72歳です。資産の「5800万円」は良くしてくれる娘にすべて相続させ、好き勝手する息子には「1円」も渡したくないです。可能ですか?

相続人に全く相続させないことはできない

相続の基本的な考え方として、遺言による指定がない場合、民法で定められている相続の割合に従います。この相続の割合は法定相続分と呼ばれます。

まず、「誰が相続人になるのか?」ですが、配偶者がいる場合は、配偶者は常に相続人となります。配偶者以外の人に関しては、死亡した人の「1.子ども(子どもが死亡の場合、孫・ひ孫)」「2.父母(父母が死亡の場合、祖父母)」「3.兄弟姉妹(兄弟姉妹が死亡の場合、おい・めい)」の順で優先順位が決められています。

次に、法定相続分についてです。相続人が配偶者のみの場合は、配偶者の相続分は100%です。配偶者と子どもが1人いる場合は、配偶者が2分の1、子どもが2分の1となります。子どもが2人いる場合は、配偶者が2分の1、子ども1人につき4分の1(子どもの合計が2分の1)となります。

参考まで、配偶者と父母がいる場合は、配偶者が3分の2、父母それぞれが6分の1(父母の合計が3分の1)となり、配偶者と兄弟姉妹が2人いる場合は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹1人につき8分の1となります。

※法定相続分に関しては、離婚して前妻との子がいる場合、養子がいる場合、半血兄弟の場合など、状況によってかなり複雑になるので、相続の範囲に迷うときは専門家に相談することをおすすめします。

さて、今回のケースでは配偶者はすでに亡くなっており、娘と息子の2人が相続人です。相続する資産が5800万円ですので、通常であれば娘と息子で2分の1の2900万円ずつ分け合う形となりますが、娘だけに全財産を相続させることができるのかということが焦点となります。

結論からいえば、これは原則できません。なぜなら相続人には「遺留分侵害額の請求」が認められているからです。遺留分とは相続財産のうち、兄弟姉妹以外の法定相続人が最低限取得できる財産の範囲のことです。

今回のケースでは、息子の遺留分は法定相続分の2分の1であり、2900万円の2分の1の1450万円を取得できる権利があります。息子が受け取る額がそれを下回った場合、息子は他の相続人に遺留分の侵害額を請求することができます。つまり、息子が娘に対して遺留分侵害額の請求を行う可能性があります。

例外として、相続や遺留分を放棄する場合や、相続の欠格・排除などで相続対象とならない場合には、特定の相続人にすべて相続させることができることもあります。

遺言を書くときには遺留分も考慮したほうがよい

遺言がない場合について紹介しましたが、遺言が存在する場合でも、遺留分を侵害する割合で相続することはできません。つまり、娘に対してすべての資産を相続させるという遺言は有効ですが、息子が遺留分侵害額請求権を行使して侵害分を請求した場合、結果として娘が全財産を相続することはできなくなります。

自分によくしてくれた人に多く相続させたいという気持ちはよく理解できます。ただし、遺留分を侵害するほどの割合で遺言を作成すると、禍根を残すことになりかねません。

遺言を用意する際には、遺留分を考慮して作成することをおすすめします。ちなみに、遺言が存在する場合であっても、相続人全員が合意すれば、遺言と異なる割合で相続することは可能です。

まとめ

人の生死や相続に関する話題はデリケートですので、家族であっても切り出しにくいことが多いでしょう。近年ではエンディングノートなどを作成する人も増えてきています。

残された家族に仲良く暮らしてほしいと考えるのであれば、生前から十分に話し合いを重ねることが重要です。相続対策や遺言書の作成に関して自分だけで判断が難しい場合は、専門家に相談することをおすすめします。

出典

国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分
裁判所 遺留分侵害額の請求調停

執筆者:御手洗康之
AFP、FP2級、簿記2級

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