聖地メインロードでのオアシスのライブはまさに伝説。フットボールと音楽の街「マンチェスター」に行こう!【英国人コラム】

マンチェスターへは、ロンドンから列車で2時間、車で3時間の旅だ。

鉄道は『アバンティ・ウェストコースト』。ロンドンのユーストン駅から、ストークもしくはクルーを経由してマンチェスターのピカデリー駅に至る。英国らしい田園風景の中を滑るように進む列車の旅は、これが仕事でなかったらビールを片手に楽しみたいものだ。

その昔、10代のころは車を飛ばしてよく行った。仲間数人と連れ立って、何度もオールド・トラフォードを訪れた。アレックス・ファーガソン監督の下でユナイテッドは急速に力を付けていて、ライアン・ギグスやエリック・カントナ、デイビッド・ベッカムらの妙技を見るだけでも楽しかった。

でも、同時に恐ろしさもあった。当時は悪名高きフーリガンの時代で、スタジアムとその周辺は緊迫して張り詰めたような空気感だった。ロンドンから来たよそ者だって分かると、乱暴な連中に難癖をつけられかねないから、仲間内でもなるべく話をしないようにしていた。

マンキュニアン(マンチェスターっ子)のアクセント(訛り)はきついので、口を開くとすぐに別の土地の人間だって分かってしまう。駐車する場所を見つけて車を降りたら、会話もせず、駆けるようにスタジアムへ向かったあの緊張感を昨日のことのように覚えている。

ユナイテッドとシティという赤と青の2つのクラブを有するマンチェスターはフットボールの街であり、音楽の街でもある。『ザ・スミス』に『ザ・ストーン・ローゼズ』、そして『オアシス』と世界的なロックバンドがここから生まれている。

19世紀の産業革命以降、労働者の街として発展してきた都市の成り立ちが、フットボールと音楽というカルチャーを育んだわけだ。どちらもワーキングクラスのものだからね。

ストーン・ローゼズもオアシスも、とくにフットボールと密接に結びついている。ギターのリフが印象的なストーン・ローゼズの『This is the One』はユナイテッドの入場曲として使われていたことがある。ベーシストのマニがユナイテッドの大ファンだった。

オアシスは知っての通り、ノエルとリアムのギャラガー兄弟が熱狂的なシティのサポーターで、聖地メインロード(シティの旧本拠地)での1996年のライブは伝説だ。新(現)本拠地のシティ・オブ・マンチェスター(2011年からネーミングライツでエティハドを呼称)でも、オアシスは2005年にライブをしていて、これもマスターピースとして語り継がれている。

地元に深く根を下ろしているのは、シティのほうだ。ユナイテッドは世界的な人気クラブで、マンチェスターにユナイテッドのファンはいないというのは、あながち間違いではない。僕の周りのユナイテッド・サポーターも6人中3人がマンチェスターの人間ではないからね。たしかに、エビデンスとして採用するにはサンプルのサイズは極めて小さいけれど。

それでも、アブダビ資本の現体制になってからはシティのファン層も拡大していて、ペップ・グアルディオラとその先進的なフットボールへの興味と関心もあって、人気はグローバルに広がっている。

この青の勃興の前に霞んでしまっているのが赤のユナイテッドだ。いまや両クラブの立場はすっかり逆転している。

3冠達成でユナイテッドに肩を並べたシティは、そのライバルも果たせなかったプレミアリーグの4連覇に向かって力強く歩を進めているところだ。一方のユナイテッドは、前回のリーグ優勝からもう10年が経ち、今シーズンも苦戦している。

あのころは威風堂々と輝いていたオールド・トラフォードが、なんだか急に影が差したようで古びて見える。対照的にシティのエティハドは、光が満ち溢れている。実際、ゲームデーはスタジアムの周りで無料コンサートが催されるなどキックオフの数時間前からファンが集まり、笑顔と熱気に包まれる。

ただ、それでも現地で観戦するならユナイテッドがいいかな。あくまで個人的な感想として、いまのシティは付け入る隙がなさすぎて面白味に欠ける。理詰めで迫ってくるようなペップのフットボールにも、窮屈さを感じてしまう。そこへ行くと、ユナイテッドはまったく予想がつかなくて、不確実性というフットボール本来の醍醐味が味わえる、と言ったら皮肉を効かせすぎだろうか。

マンチェスターに行ったら、ほぼ必ず足を運ぶ場所がある。『Empire Exchange』というショップだ。フットボールのメモラビリアから古いレコードやCD、ビデオ、書籍、おもちゃや雑貨などが所狭しと並ぶ、まさにマンチェスターのカルチャーが凝縮したような楽しいところだから、興味を持った方はぜひ。

文●スティーブ・マッケンジー(サッカーダイジェスト・ヨーロッパ)

Steve MACKENZIE
スティーブ・マッケンジー/1968年6月7日、ロンドン生まれ。ウェストハムとサウサンプトンのユースでプレー経験がある。とりわけウェストハムへの思い入れが強く、ユース時代からのサポーターだ。スコットランド代表のファンでもある。大学時代はサッカーの奨学生として米国で学び、1989年のNCAA(全米大学体育協会)主催の大会で優勝した。現在はエディターとして幅広く活動。05年には『サッカーダイジェスト』の英語版を英国で手掛け出版した。

※『ワールドサッカーダイジェスト』2023年12月7日号より転載

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