アングル:米、エルサルバドル政権と関係修復 中国と移民問題見据え

Diego Oré Sarah Kinosian Nelson Renteria

[サンサルバドル 6日 ロイター] - エルサルバドル大統領選で圧勝した現職のブケレ大統領は数年前、独裁的な姿勢を批判する米国とおおっぴらに対立していた。しかし米国は今、エルサルバドルとの関係修復に動いている。背景には、ブケレ氏のギャング弾圧が米国への移民流入抑制につながったことや、中南米における中国の影響力拡大を阻止したい狙いがある。

米国は2年前、判事の解雇を支持するといったブケレ氏の独裁的な姿勢が、芽生えたばかりの民主主義を脅かすとして抗議していた。これに激しく反発した同氏は、カネでメディアを動員して米国を攻撃するなどし、両国の同盟関係は「休止」(米高官)状態となった。

しかし今、米国は公然とブケレ氏に歩み寄っている。

10月には米国務省の中南米外交トップ、ブライアン・ニコルズ氏がエルサルバドルを訪れてブケレ氏と写真に収まった。

ブリンケン国務長官は今月5日、ブケレ氏の勝利を祝うとともに、米国は移民問題の根幹に対処する一環として、エルサルバドルの「良い統治」と「公正な裁判および人権」を優先すると述べた。

米国務省高官3人はロイターに対し、外国の干渉に激しく反抗するブケレ氏の性質を考慮し、表舞台ではなく水面下で独裁姿勢を批判する外交戦術に切り替えたと述べた。

以来、ブケレ氏は米政府への激しい「口撃」をトーンダウンさせるとともに、中南米での影響力を巡って綱引きを繰り広げる米中の関係を賢く利用するようになっている。

中南米に関する人権活動組織、「中南米に関するワシントン事務所(WOLA)」のアナ・マリア・メンデス氏は「ブケレ氏は対中姿勢を交渉カードに利用してきた。中国と関わることで、米国の外交政策に挑んだり、脅かしたりしている」と解説した。

<移民が減少>

米国が表立ったブケレ政権批判を控えるようになったのは、ブケレ氏がギャングの取り締まりに成功したおかげで米国への移民が減ったことを黙認するものかもしれないと、両国の高官らは言う。

過去数十年、暴力や貧困を逃れるためにエルサルバドルから米国に移民が押し寄せており、その人数は2021年に過去最多を記録した。しかし22年にギャングの取り締まりが始まると、サルバドル人の移民は23年にかけて36%減ったことが米当局のデータで分かっている。

<中国と関係強化>

一方、中国とエルサルバドルの関係は深まっている。

中国はここ数年で、エルサルバドルのスポーツスタジアムや浄水施設などのインフラプロジェクトに5億ドルを投資した。

米シンクタンク、インター・アメリカン・ダイアログのマーガレット・マイヤーズ氏は「エルサルバドルは今後数年間、中国となるべく緊密に協力しようとするだろう。中国は人権その他の問題を無視してくれる経済パートナーだ」と語った。

エルサルバドルの中国大使館は今週、ブケレ氏の大統領選勝利は「歴史的勝利」だとする祝辞を素早く出した。

エルサルバドルの商業的重要性は限定的だが、中国にとっては中米への足がかりとなる。エルサルバドルは2018年に台湾と断交し、中国と国交を樹立した。

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