深刻な“シカ”による事故や食害…電気柵も乗り越えられる冬 4時間でメス16頭「駆除の最前線」に密着 給食で食育の取り組みも

北海道内では増加するシカにより、交通事故や農作物などへの深刻な食害も相次いでいます。被害を食い止め、有効活用を模索する現場の最前線にカメラが入りました。「ちょっとマジで、デカいし!突進してきたりして」2023年10月、札幌市の中心部に現れた大きなツノを生やしたシカ。道路の真ん中を悠々と歩き、警察官やパトカーが追いかけます。さらに…

列車の前に飛び出すシカの群れ

列車の前に飛び出すシカの群れ。北海道内ではいまシカの出没による事故や被害が相次いでいます。「1、2、3、4、十数頭いる。赤ちゃんもいる。赤ちゃんもいっぱいいるわ」これは札幌市南区の果樹園で2023年4月に撮影された映像。100年以上の歴史を持つ「砥山ふれあい果樹園」は10年ほど前から食害に悩まされ、収穫量は4割近くも減りました。

深刻なシカの食害

リンゴの木は皮が剥がれ、痛々しい姿に…これも全てシカが食べた跡です。果樹園の4代目、瀬戸修一さんです。シカの侵入を防ぐため、夏ごろから電気柵の作業をしてきましたが、冬のこの時期は、特に侵入されやすいといいます。「冬になると雪で倒れてきたり雪が積もるので一番深くなると1メートルも電気柵の頭が雪上に出ないので、シカがいくらでも入ってくる」(砥山ふれあい果樹園 瀬戸修一さん)800メートルにもなる電気柵の間から侵入を防ぐため、縦にもロープを入れて網の目のように補強しています。

侵入防止のため電気柵を補強する作業も

作業もかなり大変なようで瀬戸さんの妻は…「手が大丈夫ではなかった、血が出たりした。女性の手じゃないですねと言われる、全部水膨れができたり」(砥山ふれあい果樹園 瀬戸メラルさん)行政などにも支援を依頼していますが、対策はあまり進んでいないのが現状です。「シカの被害を全然抑えられずに2~3年過ぎている」(砥山ふれあい果樹園 瀬戸修一さん)「将来はここは果樹園ではなく、奈良みたいなシカを見に来てくださいというところのになるかも。やるしかない」(砥山ふれあい果樹園 瀬戸さん)北海道内ではシカの食害が深刻です。2022年度は48億円を超え、過去5年で約10億円増えました。

エゾシカによる被害は過去5年で約10億円増

「とにかく安全に、市民は駆除を求めている」(北海道猟友会 奥田邦博 札幌支部長)深刻な事態に札幌市も北海道猟友会などと連携し捕獲を進めています。1月14日、食害に苦しむあの果樹園にも近い札幌市南区で大規模な駆除が行われました。早朝にも関わらず、約90人のハンターが参加しました。

駆除には約90人のハンターが参加

「前日に雪が降り新雪が深い中、山を渡ります」(鎌田祐輔記者)「おいおいおいおい。雪が腰まであるここ。多分ね、下が笹だわ。ここ笹が辛い」(勢子として参加 石田拓也さん)シカをグループで駆除する時、役割が分かれています。

「勢子」と「待ち」が連携して駆除を行う

声などで音を出しながら追い立てるのが「勢子(せこ)」という役です。反対に追い立てられたシカを待ち受けて駆除するのが「待ち」という役です。連携しながら駆除が進められます。一方、効率よく駆除するためにこんな方法もとられています。「5連発花火をあげます」(無線)「花火を鳴らすから、それで位置を確認。後ろだな。さっきの5輪花火。結構後ろの方で聞こえたので、結構早めのペースで降りてきてもいいと思います」(勢子として参加 石田さん)シカを追い立てる音が出る花火です。お互いの位置を確認しながら安全に駆除を進めます。さらに2023年からはドローンも活用されるようになりました。

花火やドローンなども活用

「ドローンをよく見ててください。その下に鹿がいるということです」(無線)シカの居場所を特定し無線で指示を出し、追い込んでいきます。この日は4時間ほどで16頭のシカを駆除しました。「歩くのも上るのも大変、降りてくるのも(雪が)深いので大変でした」(勢子として参加 石田さん)「2023年13頭取っているが全部オスだった。2024年は16頭全部メス、ということは2025年の増加の抑止になる。(駆除したシカは)解体研修に使って、自家消費用に持って帰る。動物関係の学校の解剖に提供したり、犬のブリーダーの方にも犬のエサ用に差し上げる。使えるものは使う」(北海道猟友会 奥田邦博 札幌支部長)シカの被害や有効活用策を学ぶ取り組みも行われています。北海道南部・知内町の知内中学校では1月26日、被害の実態やシカ肉になる過程を学ぶ食育の授業が。授業が終わると…

給食はシカ肉で作ったドライカレー

この日は提供されたシカ肉で作ったドライカレーが給食メニューになりました。町によりますと給食用の肉は寒い冬に捕獲され、かつ2時間以内に加工場に運ばれるなど安全性の高いものを選んでいます。「いただきます。うまい、最高」(生徒)中にはドライカレーをメガ盛りにする生徒も。初めてのシカ肉給食は好評だったようです。「普通においしいので(これからも)出してほしい。少し罪悪感があるかもしれないけれど、数増えているからしょうがない」「森林に被害があって、悪くなるよりはジビエとして学校などに提供して知ってもらうのは良いこと」(いずれも生徒)協力したハンターは…「やってよかった。おいしいって言ってくれて。命ですからとったものなので、無駄なく使っていければ」(ハンター 一之谷駿さん)シカの出没が急増し深刻な被害に悩む北海道内。被害を食い止めながら有効活用する模索が続いています。

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