健脚(2月10日)

 伊勢参りは江戸時代、庶民に一大ブームを巻き起こした。全国から人々がこぞって集まる。強い信仰心が駆り立てたのかと思えば、意外とそうでもないらしい。多くは参拝を口実にした「遊楽の旅」だったとの説もある▼東北各地から伊勢を経て近畿地方を巡ったり、四国まで足を延ばしたり、はたまた富士山に登ったり…。諸国漫遊を満喫する旅の日数は短くて44日。最長では142日で5カ月弱も歩き続けた。帰郷までの総歩行距離は平均2400キロ。中には3千キロ超えの猛者もいたとか。江戸期の「歩き旅」を研究する東洋大教授の谷釜尋徳さんが、現存する旅日記を基にはじき出した▼福島市の信夫山できょう10日、「福男福女競走」が信夫三山暁まいりに合わせて行われる。「健脚の神」とされる山頂の羽黒神社まで全長約1.3キロ、高低差160メートルを駆け上がる。10回の節目に、今年一番の福を手にするのはどなたか▼脚力の維持は、加齢による心身の衰え(フレイル)を防ぐ鍵となる。日頃から鍛錬を続けたい。とはいえ、歩き慣れていない現代人に無理は禁物。当世の物見遊山は、ご近所の散歩から始めてみては。続ければ、「御利益」がきっとある。<2024.2・10>

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