能登被災地の野菜販売し応援 岡山のギャラリーで佐野さん催し

被災農家の野菜で作ったスープを提供した能登応援催し

 岡山市中区円山でギャラリー円山ステッチを営む佐野明子さん(64)が、イベントの開催を通じた能登半島地震の被災地支援に乗り出している。石川県輪島市で被災した次女に会うため1月下旬に現地入りし、過酷な状況下で前向きに生きる被災者の姿に心を打たれたからだ。4日、被災農家から買い取った野菜などを販売する「能登応援いち」を自らのギャラリーで初めて開催。第2弾、第3弾と続けたい考えで「岡山の人に被災地の現実と被災者のエネルギーを感じてもらいたい」と語る。

 次女こいとさん(31)は約1年半前から、ギャラリー展示で親交のある輪島塗の塗師(ぬし)赤木明登さん=浅口市=が経営する輪島市の日本料理店で働いていた。元日の地震発生時は屋外にいて無事だったが、自宅は全壊、職場も被害を受けた。知人宅に身を寄せながら、3日から被災した飲食店経営者らでつくる炊き出しチームに参加。1カ月ほど避難所などで温かい料理を提供し続けたという。

 佐野さんは、次女が金沢市内に2次避難するタイミングで新生活に必要な家具や衣類を届けに行き、ようやく再会。次女らのチームが物流が途絶えて出荷できない野菜を買って調理していると知り、調達先の上田農園(輪島市)を訪れた。

 ハウスや配管が壊れ、道路がひび割れるなどの被害が目立つ農園では、夏に向けたトマトの種まきが始まっていた。諦めない姿に打たれた佐野さんはその場で催しを発案。キャベツやロマネスコ、サツマイモなどを購入して持ち帰った。

 イベント当日は野菜のセットや赤木さんの輪島塗の器を販売。わずかな塩のみで野菜のうまみを引き出した温かいスープと焼き芋を提供した。スープは塩分が多くなり、野菜は不足しがちな被災者のため、次女らが炊き出しで作っていた料理を参考にしたという。

 会場には企画に賛同した人たちが次々と訪れ、野菜は完売した。主婦(64)=岡山市北区=は「能登は昨年秋に観光で行ったばかりで、変わり果てた景色を報道で見てショックだった。食べることで間接的にでも支援になれば」と被災地に思いをはせた。

 応援催しは今後も継続する予定で、第2弾は3月上旬に開き、こいとさんが帰省して現地の様子を紹介する。佐野さんは「野菜を岡山の皆さんに届けて能登の底力を感じてもらい、食べた感想を被災地に送って元気を出してもらう。そんな温かな循環が生まれれば」と話す。

佐野さん 生きていく覚悟感じた

 能登半島地震で被災した次女こいとさんに会うため1月下旬に石川県輪島市を訪れた佐野さんに、現地を見て感じたこと、応援催しを企画した思いを聞いた。

 海岸は隆起し、道路は割れて波打っていた。金沢市から車で3時間かけて着いた輪島市内は、家が押しつぶされ、人影はなく、胸が締め付けられた。

 次女は元日に帰省するはずだった。岡山市の自宅で地震速報を見てSNS(交流サイト)でメッセージを送ったが既読が付かない。夕方になって「大丈夫」と返信があり胸をなで下ろした。すぐに駆け付けたかったが、次女から「会えるまで、食べて寝て健康に暮らしていて」と逆に励まされた。

 後で周囲の人から、次女が家や職場といった大切なものを失い、将来も不透明で「心臓が破裂しそう」と漏らしていたと聞いた。それなのに私には「へっちゃら。今、自分のことを考えている人はいない」と気丈に振る舞った。

 野菜を提供する農家も、炊き出しする娘ら料理人たちも、被災しながらも手を取り合って前を向いている。能登で生きていくという覚悟を感じ「私も頑張らないと」と勇気づけられた。被災地に行って、見て、感じたことを岡山で伝えることが今、私にできることだと考えている。

被災農家の野菜で作ったスープを提供した能登応援催し
被災者に炊き出しを手渡すこいとさん(右)=輪島市
被災地への思いを語る佐野さん

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