「性行為中の死亡率」高いのは “30代男性”の意外… 本当の”危険な情事”が起こり得る理由を法医学者が解説

ムリをすれば快楽も死と隣り合わせだ(Graphs / PIXTA)

親族や知人の訃報を聞くと、覚悟はできていても悲しいものだ。時には元気だった人が突然、亡くなってしまうこともある。誰しも「死」とは隣り合わせ。それなのに、知っていることは少なく、なんともミステリアスだ。

本連載では、そんな「死」の現実や不思議について、2万体を検死・解剖した法医学の第一人者が多様な角度から切り込み、解説する。

「ホントに?」「へぇ~」「まさか」…。知れば知るほど、「死」の奥深さを実感するーー。

第3回は、「性行為中の死亡率」について。意外にも30代が最多という事実を、医学的見地から解析する。(全5回)

※ この記事は上野正彦さんの書籍『人は、こんなことで死んでしまうのか!:監察医だけが知っている「死」のトリビア』(三笠書房《知的生きかた文庫》)より一部抜粋・構成しています。

腹上死の死因は心筋梗塞、脳出血

性行為で死ぬことを、一般的に腹上死という。しかし、これは医学上の用語ではなく、そのときの状態を説明する用語に過ぎない。

正確な死因は、心筋梗塞や脳出血などだ。交通事故で直接の死因が頭蓋骨骨折や脳挫傷であっても、「交通事故死」と呼ぶのと同じである。ちなみに女性が下になって死んでも、区別なしに腹上死と呼んでいる。

男性の場合は、心臓の栄養血管である冠状動脈の硬化のために起こる心筋梗塞が多く、女性の場合は、くも膜下出血が多い。死亡率は圧倒的に男性が高い。

性行為中の男性の死亡率最多は30代

年齢的には、意外かもしれないが男性は30代が最も多く、次に40代、50代、20代、60代の順になっている。

高齢者のほうが多いと思われがちだが、そうではない。自分の体をよく知っているし、精力もダウンしているので無理がきかないからだろう。

一方、30・40代は働き盛りで、精力も旺盛である。しかし、別の見方をすれば、働き過ぎで疲労が蓄積されているということでもある。

おまけに、体力と元気を過信しがちで、食生活なども生活習慣病になりやすいものを好むことが多い。知らずしらずのうちに、動脈硬化の下地がつくられているようなものだ。

さらに、アルコールを飲んで、性行為に及ぶこともあるだろうが、統計的にもアルコールを飲んだ後の腹上死は、その三割に達している。酔うと感覚の鈍麻から性行為が長引き、心臓や血圧に悪影響を及ぼすので、死亡率が高いのである。

女性は”年の差情事”で多いのは50・60代

一方女性の場合は、50・60代が多い。自分の体力に合わない若い男と情交した場合に多いようだ。

年齢差においては高齢の男性にも危険があるといえる。統計的にも、若い愛人との関係や若い後妻を迎えた場合など、年齢差が大きいほど要注意だ。

また、年齢に関係なく、長い間、性行為のなかった夫婦間で久しぶりに激しい行為に及んだときも油断ならない。

ただし、基本的に腹上死は誰もがなるというものではない。健康な若者がどんなに激しく過激な行為をしても死ぬことはない。

危ないのは、潜在的疾患を持つ人

怖いのは、自分でも気づかない潜在的疾患を持っている人だ。動脈硬化、脳動脈瘤、心肥大、高血圧、副腎皮質菲薄、胸腺残存などの病変が発症のもととなる。

糖尿病を持っていて、ふだんから血圧が高く、常に薬を服用しているような人も心筋梗塞を起こしやすいので注意が必要だ。

結論としては、腹上死はセックスをしたから起こる、というものではない。ふだんの日常生活において運動中に急死したり、駆け込み乗車した直後に急死したりするのと同じようなものなのである。だから、一番の予防法としては自分の潜在的疾患をしっかりと把握しておくことだ。

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