なぜアジア杯で中東勢は勝ち残れるのか。日本に足りなかったものとは? イラン戦後に“熱量の差”を指摘されたが...

アジアカップの決勝は、ヨルダンと前回王者でもある開催地カタールというカードに決まった。いわゆる“中東対決”になるが、中東勢の躍進と言っても、ベスト4の顔ぶれを見る限り、実は2019年の前回と大きく構図が変わったわけではない。

前回はベスト4に日本、イラン、カタール、開催国のUAEが勝ち残り、日本はイランに3-0という完勝でファイナルに乗り込んだが、カタールに1-3で敗れて準優勝に終わった。今回は日本の代わりに韓国がベスト4に勝ち残ったが、グループステージの再戦となったヨルダンに0-2で敗れた。

2015年がオーストラリアでの開催だったが2019年、2024年と中東開催が続いたことも多少は影響しているかもしれないが、ベスト8を見ると前回も今回も中東勢は3か国しか勝ち上がっていない。

そのうちの2つがカタールとイランで、もう1つが前回はUAE、今回はヨルダンとなった。そう考えると中東勢が今回、特に躍進したと言うより、カタールとイランが期待通りの実力を発揮して、ヨルダンが加わったという構図が正しいかもしれない。

それを踏まえた話になるが、アジアカップでの中東勢の強さには、いくつかの理由がある。まず、攻撃のストロングがはっきりしていて、粘り強く守りながら攻撃でストロングを活かしていく矢印が明確なのだ。

ヨルダンは長身FWのヤザン・アル・ナイマト、フランス1部のモンペリエでプレーするムーサ・アル・ターマリというアジア有数のアタッカーを有するが、彼らに良い形でボールを送るという意識がチームに共有されている。

カタールはより自陣からボールをつなぐスタイルがベースになっているが、今大会5得点(準決勝終了時)のアクラム・アフィフと、イラン戦で殊勲の決勝ゴールを叩き出したアルモエズ・アリの2トップが長年君臨していて、最後は彼らの決定力を活かすビジョンは徹底されている。

そのカタールも、自国開催のワールドカップ後からチームを率いたポルトガル人のカルロス・ケイロス前監督が、アジアカップの開幕前に電撃退任。急きょ、マルケス・ロペス監督を自国リーグのアル・ワクラから引き抜く“ドタバタ劇”だった。

今回のカタールの躍進で、そういう人事が一種の成功体験になっても問題かもしれないが、強みを活かした戦い方の徹底というのは、アジアカップを勝ち抜く1つのセオリーであるのは確かだろう。

さらに、これはアジア全体にも言えるが、対戦相手の分析力が上がってきていることだ。ヨーロッパ人の監督が、代表チームはもちろん国内リーグで指導することが当たり前になっており、ただ適当にロングボールを蹴って、フィジカル任せという戦い方が減ってきており、相手のウィークに対しては徹底してくる。

韓国戦のヨルダンは顕著で、カウンターでもグラウンダーのパスを使って相手のプレスを引き付けて、そこから背後を狙う攻撃がかなり効いていた。

モロッコ人のフセイン・アモータ監督が率いるヨルダンはそうした攻撃のクオリティが高く、韓国戦も勝つべくして勝った印象だが、ラウンド16でカタールに1-2で敗れたパレスチナも、ライン間をうまく使いながらカタールの背後を狙うなど、前回王者を苦しめた。

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グループステージで日本に勝利したイラクは、ラウンド16でヨルダンに2-3で競り負けたが、日本相手には明確なカウンター、ヨルダン戦ではしっかりとパスを繋いで崩す戦い方を選択しており、ベースの高さを示していた。

どの国も戦術的なベースがしっかりしたうえで、試合のプランで自分たちのストロングと相手のウィークを掛け合わせて、勝つための戦い方を実行していく。その点で、森保ジャパンは曖昧だったと言わざるを得ない。

JFA(日本サッカー協会)の新たな試みとして始まった東大・筑波大院生ら25人による分析資料が代表のテクニカルスタッフに届き、それをミーティングなどで反映する体制で臨んだが、短い期間で現場のプランに活かされなければ意味がなくなってしまう。

その足枷になってしまったのが、カタールW杯から1つ進化して、アジアで圧倒できるチームを目ざしたことだろう。たとえば守備は1対1で守り切れることをベースに、前に人数をかけるスタイルを構築してきたが、イラク戦やイラン戦のような苦しい時間帯になったところで、うまく耐えて、また自分たちの時間帯に持ち込むようなプランが希薄になっていたように思う。

イラン戦後、アジアカップに対する“熱量の差”が指摘されるが、それは単なる気持ちの強さではなく、アジアカップという大会で勝つことに、どれだけ向き合っていたかということだ。

森保ジャパンの大きな目標として世界一を目ざすこと自体は悪くないが、たとえば世界一が目標なら、このぐらいはそのまま耐えて、自分たちの流れに持ち直さないといけないとか、目の前の相手を全力で叩きのめすことにベクトルが向いていなかったように思う。

そこがファイナルに勝ち残ったカタールやヨルダンはもちろん、惜しくも準決勝で敗れたイランも日本より上回っていた。日本はタレント力も総合力も、過去のどのチームより上だったかもしれないが、中東諸国、さらに言えば東南アジアなどのレベルも上がってきているなかで、目の前の大会に向き合う矢印の強さに差は感じられた。

それでも勝機が無かったわけではないが、ベスト8敗退という結果によって、気付かされたことが多いのは確かだ。

取材・文●河治良幸

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