『おっさんずラブ』“リバイバル”の見事な結婚式に 春田と牧が積み上げた幸せの価値観

いよいよ当日が迫ってきた、春田(田中圭)と牧(林遣都)の結婚式。日取りは2月14日のバレンタインデー。『おっさんずラブ-リターンズ-』(テレビ朝日系)第6話では、式を前にマリッジブルーになってしまう春田を筆頭にして、登場人物それぞれの切ない思いが交錯していく。

性格一つをとっても大雑把な春田とこだわりの強い牧。多忙な仕事ですれ違い、タキシードの試着でも「どっちでもいい」とぞんざいな態度を取ってしまう牧に、春田は今後一緒に幸せな家庭を築いていけるのか不安になっていた。

そんな春田の相談に乗ってくれたのが、「居酒屋わんだほう」の店主・鉄平(児嶋一哉)だ。「趣味が合うのもいいけどさ、たぶん大事なのはそこじゃない」「喧嘩したり、歩み寄ったりしてるうちに、自然と2人だけの価値観が生まれてくるんだよ。だから、今は足並みが揃わなくても心配すんな」と声をかける鉄平。その言葉を春田はまだ納得できていないようだ。

そんな春田と牧の関係性を伝えるメタファーとして登場するアイテムが、「きのこの里」と「たけのこの里」。深夜のコンビニで牧が買ってきた、春田へのバレンタインチョコだ。明治公式で「総選挙」が何度も開催されているほどに“きのこ派”と“たけのこ派”とで別れることはある種の国民行事とも言えるが、案の定ここでも春田が“たけのこ派”、牧が“きのこ派”で好みが別れ、論争に。「合わねぇな」(春田)、「合わないっすね」(牧)と言い合いながらも、春田は「だからこそさ、こうやってさ、交換したらさ、楽しさも2倍になるじゃん」という意見に、今度は牧がどこか納得できぬまま、1日早い“きのこたけのこファーストバイト”を終える。

結婚式当日、タキシードに身を包み、チャペルのドアの前に立つ2人。次なる論争は、一歩目は右足か、左足か。焦る春田に、牧は「自然に合いますよ、きっと」「ま、違ってもいいんじゃないですか」と晴れやかな表情を浮かべている。チャペルのドアが開き、2人が揃って踏み出したのは右足。人は互いに分かり合えないこともある。人の価値観がそれぞれ違っているのも当然だ。人を好きになるのに理由なんていらない。これまでの喧嘩やすれ違い、そして仲直りを重ねていった先に今の2人だけの価値観がある。

春田と牧は、ようやく2人でともに手を取り合って歩んでいく人生の一歩目を踏み出したのだと、バージンロードを進む姿を見て、そう思えた。スキマスイッチ「Revival」をバックに、2018年放送の『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)を“リバイバル”させながら、結婚式に繋げる構成も見事である。

幸せそうに満面な笑みを浮かべる春田と牧を見つめる、武蔵(吉田鋼太郎)、和泉(井浦新)、武川(眞島秀和)。さらにその和泉を悲しげな表情で菊之助(三浦翔平)が見ている。思いを断ち切れずにあの日から時計の針が止まったままの者、新たに叶わぬ恋心が芽生えてしまった者。菊之助は同志として慰めあう関係性になりつつある武蔵から渡されたバレンタインチョコを口にし、「ほろ苦いです」と俯き加減につぶやくと、武蔵が「人生と同じようにね」と耳元で囁く。すると突然、激しく咳き込んだ武蔵がその場を去っていく。高砂で参列者たちと集合写真を撮る幸せそうな春田と牧の一方で、武蔵はトイレの洗面台で咳が止まらず、口に当てた手には深紅の血がついていた――。

春田と牧が人生の新たな一歩を歩み出した幸せに満ちた第6話だったが、筆者は何かが足りないと感じてしまった。それは牧と武蔵のキャットファイト。嫁姑バトルをはじめ、第5話での和泉と菊之助までをも巻き込んだ大乱闘を観ていたせいか、どこかコメディジャンキーになってしまっているのかもしれない。『おっさんずラブ-リターンズ-』からしか摂取できない栄養がある。

そういった意味では、林遣都が出演している現在公開中の映画『身代わり忠臣蔵』は、主演のムロツヨシを相手にコミカルな芝居を展開しており、その弾けっぷりは『おっさんずラブ-リターンズ-』に負けずとも劣らない。林の“千両役者”としての演技が光る作品だ。

(文=渡辺彰浩)

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