関西電力、特許生かし陸上でエビ育てる 水産物安定供給へ、盛り上がる異業種参入

エビの陸上養殖を手がける海幸ゆきのやの日納真吾社長=2023年12月26日、静岡県磐田市で撮影

 関西電力が、陸上施設で魚介類を育てる「陸上養殖」に参入し、静岡でエビを生産している。中核の電力供給とは一見かけ離れた事業だが、発電所の環境浄化を通じて特許を持つ細菌を活用し、エビの生産効率を高めるなど本業で得た知見を注ぎ込む。環境負荷の低減や水産物の安定供給に注目が集まる中、異業種の参入で陸上養殖は一段と盛り上がりそうだ。(共同通信=小嶋捷平)

 静岡県磐田市、海岸線から1キロ近く離れた田園地帯の真ん中に「海幸(かいこう)ゆきのや」の施設はある。関電が2020年10月、陸上養殖を手がける企業と共同で設立。食用として一般的なバナメイエビの稚エビを輸入し、屋内にある幅12メートル、長さ40メートルの巨大水槽で育てる。

 施設内には水槽が6レーンあり、人工の海草を置いたり、波を起こしたりして自然に近い環境を再現する。2022年6月の施設完成後、徐々に生産ペースを上げ、将来は年間約80トンを計画する。

 「陸上養殖のエビはうまみが強く、雑味や臭みがない。生食可能な安全性も特長だ」と自信を見せるのは、海幸ゆきのやの日納真吾(ひのう・しんご)社長。「幸(ゆき)えび」のブランド名で、ホテルや客単価の高い飲食店を中心に出荷先を増やしてきた。セブン―イレブンの2024年用おせち料理に使用されるなど、大手チェーンにも販路を広げている。

 エビの成育に最適な水質を実現するため、関電が特許を保有する「光合成細菌」の活用にも乗り出した。関電は火力発電所の取水口にたまるヘドロ浄化を目的に、広島国際学院大(現在は閉校)と共同で細菌の研究を続けてきた。この細菌が養殖エビの生産量を15%向上する効果が確認できたため、昨年12月から水槽への投与を始めた。

 今後の課題は、輸入エビの4~5倍程度高い価格の抑制だ。海面養殖に比べて設備のコストがかさみ、餌となる魚粉の価格も高騰している。日納氏は「エビ以外への挑戦も検討している。食料自給率の改善といった社会課題の解決につなげたい」と強調した。

 海洋資源の奪い合いや海面養殖による環境汚染が危惧される中、水産物に縁のない企業が陸上養殖に参入する例が増えている。JR西日本は鳥取県でサバ、島根県でカワハギを養殖。九州電力などは豊前発電所(福岡県豊前市)の敷地内でサーモンを育てている。

海幸ゆきのやが陸上養殖でエビを生産している静岡県磐田市の施設=2023年12月26日撮影
海幸ゆきのやが陸上養殖で生産している「幸えび」=2023年12月26日、静岡県磐田市で撮影

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