『夜明けのすべて』松村北斗×上白石萌音の“優しさ”に感じた本音 温かな演出に救われる

リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、酒を毎日飲むのが習慣になってしまった間瀬が『夜明けのすべて』をプッシュします。

■『夜明けのすべて』

本作は、瀬尾まいこによる同名小説を三宅唱監督が映画化したもの。月に一度PMS(月経前症候群)でイライラが抑えられなくなる藤沢さん(上白石萌音)と、同じくパニック障害を抱えている同僚の山添くん(松村北斗)が出会い、連帯していく様子を描く。NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』で夫婦役で共演した2人の再タッグとなる作品だ。

ただし、この2人の関係性は恋愛でもなければ、友情による結びつきでもない。互いに自分の症状についての「どうしようもなさ」を抱えているなかで、「相手のことだったら助けることができるのではないか」と思い、手を差し伸べあって“連帯”しているのだ。それぞれの“症状”が出ている時の演技/描写には思わず衝撃を受けるものであるが、彼らの生活圏内の人々は温かく見守ってくれる人たちばかりで、優しい世界の中で生きていることが描かれる。

ここでなかなか言いづらいことを提示しておかなければならない。正直に言って、私は最初は2人の深刻さについて、本当の意味では理解/共感ができなかったのだ。

もちろん症状そのものの重さや深刻さについて、他者は他者の基準でしか推し量ることしかできないのが事実であり、そこについての想像力の有無についてを論じたいわけではない。自分の中での引っかかりは、その「どうにもならないもの」を“どのように受け入れるのか、アダプトするのか”という部分についてであり、端的に「もっと何かできるのでは?」と思ってしまった。

そんなことを感じてしまう自分はきっと本作をレビューする資格などない……と思っていたが、本編をすべて観た上で言えるのは、本作はそういう視点も織り込み済みであり、決してそういう視点を非難するような映画ではない、ということだ。そして今、私は声高に叫びたい。「PMS」「パニック障害」……こうしたワードを見るとたちまち距離を取ってしまう人、本作はそんな人にこそ新しい世界の見方をもたらしてくれる秀作なのだ。

先述したように、本作では徹底的に“優しい世界”が描かれている。だからこそ、他者から無意識で放たれる“棘のある優しさ”が際立つような作りになっている。その無意識の棘について私たちが自覚的になれることこそ、本作が持つ唯一無二の魅力だ。

そしてそれには16mmフィルムで撮られた映像が果たしている効果も大きい。光の切り取り方、映し方について、シーンごとに意味のある光が映し出されていることで、登場人物の心情変化や、それぞれが纏う光と影の変化を繊細に感じ取ることができる。

原作を読んでいないので確かなことを言えないが、ラストシーンの演出はきっと三宅監督の優しい眼差しによるものなのだろう。決して褒められるものではない意見を持っていた自分が、本作を通して温かい気持ちになれたのは、きっと監督の演出があったから。どんな人であっても、本作を観終わってしまえば、不思議と周りの人たちに優しくしたくなるはず。人肌のような温かさを感じる映画だった。
(文=間瀬佑一)

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