福井に「福」届ける新しい鉄道 並行在来線引き継ぐ「ハピライン」のダイヤや車両は? 北陸新幹線延伸と同日の3月16日開業【コラム】

JR西日本の521系、ハピラインふくいにはJR西日本から同形式が32両譲渡されます(写真:sillky6 / PIXTA)

JRグループ全国ダイヤ改正の2024年3月16日、福井県では新しい鉄道が運行を始めます。「ハピラインふくい(ハピライン)」。同日の北陸新幹線金沢~敦賀間延伸開業に伴い、JR西日本から経営分離される並行在来線・北陸線敦賀~金沢間のうち、福井県内の敦賀~大聖寺(県境をまたいだ石川県加賀市)間84.3キロを引き継ぐ、福井県が中心になって設立された第三セクター鉄道です。

ハビラインの路線図。北陸新幹線とは芦原温泉、福井、敦賀の3駅で接続します。越前たけふは新幹線単独駅(画像:ハピラインふくい)

スローガンは「架け橋の創造」。「福井県各地の多様な営みをつなぎ、未来に向けて新しい価値を生み出す」を目標に、地域密着の鉄道を目指します。新ダイヤでは快速列車を新設するほか、普通列車も増発。沿線には、在来線最長の北陸トンネル(13.87キロ、敦賀~今庄間)をはじめ、変化に富んだ風景が広がります。北陸新幹線で福井・敦賀に行ったら、片道だけでも乗車してみたいハピラインをご案内します。

福井県と沿線市町、JRTTが出資

寝台特急「トワイライトエクスプレス」、特急「サンダーバード」、「雷鳥」、「しらさぎ」、普通列車では寝台特急を近郊形に改造した419系電車などーー。鉄道ファンに「特急街道」と呼ばれ、多くの撮り鉄や乗り鉄を引き付けた日本海縦貫ラインの北陸線で、北陸エリアに最後まで残ったJR線がいよいよ三セク化されます。

北陸新幹線延伸で、北陸線敦賀~大聖寺間の移管を受けるのがハピライン。同じくJRから経営分離される大聖寺~金沢間は、既設のIRいしかわ鉄道(いし鉄)が運行します。

ハピラインのハピは、「ハピネス(幸せ)」。福井県の「福」を表し、県民に親しまれる言葉です。ひらがな表記ですが、「はぴりゅう」は福井県のマスコットキャラクターの竜。恐竜の化石で知られる福井の新生鉄道は、くしくも辰年に第一歩を踏み出します。

ハピラインのロゴマーク。頭文字の「H」と「F」を表します(画像:ハピラインふくい)

2019年に、「福井県並行在来線準備株式会社」の社名で設立されたハピライン。公募を経て2022年7月、現社名に変更されました。筆頭株主の福井県のほか、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)、福井県内市町、民間企業が出資します

経営トップは小川俊昭社長。国鉄に採用された後、福井県庁に入庁。福井土木事務所長、土木部長などを経て2021年、並行在来線準備会社の社長に就きました。

「安全・安定運行を最大の使命とし、お客さまとの出会いを大切にして、県民から愛される、県民に元気になってもらえる鉄道を目指したい」と抱負を語ります。

2017~2021年にあわせて6回の会合が開かれた「福井県並行在来線対策協議会」。福井県と沿線市町、経済団体、JR西日本金沢支社、JR貨物金沢支店などをメンバーにハピラインの経営計画などを決定しました。JR2社はオブザーバー参加(写真:福井県)

列車増発 快速を新設

ダイヤをみます。現行1日上下102本の普通列車は、ハピラインでは131本に増発(ほかに貨物列車1日33本)。増発29本のうち9本は新設の快速列車。朝夕の通勤通学時間帯に福井ー敦賀間で運行されます。 途中停車は鯖江、武生、南条(または今庄)の3駅。普通に比べ、所要時間は10分程度短縮されます。

ピンクとグリーンで華やかに

ハピラインふくいの521系電車=イメージ=。パステルカラーで明るく華やかな印象を与えます(画像:ハピラインふくい)

車両は、JR西日本から521系電車32両(2両×16編成)を譲受します。長野ー敦賀間の並行在来線(信越線、北陸線)は県別に、えちごトキめき鉄道(トキ鉄)、あいの風とやま鉄道(あい鉄)、いし鉄、ハピラインの4社に分かれますが、521系はトキ鉄を除く3社のエース車両です。

外装は、ピンクとグリーンの帯、車体上部には、花びらや緑の葉を散りばめました。明るさや親しみやすさを感じる、華やかなデザインに仕上げたということです。

輸送密度は5600人

福井県の資料によると、コロナ禍前の2019年度データでハピラインの乗車人員は1日約1万9500人。輸送密度は5600人。同じ並行在来線のいし鉄約1万5000人、あい鉄約7700人には届かないものの、一定の利用があります。利用客の4分の3は通勤通学の定期客です。

ハピライン移管後、実質開業初年度の2024年度は乗車人員2万167人、輸送密度5435人を見込みますが、沿線人口減少などでゆるやかな減少は避けられない模様。

営業収支は2024年度7億3000万円、開業11年目の2034年度6億円のそれぞれ赤字を見込みます。赤字分は、JRTTの出資金などを基に経営安定基金を設定して穴埋めします。

利用促進策は、「利便性向上」、「駅中心の街づくり」、「地域鉄道など他交通事業者との連携」、「地域に親しまれる鉄道の実践」の4項目を掲げます。利便性向上には、「観光・イベント列車運転」や、「新駅設置(福井~森田間、武生~鯖江間、王子保~武生間)」が並びます。

ローカル線再生のモデル えち鉄と福鉄

福井県にはローカル線再生のモデルがあります。勝山永平寺線と三国芦原線の2路線を運行するえちぜん鉄道(えち鉄)。前身は京福電気鉄道(福井支社)でしたが、2000年と2001年の2回、衝突事故を発生させて国(国土交通省)は事業停止を命令。

ところが、代行バスは遅れが慢性化。沿線に「鉄道を復活させてほしい」の声が起き、県が主体になって三セクのえち鉄を設立、2003年に運行再開しました。

もう1社の福井鉄道(福鉄)も、地域の支援で再生を遂げた鉄道です。2000年以降、経営悪化で存廃が議論されましたが、地元は存続を決断。施設を自治体が保有し、福鉄は運行に専念する経営の上下分離で立て直しました。

地元ではハピライン、えち鉄、福鉄のローカル鉄道3社の経営再編も取りざたされているそう。並行在来線の針路を示す再生策として注目したいところです。

教訓残した「北陸トンネル火災」

ラストはハピラインに、新幹線とは逆の敦賀から大聖寺までバーチャル乗車します。敦賀を出るとやがて北陸トンネル。

鉄道関係者に大きな教訓を残したのが、1972年11月の「北陸トンネル火災」です。大阪発青森行き急行「きたぐに」の食堂車から出火。30人が亡くなりました。その後の鉄道車両は難燃素材を使用。国鉄はトンネル内火災時の運転方法を見直しました。トンネル敦賀側には慰霊碑があります。

福井駅の1駅手前(敦賀方)の越前花堂で分岐するのがJR越美北線(九頭竜線)。現行ダイヤのまま、JR列車はハピラインに乗り入れて福井まで直通運転します。

JR越美北線(九頭竜線)の車両(写真:Jun Kaida / PIXTA)

福井駅は、26万都市の県都・福井市の表玄関。駅前には恐竜広場も。北陸新幹線、えち鉄、福鉄と接続します。

福井~大聖寺間には丸岡城跡(坂井市)、大聖寺城址(石川県加賀市)など旧跡多数。北陸新幹線の新駅も開業する芦原温泉駅(あわら市)は、福井を代表する名湯の玄関口です。

記事:上里夏生

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