東京大学、性的指向と性自認めぐる差別例をガイドラインで明示「無意識的な偏見の自覚を」

東京大学・本郷キャンパスの安田講堂

あわせて読みたい>>「ハラスメント被害で大学に安心できる場所がない」文科省に実態調査求め、学生らが署名2万3千筆提出

東京大学は2月6日、性的指向と性自認の多様性を認知・尊重することを目的とした学生向けのガイドラインを策定した

性的指向と性自認は「SOGI」(Sexual Orientation and Gender Identityの略)とも呼ばれる。ガイドラインでは、大学生活で起こり得るSOGIを理由とした差別の具体例が詳しく挙げられている。

「安心してキャンパス生活を送れる環境を」

2003年に制定された「東京大学憲章」の前文には、「構成員の多様性が本質的に重要な意味をもつことを認識」し、差別されることなく「広く大学の活動に参画する機会をもつことができるように努める」と明記されている。さらに、「東京大学 ダイバーシティ&インクルージョン宣言」 (2022年)では、「ダイバーシティ(多様性)の尊重」と「インクルージ ョン(包摂性)の推進」を二本の柱とする方針を示した。

今回新たに発表されたガイドラインは、多様性の中でも性的指向と性自認に焦点を当てている。この中で、学生ら大学の構成員がどのような性的指向や性自認を持っていても、「安心してキャンパス生活を送れる環境を、みなさんと一緒につくりあげていきます」と宣言している。

何が差別に当たる?

ガイドラインは冒頭で、「セクシュアリティ」「性的指向」「性自認」といった用語の説明を添えている。

第2節「SOGI 関連 大学生活上で直面する典型的な障害の例」では、SOGIを理由とした差別がどのような形をとるかを列挙している。差別は明確な差別発言やいじめ、暴力といった分かりやすい言動として現れるだけでなく、「無自覚なまま意図せずに相手の尊厳を損なったり存在を黙殺したりするような『マイクロアグレッション』の形をとることもあります」と説明。

指針では、学生同士のやりとりに加え、教員や大学職員とのコミュニケーションの場においても起こり得る差別のケースを例示している。

ガイドラインに掲載されている事例の一部を、抜粋して紹介する。

▼教員が講義やゼミにおいて

・名簿掲載名から性別を推測したグループ分けをしたり、「男子」「女子」としての発言や行動を期待する、あるいは要求する

・名簿あるいは外見から推測される性別に従って呼称の使い分けをする(「〜さん」 「〜くん」の使い分け)

・「今どきは『世の中には男と女しかいない』と言ってはいけないんでしたね」と、 あたかも発言に気をつけているかのように装い、その実は性の多様性について暗に揶揄する

・「男子はみんな彼女が欲しいだろうけれど」などのバイナリーかつ異性愛を前提とした発言をする

・「この研究者は私生活ではコッチの人だったんだよね」と冗談や軽口として言ったり、「特殊な性癖があってね」と言ったりするなど、同性愛差別的な発言をする

▼事務職員が窓口対応等で

・学内での窓口に相談や何らかの対応依頼があった際に、事務窓口の担当者が本人の同意のないまま指導教員や授業担当教員に「登録学生が氏名を変更したいそうです」 などと個人情報を共有する

・事務窓口で周囲にいる他の学生に聞こえるくらい大きな声で「性別変更の手続きをしたいのですね」「健康診断に個別配慮が必要なんですね」と聞き返すなど、プライバシーへの配慮が乏しい対応をする

▼学生同士の関係の中で

・「彼氏/彼女いないの?」「好きな男性/女性のタイプは?」「合コン行こうよ/行かないの?」「イケメンなのになんで彼女ができないの?」など、バイナリーかつ異性愛を前提とした発言をする

・「心が女なら自分も女子トイレに入れるよね」と言うなど冗談を装い、間違った情報とともに差別する

・オリエンテーションの時期の自己紹介に出身高校を含めるように設定したり、他の人の出身校情報を勝手に公開したりする(トランジションしている学生にとっては アウティングにつながる可能性がある)

・トランスジェンダーの学生に「普通の人と変わらないように見えるから大丈夫」と(励ますつもりでも)トランスジェンダーを否定するような反応をする

・同性同士で撮った写真や、仲の良い同性同士を指して「できてるんじゃない?」などと、同性愛を揶揄する

・相手の同意を得ずに、カミングアウトした相手の性自認・性的指向を第三者に知らせる(アウティング)

(※以上、ガイドラインP6〜7より抜粋)

ガイドラインでは、これらの事例について「無自覚であっても相手の尊厳を損なったり、重大な人権侵害につながったりする恐れがあります」と指摘。大学生活でSOGIを理由とした差別を受けたり見かけたりした場合は、大学が案内する相談窓口などに相談するよう呼びかけている。

無意識の偏見を自覚するには「コミュニケーションが大切」

終章では、こうした指針と向き合う過程で「人に対して、また人について、何も言えなくなるのではないかとか、何も言わなければいいのではないとかという『守り』の姿勢に入る可能性が想定されます」との懸念も記している。

誰もが「無意識的な偏見」(アンコンシャス・バイアス)にとらわれることがあるとした上で、自身の中にあるアンコンシャス・バイアスを自覚するためにも、他者とのコミュニケーションは大切だと強調している。

「この行動ガイドラインが、みなさんを萎縮させてしまい、対他的なコミュニケーションを恐れるとか、控えるとかといった方向に作用せず、性的指向と性自認の多様性について率直に語り合い、『無意識的な偏見』をお互いに自覚化し合えるような、よりよいキャンパス環境の実現につながることを祈念しています」とのメッセージで締めくくっている。

ガイドラインには、SOGIに関連する大学生活上の手続きや相談窓口などの情報も掲載されている。

© ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン株式会社