イランを破ったカタール最強ドリブラーは「チャビの愛弟子」。同国初の“リーガ出場を果たした男”が願うこと

1月12日から開幕したAFCアジアカップ2023。10日に行われる決勝戦まで駒を進めてきたのは、ダークホースとして驚きを与えているヨルダンと、開催国のカタールだ。

ヨルダンの快進撃も大きな話題を集めているが、それ以上に盛り上がっているのは地元で「アジアカップ2連覇」を狙うカタールである。

前回の優勝時にはストライカーのアルムアズ・アリが得点王となり、大きな注目を浴びた。しかしそれから4年、スポットライトを浴びることになったのがそのパートナーであったドリブラー、アクラム・アフィーフである。

彼は決勝戦までの段階で6ゴールのアイメン・フセイン(イラク)に次ぐ5ゴールを決めており、最後に得点を追加すればトップスコアラーのタイトルも獲得できる。

18歳からカタール代表でプレーしてきた天才アタッカーであるが、かつてはヨーロッパでの挑戦に挫折し、母国に舞い戻るという悔しい経験も…。

天才アタッカーが「カタール初のスペインリーガー」になるまで

アクラム・アフィーフは1996年3月11日、カタールの首都ドーハで生まれた。父親はタンザニアで生まれたソマリア系イエメン人のハッサン・アフィーフ。かつてソマリア代表でプレーしたサッカー選手で、後にカタールで指導者になった人物だ。また、弟のアリ・アフィーフも同じくサッカー選手というスポーツ一家だ。

「二世」として生を受けたアクラム・アフィーフは父親が指揮していたアル・マルヒーヤーの下部組織で育ち、そして名門アル・サッドへ。さらにカタール国立のスポーツ選手育成機関であるアスパイア・アカデミーに入学し、その間にはスペインに留学してセビージャとビジャレアルの下部組織にも所属した。

そして、2015年にはベルギーリーグのオイペンと契約。後に豊川雄太が所属するこのクラブは、アスパイア・アカデミーを経営するカタール政府系財団が保有しており、アクラム・アフィーフはヨーロッパでのプロデビューという異例のチャンスを獲得する。

ベルギー2部で25試合に出場して8ゴールを決める活躍を見せた彼は、2016年にかつての留学先であったビジャレアルに誘われ、正式にプロとして契約を結ぶことに。

記者会見で彼は「ラ・リーガで初のカタール人選手になることは、僕にとって夢の実現だ。カタールのために何か役に立ちたい。チャンピオンズリーグでプレーすることが目標だ。ビジャレアルはスペインのビッグクラブであり、数年間で数多くのことを学びたい」と宣言した。

しかし、彼のスペインでの挑戦は悔しいものに終わることに…。

わずか「11試合」短いスペインでの旅

ビジャレアルに加入したのは2016年5月。そしてその3か月後にはスポルティング・ヒホンへとローン移籍することに。

アトレティコ・マドリー戦でフェルナンド・トーレスとマッチアップするアクラム・アフィーフ

8月21日に行われたアスレティック・ビルバオ戦で途中出場からデビューを果たし、「ラ・リーガで初めてプレーしたカタール人選手」という記録は作ったものの、2016-17シーズンはわずか9試合しか起用されずに終わる。

さらに2017-18シーズンの開幕はベルギー2部を戦っていた古巣のオイペンへと期限付き移籍することになり、さらに2018年1月にはアル・サッドへのローンで「送り返される」ような状況になってしまった。

ラ・リーガでのプレーが夢だったという彼であるが、スペインでは結局リーガで9試合、公式戦で11試合のみ。ゴールに至ってはゼロという寂しいものだった。

アル・サッドでの「世界最高司令塔」との出会い

当時オイペンの監督を務めていたクロード・マケレレは、「来季は戻ってきてくれることを願っている」と話していたものの、結局アクラム・アフィーフは再びベルギーに向かうことはなかった。

アル・サッドに加入したアクラム・アフィーフに待っていたのは、あのスペイン代表MFチャビ・エルナンデスとの再会である。

2015年夏にバルセロナからアル・サッドに加入したチャビ・エルナンデスは、アクラム・アフィーフとはいわゆる「入れ替わり」であったが、ビジャレアル加入時の会見では「練習場てアドバイスを貰ったことがある」と明かしており、チャビのアル・サッド加入後に交流があったという。

そして2018年にはチームメイトとしてアル・サッドでともにプレーすることになり、アクラム・アフィーフはカタールリーグで大ブレイクを果たす。

チャビ・エルナンデスとアクラム・アフィーフ

チャビ・エルナンデス現役最後のプレーとなった2018-19シーズンは、アクラム・アフィーフは22試合に出場して26ゴールを決め、年間最優秀選手賞を奪取。しかもこの得点数ながらアシスト王に輝いた(得点王は逃している)。

さらに、チャビ・エルナンデスが監督に就任してからもエースとして信頼を確立し、2019-20シーズンは得点王を獲得。チャビ監督にリーグ優勝のタイトルをもたらしている。

ドリブルと得点力を併せ持つ「カタールのモハメド・サラー」

今回のカタール代表においては3-4-2-1の左ウイングとしてプレーしているアクラム・アフィーフであるが、基本的に前線であればどこでもこなすことができる。

最大の武器はドリブルであり、鋭い加速を生かした縦の突破のみならず、サイドからカットインシュートを狙う方向転換も魅力だ。そこから繰り出されるシュートの精度も見事というほかない。

またカタールリーグでアシスト王に輝いた実績があることからも分かる通り、チャンスメイカーとしても優秀な技術を持っており、自分の打開力だけに頼ることもない。

その才能は、カタールにおいてワールドカップ招致アンバサダーやアル・サッドの選手や監督という仕事をしてきたチャビ・エルナンデスも認めている。

2016年にアスパイア・アカデミーのインタビューに答えたチャビ・エルナンデスは、ビジャレアルに移籍したアクラム・アフィーフについてこう話していた。

「彼がビジャレアルと契約したことは、カタールサッカー界にとっての最高のニュースだ。アスパイア・アカデミー、アル・サッド、そしてカタール全体にとって、リーガに選手がいることは素晴らしいものだ。

アクラム・アフィーフは現在も未来も大きな希望があるサッカー選手であり、ワールドカップではこの世代のリーダーになるだろう。天性の才能があり、スペインでもやれる資質がある」

また、それから3年が経過してアル・サッドでともにプレーしたあとも、チャビ・エルナンデスは以下のように称賛した。

「アジアカップ優勝、そしてアル・サッドのACLベスト4。アクラム・アフィーフが2019年のアジア年間最優秀選手賞に選ばれたのは当然だ。おめでとうと言わざるを得ない。彼のパフォーマンスはクラブでも代表でも素晴らしかった。彼は変化をもたらしてくれた。

これほどの才能を持っている彼は、多くの野望を持っている。まだまだ彼は若いし、キャリアの中で様々なことを達成できるはずだ」

チャビ・エルナンデスとはまさに「師弟関係」にあるアクラム・アフィーフ。世界最高司令塔が認める天才が、10日にはアジアの頂点を目指して戦う。

「明日にでも欧州へ戻りたい」

1月12日に行われたアジアカップ開幕戦、カタールはレバノンを相手に3-0と快勝した。そこで2ゴールを決め、マン・オブ・ザ・マッチに選ばれたのがアクラム・アフィーフだった。

『Reuters』によれば、彼はその試合後に行われたインタビューで記者団に対し以下のように話していたという。

「僕だけではない。カタールのどの選手もヨーロッパでプレーしたいと思っているよ。できれば明日にでも欧州に行きたいよ。可能ならね。だけど、それは僕がどうこうできるものではない。この国を出て、ヨーロッパに行って、そこでベンチに座るだけになってもいけない。

いま、僕はこの国を助けている。しかし、『君はどうしたいか』と聞かれれば、またヨーロッパでサッカーをプレーしたいよ」

「“ヨルダンのメッシ”と呼ばれたくない」アジア杯で大ブレイクのアル・ターマリ、『唯一の欧州組になれたワケ』とは

27歳になったアクラム・アフィーフ。チャビ・エルナンデスも認める天才は、このアジアカップでの結果で夢の欧州再挑戦に臨むことができるだろうか。

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