【コラム】原発事故での避難困難 能登半島地震が実証

 能登半島地震では土砂崩れや地割れによる道路寸断などで孤立集落が随所に起こり、自衛隊員らが緊急物資を背負いながら道中、大きな余震があれば自らが土砂崩落に巻き込まれるリスクを覚悟のうえで斜面を歩いて現地に向かった。

 孤立集落から高齢者や負傷者が短期に移動できるのか。能登半島地震は原発事故に伴い半径30キロ圏内へ緊急避難指示があっても短時間では避難困難、建物内での避難も倒壊リスクに厳しい状況となることを実証した。

 原発から半径5キロ圏内では原子炉冷却水喪失や炉心溶融が起これば放射性物質が広がる前に即避難しなければならない。石川県・志賀原発の場合、5キロ圏内には約4000人が住まわれている。30キロ圏内となれば17万人に上る。どうやって住民の生命を守るのか。

 このような状況でも岸田政権は自・公・維新・国民の賛成多数で昨年成立させたGX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素化電源法を根拠に地球温暖化ガスの排出削減とエネルギーの安定供給に「原発は欠かせない」と再稼働や小型原水炉の開発推進を強調する。「原発に依存しない社会」へ歩むべきであることを能登半島地震が示唆しているにも関わらず。

 加えて東京電力福島第一原発事故が教えてくれた教訓と事故から13年たった今も難問山積の廃炉、原発存在そのものによる「出口(最終処分場)」問題解決にも見通しが立てられない現況で、再稼働や敷地内での建て替え、新規建設などあり得ない選択だ。

 岸田文雄総理の原発を巡る国会答弁は原子力規制委員会に安全性の責任をすべて押し付け、「再稼働については極めて独立性の高い原子力規制委員会が新規制基準に適合していると確認したものに限り、地元の理解を得て進める」と推進一辺倒の姿勢。

 2日の参院本会議で日本共産党の田村智子委員長の代表質問にも、万一の原発事故避難に関し「緊急時対応の取りまとめに向け取りまとめているところであり、今般の教訓をしっかり踏まえて取りまとめをしていく」。

 廃炉に至っては「個別の原発を廃止するかどうかはそれぞれの事業者が判断すること」と事業者任せで大きな課題には「ゼロ回答」だった。無責任としか見えない岸田政権の下で原発推進に拍車がかかってよいのか。『原発回帰』を止めるには世論の後押ししかないようだ。

 田村氏の質問に総理が答えた内容について、読者の判断を仰ぎたい。田村氏は「能登半島地震によって志賀原発は原子炉を冷却する外部電源の損傷など重大なトラブルが相次いだ。柏崎刈羽原発も使用済み核燃料プールから大量の冷却水があふれ出た。稼働中であったらどうなっていたか」。

 「原発再稼働の前提となる避難計画は地震・津波災害に対応できないことが明瞭となった。避難計画にある道路は破損、土砂崩れが多発し、集落は孤立状態になった。逃げようにも逃げられない。避難計画は『屋内退避』が原則だが、倒壊の危険性がある建物に留まれというのか、津波から逃げずに留まれというのか、命を守ることと根本的に矛盾する」。

 「総理はこの問題に一言もふれず、原子力発電について『安全優先で引き続き活用を進める』と表明した。一体、地震による原発の重大トラブル、避難計画の破綻をどう認識しているのか。福島第1原発の事故で明らかなように、地震・津波国で安全な原発などない。大災害時に避難計画は全く機能しない、この事実を認めるべきではないか。志賀原発、柏崎刈羽原発を直ちに廃炉にし、原発ゼロを決断すべき。答弁を求めます」。

 岸田文雄総理は「原子力規制委員会で志賀原発の原子力施設の安全機能に異常なく、その他の原発も安全確保に影響のある問題は生じていないとされたと承知している。立地地域においては自然災害と原子力災害との複合災害を想定し、地震と原子力災害が同時に発生した場合には緊急時対応の取りまとめに向けて取りまとめているところであり、今般の教訓をしっかり踏まえて取りまとめをしていく」。
 
 「高い独立性を有する原子力規制委委員会が新規制基準に適合すると認めない限り原発の再稼働は認められることはない。これが政府の方針であり、今後とも変わらない。それを前提にして、個別の原発を廃止するかどうかはそれぞれの事業者が判断することになる」。これが岸田総理の原発に対する姿勢。原発事故時への緊迫感がまったく伺えない総理の認識度を浮き彫りにした。エネルギー政策の在り方を再検討すべきだ。(編集担当:森高龍二)

岸田文雄総理の原発を巡る国会答弁は原子力規制委員会に安全性の責任をすべて押し付け、「再稼働については極めて独立性の高い原子力規制委員会が新規制基準に適合していると確認したものに限り、地元の理解を得て進める」と推進一辺倒の姿勢。

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