「守らなければならない優先順位を間違っていた」闇バイトで加担した “ルフィ事件” 実行役の青年(22)が語ったこと 広島

「 “闇バイト” だったら借金が返せると思って…」「ここまで事が大きくなるとは思っていなかった」

法廷でそう口にしたのは、犯行当時、21歳だった 宇佐美智巴悠 被告。少し伸びた黒髪の丸刈り頭で全身、黒色の服にマスク姿、茶色のスリッパを履いていた。

全国で相次いだ広域強盗のうち、広島で起きた事件に実行役で関与したとして住居侵入・強盗傷害の罪に問われた被告に、広島地裁は7日、懲役14年(求刑:懲役16年)を言い渡した。

1月30日から始まった裁判員裁判で、被告が闇バイトに手を出し犯罪に加担することになった経緯、犯行に至るまでの状況が1つひとつ明らかになった。

今から2年程前の2022年12月21日午後7時半ごろー。吐く息が白く、雪がちらつき始める寒さのなか、事件は起きた。現場は、夜の住宅街を照らし続けるパトカーランプ、規制線の外を駆け回る報道陣、心配そうに窓から外の様子をうかがう住民たちで騒然としていた。

被告はこの日、実行犯グループのリーダーだった 永田陸人 被告や 西本佑聖 被告らほかの数人と共謀して広島市西区にある時計等買取専門店の店舗兼住宅に押し入り、住人男性を殴るなど親子3人にけがをさせ、現金や腕時計などあわせて約2700万円相当を奪ったとされた。(起訴状などによる)

初公判で裁判長に「起訴内容に間違いはありませんか?」と問われると、宇佐美被告は「間違いありません」と答えた。

闇金融を利用するも友人の借金の返済期限に間に合わない…絶望を感じた

なぜ、広域強盗に関与することになったのか、被告人質問でその経緯を説明していった。被告には犯行前、友人や消費者金融などに借金があったのだという。闇バイトに手を染め、事件に加担することになったもともとのきっかけはこのためだった。

― 借金の原因は?
生活費や、遊びに誘われて借りていました。

― なぜお金が必要だったのですか?
食費やバイトの交通費です。
― 誰にいつまでに返さなければならなかった?
友人Aに38万円で2022年10月15日あたり、友人Bの40万円は10月25日と11月後半に半々ずつです。

― 期日までに返せなくなっていたのですか?
はい。

― なぜ借金を返せなくなりましたか?
アルバイトをクビになってしまいました。

借金が返せなくなった結果、やがて闇金融にも手を出すようになったという。

― 闇金融に抵抗はありませんでしたか?
友人Aの返済期限に間に合わない。(借金を)何をしても返せと言われていたのでそれだったらと。

― そんなことを言う友人なのですか?
そういう金額だったので。

なんとか友人Aに対する借金は返済したものの、友人Bに対する借金は返すことはできなかった。そこで友人Bに「今月、どうしても返せないから待ってほしい」と伝えたという。

― 友人Bは何と言いましたか?
「 ”闇バイト” とか臓器売ったりがあるでしょう」と言われました。

― それであなたはどうしましたか?
友人Bの目の前で臓器を売ることを調べたが、すぐにできることではなくて、”闇バイト” もすぐにはできないと伝えました。

両親のお金から返済できないのかと友人に迫られ、母親のキャッシュカードを盗み、ATMに向かったこともあった。

結局、新しいアルバイトも見つからず、闇金融取り立てが厳しかったことなどから最初の返済期限から1か月たっても返済することができなかった。

― 友人Bには何と言われましたか?
「こっちも本当にお金に困っているからなんとかできないの? 闇バイトとかできない?」と言われました。泣きながらお願いしたら、「わかった。だけど俺もクレカの返済があるから、お前が返せなかったら俺自身もブラックリストにのってしまう」と。

― 次の返済期限は?
12月25日あたりです。

もともとの返済期限から約2か月延長してもらうことに。昼夜連勤できる交通警備の仕事の面接に向かうも、昼間の仕事は現在募集していないことや研修期間は給料が安いということが分かり、借金40万円の返済はとうてい間に合わないと絶望した。

2度の“闇バイト”検索「そういう選択肢しかないんだと思い込んでしまった」

― 交通警備の仕事がダメだと分かり、どうしましたか?
帰り道に臓器を売ったりすることや、初めて “闇バイト” を検索しました。“闇バイト” だったら借金を返せるんじゃないかと思って、どういう仕事か調べることにしました。

― 怖いものだとは思わなかった?
検索するだけなら…とそういうことは思いませんでした。

その後、被告は、ある掲示板サイトにたどり着いた。そこには、打ち子、UD(受け子と出し子の隠語)、治験、ママ活などと書かれたタイトルとテレグラムの連絡先が書いてあった。当時はそれぞれのタイトルの仕事内容が分からなかったため、テレグラムで仕事内容を聞くことにしたという被告。そして返信が来たものにUDがあった。

― どんなやりとりをしましたか?
「掲示板から来ました」と伝えると『グレーな仕事です』と返信が来ました。「知りたいです」と言うと、『電話で詳しく教えるから身分証を送ってください』と来たので自分の身分証を送りました。すると相手から『UDは受け子・出し子のことです。人の家のカードを持っていくものです。明日、仕事があるがやりませんか?』と。電話で断りづらかったので「やります」と言いました。

しかし、被告は、電話を切った後に怖くなり、実際に仕事に行くことはなかった。その後もほかのアルバイトやタウンワークがないかを調べていたが、返済期限が迫るにつれて母親や友人に借金のことをバラされるようになったという。

― 借金の返済についてどうしようと考えましたか?
みんなに言われて追い込まれてどうしようと考えて、もう一度、”闇バイト” を検索しようと思いました。

― なぜ、”闇バイト” をもう一度、検索しましたか?
借金を返すまでに日付がなかったことや、周りに囲い込まれ、どんどん “闇バイト” の方に行ってしまったのだと思います。

― なぜ、“闇バイト” の方に行ってしまったのだと思いますか?
母親にまで連絡をされて、「そういう選択肢しかないんだ」と思い込んでしまいました。

”タタキ”の仕事「想像できなかった、追い込まれていた」指示役からのテレグラムに回答し…

「できるだけ違法でない仕事がしたい」と考えていた一方で、“闇バイト” の掲示板に載っていたテレグラムの連絡先に手当たり次第にメッセージを送った。これが、被告が今回の事件に加担する始まりとなってしまった。

その後、「ミツハシ」と名乗る人物から返信が来た。身分証明書を要求され、送信し、友人の40万の借金があり、その返済に間に合うかたずねたところ、返ってきた答えは…

「だったらもっと安全な仕事があるよ。“タタキ” の仕事です」

被告にはこの時、“タタキ” の意味が分からなかった。ミツハシに尋ねるとー

『家族がグルになっていて、家の中で手引きしてくれて、簡単に家に入れる強盗。誰もいないときに案内してくれて、もし人がいても家族が見張っててくれる、犯罪にならない』

「犯罪にならないのならやりたい」。それが被告の答えだった。

― そんなことが実際にあると思いましたか?
思いました。そのときは視野がせばまっていて納得してしまいました。

― なぜミツハシを信じてしまったと思いますか? そんなことでおさまると思いましたか?
想像できませんでした。追い込まれていて、ほかに考えが回らなかったのも原因の1つだと思います。

その後、ミツハシから「詳しい説明は上司からする」と告げられ、テレグラムでキムと名乗る人物から連メッセージが送られてきた。

― どんな内容の連絡が来ましたか?
『闇バイトの経験ある?』ときた後に長文で【身長】【名前】【家族構成】【格闘技経験】【人を容赦なく蹴ったりできるか?】などが書かれたチェックシートが送られてきました。

― チェックシートの質問にどう答えましたか?
【闇バイトの経験】は「いいえ」、【格闘技経験】は「いいえ」、【人のことを殴ったり蹴ったりできるか?】には「はい」と答えました。

― キムからのメッセージで『人を蹴ったり殴ったりできるか?』という質問に「はい」と答えたのは最初から犯罪に参加するつもりだったということですか?
ちがいます。すべての質問に「いいえ」だと続きが聞けないと思ったからです。(この質問に)インパクトがあったので。やる気を試されているような気がしました。

― 実際に人を蹴ったり殴ったりする仕事だとは思いませんでしたか?
思いませんでした。

ミツハシと同様に免許証を要求され送信、『案件決まり次第、連絡します』と。その後、何日か経って、再びキムから連絡が来た。

「広島で案件がありそうです」

その後、被告はキムとミツハシのそれぞれに何をするか確認したのだという。ミツハシには「上司から伝えます」、キムからは「明日また伝えます」と言われ、結局、連絡が来たのは事件の前日のことだった。

キム『東京駅集合です』

「内容を聞いていなかった」そのまま東京駅から広島へ…指示役『広島まで来て逃げることは絶対に許さないからな』

ー 『東京駅集合』のメッセージが来てからどうしましたか?
内容を聞いていなかったし、「お金がなくて東京駅に行くことができないです」と伝えました。

するとキムから「交通費を振り込むからキャッシュカードの番号を教えて」と言われ、翌日の朝に東京駅までの電車代が振り込まれていた。

被告 「お金が振り込まれていたので行くしかないと思いました」

― なぜ「行くしかない」と?
今まではメッセージ上でやりとりをしていて(相手に)危害を加えていなかったけれど、お金を振り込まれてしまったら「参加しなければ何か嫌なことをされるのではないか」と思ったからです。もうお金を振り込まれていて、行かない言い訳ができませんでした。

― 「行くしかない」と思うまでに辞めようとは?
1歩踏み出して考えられず、ミツハシを信じていました。犯罪にならなければいいと思っていました。

当日、被告は東京駅に向かい、ほかの共犯者とともに新幹線で広島駅に向かうことになった。

― 新幹線の中で今回の事件の説明はありましたか?
少しありました。行く場所の写真や乗っていく車の写真、金庫があるであろう場所の写真などです。結束バンドについて『制圧したらこれで縛ります』と言われました。

― それを聞いてどう思いましたか?
よく意味が分かりませんでした。

隣りに座っていた共犯者の男にたずねるも、答えが出ないまま広島駅に到着していた。共犯者とともに車に乗り込み、現場へ移動することになった。

― 車に乗ったときに道具はありましたか?
案内役が持ってきました。マスク・帽子・軍手・結束バンド・ガムテープ・工具1つと宅配業者の服装2着と段ボールです。

車を出発する直前にキムから誰かのスマートフォンに長文のメッセージが来たという。住民を制圧して2階で見張りをするA班と、時計を回収する役目のB班に分かれて行動すること、撤収時に乗り換え用の車があることなどが説明された。

『広島まで来て逃げることは絶対に許さないからな』『制圧するときに殴ったり蹴ったりしないと報酬を渡しません。でも殺してはいけません』

これが、現場に向かう車内でキムから伝えられた言葉だった。

「自分には殴ったり蹴ったりは絶対にできないと思いました」

ー それはなぜですか?
今までそんなことをしたことは一度もないし、普通に考えてできないと思っていました。考えがまとまりませんでした。逃げたいけれど、人のことも殴れないし、どうしようと。どうしようと思っていたら現場に着いてしまいました。

「犯罪に対する意識が薄かった」“闇バイト”の報酬60万を借金の返済にあて

宅配業者の格好をした共犯者2人やほかの共犯者とともに現場の店舗兼住宅に侵入、犯行に及んだ。そして被告は、犯行後の当日に10万円、新幹線で地元に帰った後に50万円の計60万円を報酬として受け取ったという。

ー 報酬のお金はどうしましたか?
40万円は友人Bに返して、消費者金融にかけている分などすべて借金の返済にあてました。

― 事件のニュースはいつ見ましたか?
事件当日に見ました。怖かったけれど借金を返さないとと。

― 捕まるまでどんな気持ちでしたか?
罪悪感と現場の店舗兼住宅の住人に「息子が大変なことに、お前ら殺人罪だ」と言われたことが頭から離れなくて、捕まってしまうのではと。

現在、犯行について反省しているかという問いに対して「はい」と答えたうえで、次のように話した。

「12月に闇バイトに2回目の応募をするときに母親に頼むべきでした。普通のバイトでは間に合わないと謝罪するべきでした。闇バイトを調べてしまったことや友人に迷惑をかけていることが後ろめたく、相談しづらくなっていました」

被害者の方に対して思うことをたずねられると、被告は震えた声で言葉を絞り出しているようだった。

「息子さんに対しては、自分たちのせいで自分の意志で動けず、会話もできない、退院できたとしても重い障害をかかえることになってしまって、申し訳ございません。ご両親に対しては、ずっと続けてきた店舗を閉店せざるをえなかったこと、親にとって自分の子どもが大切だということを認識し、大切な家族が傷ついているところを見せてしまって本当に申し訳ありません」

「報酬のために実行に加わったことは強く非難されるべき」裁判長が下した判決

今月5日の裁判―。検察側は「借金の返済のために安易で自己中心的な意思決定で犯行に参加した。社会を震撼させた大事件で、被害結果が大きい」と指摘。また、被告が暴行を加えた点に触れて「積極的に行動した」などと述べ、懲役16年を求刑した。

一方で、弁護側は「途中で逃げ出すことが困難だった。指示役や他の実行役のリーダーに従属的な立場だった」などと主張した。

最後に被告は「今回の事件のこと、被害者の方々のこと、自分自身のことを考え続けて生涯をかけてつぐなっていきます。本当に申し訳ありませんでした」と述べ、裁判は結審した。

結審から3日後に迎えた判決の日。被告は、横じまの服に黒のズボンでにマスク姿で法廷に姿を現した。

「主文、被告人を懲役14年に処す」

広島地裁の 日野浩一郎 裁判長は「被害者らの肉体的・精神的苦痛は計り知れず、経済的損失も大きい」と指摘。「暴行を加えて被害者を制圧する強盗の計画を分かっていたのに報酬のために実行に加わったことは強く非難されるべき」などとし、懲役14年の判決が言い渡された。

被告は、微動だにせずじっと判決を聞いていた。

誰もが簡単に手を出すことができる “闇バイト” 。22歳の青年は、自身の犯した過ちについて、こう語っていた。

「今、振り返ってみて自分の犯罪に対する意識が薄かったです。被害者の気持ちを考えられていなかったです。友人との約束と社会で決められていた法律の、守らなければならない順位が間違っていました」

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