「俳優、タレントの存在ありきで」人気漫画家が明かした日本と台湾の“原作リスペクトの差”に「辟易する」と広がる衝撃

日テレ ホームページより

人気漫画『セクシー田中さん』の作者である芦原妃名子さん(享年50)が、昨年同作がドラマ化された際の脚本トラブルを明かした後に急死した問題。芦原さんは亡くなる数日前にXとブログで、原作が未完だったため、映像化に際して“原作に忠実であること”といった条件を日本テレビに提示していたが、守られず改変された脚本があがってきたことなどを明かしていた。

多くの漫画家がこの件に言及するなか、『チェーザレ 破壊の創造者』『ボーイフレンド』など多くの人気作品を持つ惣領冬実氏が、2月8日に自身の公式サイトを更新し、過去の経験について綴った。

代表作の一つ『MARS』(講談社刊)が’04年に『戰神 MARS』として台湾で、’16年に『MARS〜ただ、君を愛してる〜』として日本でテレビドラマ化されている惣領氏。奇しくも日本でドラマ化を担当した放送局は、『セクシー田中さん』と同じ日本テレビだ。

公式サイトではまず冒頭で、《あまりにも重い結果を招いてしまったことを本当に残念に思っています》と芦原さんを追悼した上で、《当事者でない私がこの件に言及するのもどうなのかと思い悩んだのですが、私も過去に原作を実写化した経緯があることから、その時に感じたことを私なりに言葉にしてみようと思います》と『MARS』の映像化を巡る経験を明かした。

‘16年の日テレでのドラマ化について《この時の実写化については正直あまり乗り気ではありませんでした。それは多くの原作者が言っているように原作の大幅な改変が常習となっていたから》とオファーを受けた際の心境を明かしつつも、最終的に《別フレ編集部的にはどうなのかと相談したところ、編集部はメディア化はやはり有難いことだという見解》ということで、連載していた『別冊フレンド』編集部に一任する形で了承することに。

了承したもう一つの理由として《※それとある意味意地悪な発想で申し訳ないのですが、どの程度まで原作に寄せられるのか興味が沸いてしまいまして、すでに台湾でドラマ化されていた台湾版「MARS」と比べて日本ではどのような仕上がりになるのか見てみたくなったからです》とも言及。

台湾版について《監督のツァイ・ユエシュン氏が原作のファンであり原作に忠実に創りたいと仰っていると聞き、もちろんこれは社交辞令にすぎないと半信半疑で承諾したのですが、蓋を開けてみれば本当に原作に忠実に創られていて逆に驚かされました》とした上で、日本テレビ版の仕上がりについて惣領氏はこう明かした。

《結果は想像通り原作とは別物と言うほかない仕上りとなっていました。想定内とは言え台本に修正を入れるたび、何故私の作品を実写化しようとしたのか謎に思うこともありましたが、それでも制作サイドの誠意は伝わってきましたし、演者の皆さんは本当に頑張っておられたと思います。

これは仕方のないことで台湾版とは予算も時間も掛け方が違うため、キャラクターや背景描写の解像度が極端に低くなり、それを補うために演者の俳優やタレントの人気に頼るしかない作りになっている…と言うか、その逆で演者のために用意されたドラマという表現の方が本当は正しいのかもしれません》

そして、台湾と日本の映像化におけるスタンスの違いについてもこう綴った。

《台湾の制作サイドが原作のリスペクトから始まっているのに対して、日本テレビサイドはまず芸能事務所の俳優、タレントの存在ありきで、それに適した原作を素材として引用しているだけのように私には感じられました。これは時間や予算だけではなく、日本のメディアミックスによるものが大きいのではないかと思います。

人気のある演者と人気のある原作を組み合わせれば双方のファンとネームバリューで一定の数字は取れるはず、そこにエンタメ要素を増量すれば多少の改変があってもさらに数字は伸びるはず、それで視聴率も取れて原作本も売れればお互いWINWINで結果オーライ的な発想が根底にあるからではないかと思われます》

自身の経験を明かした上で、今回の芦原さんの件について《本題は今回の実写化に対して原作者である芦原さんが原作に忠実であることを望んでいたことであり、その拘りをテレビ局が承諾したことに大きな問題があると思います。原作者の芦原さんがどれだけ切実であったかということを、日本テレビ、小学館、脚本家の誰もが理解していなかった、もしくは理解する気がなかったということでしょうか》と映像化に関わった関係者に対して疑問を唱えた。

そして、最後に《出版社も会社であり編集も一会社員なので限界はあるとは思いますが、作品を作っていく上で作家との信頼関係はやはり非常に重要な要素だと思われますので、出来る限りのケアをしてあげられていたならと本当に悔やまれます。謹んで芦原妃名子さんのご冥福をお祈りいたします》と改めて芦原さんを偲んで結んだ。

この惣領氏が明かしたエピソードについて、ネット上ではこんな声が寄せられている。

《惣領冬実先生 流石だな オリジナルやりたきゃ結果出してからにしろって話だよ》
《日本ではメディアミックスの際に何が優先されるのか。 以前から色んな人が気付いて指摘しているのにテレビ・映画業界の人たちの危機感のなさに辟易する。 スポンサーも悪いんだ》
《MARS好き過ぎて実写化観れない。原作者の惣領先生がそんな風に思ってらっしゃるなら余計みなくて良かったかもしれない》
《戦神マースの台湾版実写化ドラマの素晴らしさを原作者さんが語ってくださってて嬉しいな 日本版マースはヒドいものでした。 なぜそうなったのかもわかりました》

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