ムーちゃん、ずっと一緒やいね 愛犬と自宅で生き埋め 救われた女性に笑顔が戻るまで 能登半島地震

能登半島地震から1週間後に再会を果たした和田美津枝さんと愛犬ムーム=伊丹市内

 元日の能登半島地震で石川県輪島市の和田美津枝さん(87)は、全壊した自宅の下敷きになった。自身はすぐに救助されたが、神戸生まれの愛犬は崩れた家屋の中に取り残された。「ムームを助けて」。生後間もなくに出会って9年。一日も離れたことがないという和田さんの願いを受け、動物レスキューのボランティア団体は3日後、余震の収まらない現場に向かった。

 ムームは、トイプードルとチワワのミックスの雄で9歳。10年前に夫を亡くして1人暮らしになった和田さんを元気づけようと、神戸の親類がプレゼントしてくれた。

 人懐っこく、少し怖がり。毎日朝晩散歩し、畑仕事の間はおとなしく留守番して待つ。電話が鳴ると、離れたところにいる和田さんに教えてくれる。寝る時も一緒で、かけがえのない家族となった。

 だが、能登半島地震で平穏だった日常は一変した。和田さんはとっさにストーブの火を消し、ベッドに寝ているムームを確かめた。瞬間、あっという間に家屋は崩れ、生き埋めになった。

 がれきの隙間からのぞいた青空に向かって、泣きながら「助けて」と叫び続けた。約30分後、気付いた近所の男性らによって和田さんは救出された。

 ムームは見つからなかった。和田さんは避難所から何度も捜しに行こうとしたが、止められた。

 

輪島から伊丹の妹宅へ

 高齢の和田さんに避難所生活は難しく、伊丹市の妹宅に向かうことになった。「ムーは私を待っとる」。ふさぎこむ様子を見かねた親類が、交流サイト(SNS)で知った災害時動物レスキューチーム「チームうーにゃん」(千葉県船橋市)に救出を依頼した。

 チームは2016年4月の熊本地震を機に誕生し、能登でも地震発生翌日から動物の捜索・救出に当たっていた。

 和田さんが伊丹に着いた先月4日、チームのメンバー2人が輪島の和田さん宅にたどり着いた。全壊した家屋を前に、どこから手を付けたらいいか分からなかった。これはダメかも…。それでも一周しながら「ムー、ムーム」と呼んだその時、がれきの奥から「…クーン」と返ってきた。

 「生きてる」。居合わせた自衛隊の2人も手を貸してくれて、約2時間かけてがれきをどかした。ムームは、ベッドの下のわずかな隙間にうずくまっていた。メンバーが食べ物を見せ、少し近づいてきたところを引っ張り出した。

 

「この子は私の宝もん」

 地震から1週間がたった8日、ムームと和田さんは伊丹で再会した。

 「3日間何も食べず、つぶれた家におってつらかったね」。抱きしめて呼びかけると、ムームはしっぽを振って答えた。「この子は私の宝もんです」。満面の笑みが戻った。

 輪島に帰りたいが、住む家はない。先行きはまだ見えないが、不安な心をムームが支えてくれる。「ムーちゃん、ばあちゃんとずっと一緒やいね」。和田さんの腕の中でムームは、眠たそうに目を閉じた。(大高 碧)

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