「鹿野川ダム管理支所」。こちらの施設は貯水率の観測やあらゆる調整を行う、いわばダムの心臓部です。

鹿野川ダムはどんな役割を持っているのか、肱川ダム統合管理事務所の南本秀行副所長に聞いてみると「このダムは2つ、大きな役割がある」とのことです。

1つ目が「洪水調節」。洪水調節とは、大雨が降った際、洪水が起きないようせき止める機能のほか、事前放流の機能もあります。

事前放流とは、雨が降る前にダムの水を吐き出して容量を空けておくもので、2019年にはより早い段階で調節できる「洪水吐(こうずいばき)」というダムの水の“吐き出し口”も完成しました。

そのほか、急激に水位が上昇した場合、ダムの決壊をさけるために行われる緊急放流の機能もあります。2018年7月の西日本豪雨では、ここ鹿野川ダムでも緊急放流が行われました。

鹿野川ダムが担う、もう1つの大事な役割とは…

そして、もう1つの役割がダムの下流における「河川環境の維持」です。

雨が少ないときには、ダムの水を放流することで川の流れを保ち、下流部の河川環境を維持する、という役割も担っているそうです。

ただ、現在の鹿野川ダムの貯水率は0パーセント。この状況で、河川環境の維持は可能なのでしょうか…。

その謎を解くため、今回、特別にダム湖へ入らせてもらいました。

潜入!! 貯水率0パーセントの鹿野川ダムの内へ

貯水率0パーセントのダムの中へ足を踏み入れダム底を見てみると、地面がひび割れていて、そのひび割れはまるで南米・ボリビアにある“ウユニ塩湖”のようです。

――例年だとどれくらいまで水が来ている。
(肱川ダム統合管理事務所・南本秀行副所長)
「例年、今の時期だと貯水率40%くらい。対岸の山肌を見ると草が生えているが、あそこでだいたい貯水率40%」

例年と比べても水位が大きく下がっているのが見て分かります。ただ、ここで1つ気になることが…。

なんと、ダムの貯水率0パーセントのはずなのに、水が溜まっているのです。見てはいけないものを見てしまったのでしょうか…。

――水が溜まっているが、貯水率には含まれないのか。
(肱川ダム統合管理事務所・南本秀行副所長)
「『堆砂容量(たいさようりょう)』として溜まった水で、貯水率には含まれない容量になる」

もちろん、いまのダムの貯水率は0パーセント。副所長が説明する、貯水率に含まれない「堆砂容量」とは一体なんなのでしょうか?

貯水率0パーセントなのに水がある?! 鍵は“堆砂容量”

実は、この鹿野川ダムには3種類の容量があり、大雨が降った時に水が溢れないようにするための“余裕”として設ける「洪水調整容量」、ふだん川に水を供給する「河川環境容量」、そして「堆砂容量」があるそうです。

堆砂容量とは、ダムの利用開始から100年で溜まると予想される土砂を蓄えるための容量で、ここに溜まった水は貯水率には含まれません。

つまり、貯水率0パーセントでも、ダムの水が完全に尽きたわけではなく、この堆砂容量内の水を川に放流しているということになります。

実際に下流部の肱川を見てみても、変わらず清流が保たれていますし、今後しばらく雨の少ない状態が続いたとしても、ダムや川が干上がることは考えにくいということでした。

そうは言っても、3ヵ月間も貯水率0%…本当に影響無し?

鹿野川ダムは2月6日午前4:30に貯水率0パーセントから脱し、それ以降も緩やかに貯水率は回復しています。

過去の記録を見ると、2009年に39日間、2022年12月に13日間、それぞれ貯水率0%が観測されましたが、3か月あまりという長期にわたって0%になったのは、鹿野川ダムの運用開始以来初めてだということです。

こうした状況を受け、肱川を管理する国交省などは、2023年10月から翌1月にかけて流域の12地点で水質や生態系、景観に影響が出ていないか調査を行いましたが、全ての地点で「影響なし」と判断されたということです。

なお、鹿野川ダムの水は生活用水としては使われておらず、主に洪水調整、河川環境の保全、発電のために利用されいて、貯水率が下がっても市民生活への直接の影響は無いということでした。

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